トップ講義一覧第8章
第 8 章 ・ 変更

経路を変える・薬を変える

なぜ変えるのか/換算して少し減らす理由/内服できなくなったとき/持続皮下注と早送り。

薬を変える場面は、たいてい患者の状態が動いたときです。飲めなくなった、副作用が出た、効かなくなった。変えること自体は難しくありませんが、換算をそのまま当てはめると過量になります。理由から先に押さえます。
§ 1

変える理由は3つ

理由場面変える方向
飲めない嘔吐、嚥下困難、消化管閉塞、意識の低下経路を変える(§3)。成分はそのままでよいことも多い
副作用眠気、せん妄、ミオクローヌス、頑固な便秘、掻痒成分を変える。腎機能が落ちているならモルヒネから離れる(第4章 §3)
効かない増やしても取れないまず増やす以外の手を考える(第7章)。それでも合わなければ成分を変える
「効かないから変える」の前に、痛みの種類を確かめてください。神経障害性の痛みは、成分を変えても取れないことがあります。変えるべきは経路でも成分でもなく、足す薬かもしれません(第7章 §2)。

飲めなくなったときに成分まで変える必要はありません。同じ成分に注射があるなら、経路だけを変えるのがいちばん安全です。ヒドロモルフォンは経口の徐放錠・速放錠と注射が揃っており、そのままつなげられます

§ 2

換算して、少し減らす

成分や経路を変えるときは、いまの量を経口モルヒネ換算に直し、そこから次の薬の量を出します。計算はオピオイド換算ツールに入れてあるので、この講義に換算表は置きません

換算する → 2割ほど減らす → レスキューを決め直す → 見に行く
換算した量をそのまま出さず、2割ほど減らして始めます。オピオイドどうしの交差耐性は完全ではなく、同じ換算量でも新しい薬のほうが強く出ることがあるためです。足りなければレスキューで補い、翌日に上げられます。過量は取り返しがつきにくい。
変更の型減らすか
同じ成分の経口製剤どうし(速放と徐放の入れ替えなど)減らさない。1日総量は同じでよい
成分が変わる2割ほど減らす
経路が変わる(経口から注射など)2割ほど減らす
痛みが強く、いま取れていない減らさずに始めることもある。そのぶん見に行く回数を増やす

そしてレスキューを決め直します。新しい1日量の6分の1が目安です(第5章 §2)。ここを前の薬のまま残すと、定時薬だけ変わってレスキューが合わない状態になります。

切り替えた日は、いつもより頻繁に見に行きます。効きすぎていないか(眠気・呼吸数)、足りていないか(レスキューの回数)。切り替えは、量を決め直す作業を1日で行うということです。
§ 3

内服できなくなったとき

経路向く場面気をつけること
貼付剤状態が落ち着いていて、量があまり動かない時期立ち上がりが遅く、剥がしても効果がしばらく残る。量を細かく動かす時期には向かない
坐剤短期間のつなぎ下痢や肛門病変があると使えない
持続皮下注飲めなくなったときの主役。在宅でも使える静脈路が要らない。刺入部の発赤を見る
持続静注すでに点滴路がある、大量が要るルートの管理が要る
持続皮下注は、飲めなくなった患者の標準的な受け皿です。静脈を確保しなくてよく、在宅にも持って行けます。レスキューは1時間量の早送りで行うのが基本で、押した回数がそのまま記録に残るため、翌日の調節がしやすくなります。

ヒドロモルフォンは、経口の徐放錠・速放錠注射が同じ成分で揃っています。内服できているうちは経口で、飲めなくなったら同じ成分の注射へ。成分を変えずに経路だけ動かせるのは、切り替えの失敗が減るという意味で大きな利点です。

貼付剤は、温めると吸収が増えます。発熱、電気毛布、湯たんぽ、長い入浴。貼付部位が温まると血中濃度が上がり、眠気や呼吸抑制につながります。発熱している患者に貼りっぱなしにしないこと、患者と家族に温めないよう伝えることを、貼るときに一緒に話します。

もうひとつ、貼付剤は剥がしたあとも皮下から吸収が続きます。副作用が出たときに剥がしただけでは、すぐには消えません。中止したあとしばらくは、眠気と呼吸数を見続けます。

§ 4

飲めなくなるのは、たいてい急ではない

嚥下が落ちてから慌てて切り替えると、その日のうちに指示を作り、機器を手配し、家族に説明することになります。数日前から兆しは出ています。

兆し意味
錠剤が飲みにくいと言う。むせる剤形を変えるか、経路を変える準備を始める
食事量が落ちた。飲水も減った脱水と腎機能低下。モルヒネなら成分の見直しも(第4章 §3)
日中うとうとする時間が増えた予後の見立てが変わる。第10章
吐き気で薬が飲めない日があるその日だけ飲めていない。痛みの悪化として現れる
在宅では、切り替えの準備に日数がかかります。持続皮下注の機器、麻薬を扱える薬局、訪問看護の体制。飲めなくなってから探し始めると間に合いません。予後が週単位に入ったら、飲めなくなったときにどうするかを先に決めておきます(第10章)。
§ 5

症例で確認

75歳男性。膵癌、肝転移。入院中。予後は週単位と見込まれている。
ヒドロモルフォン徐放錠 12mg/日 分1、レスキューはヒドロモルフォン速放錠 2mg/回。痛みは安定していた。
本日、朝から嘔吐を繰り返し、内服できない。腹部は平坦、腸蠕動音は減弱、排ガスあり。閉塞を示す所見は今のところない。
意識は清明。呼吸数 16/分。前日のレスキューは2回で、いずれも効いていた。
点滴路は確保されていない。本人と家族はできれば家に帰りたいと話している。

今日どう組み替えるかを考えてください。

1成分を変えるか、経路だけ変えるか
経路だけ変えます。いまの薬は効いていて、副作用も出ていません。変える理由は「飲めない」だけです(§1)。
ヒドロモルフォンには同じ成分の注射があります。成分を変えずに経路を動かせるので、切り替えの不確実さがいちばん小さい。
ここで別の成分に変えると、換算の誤差と交差耐性の不完全さが同時に乗ります。変える要素は一度にひとつにします。
2どの経路を選ぶか
持続皮下注が第一候補です。
点滴路がない   → 静脈路の確保が要らない皮下注が有利 家に帰りたい   → 在宅に持って行ける 量が動きうる時期 → 細かく調節できる
貼付剤は選びにくい場面です。立ち上がりが遅く、剥がしても効果が残るため、これから量が動く時期には合いません(§3)。
持続静注は、点滴路を新たに取る必要があり、在宅への移行も皮下注より重くなります。
3量とレスキューをどう決めるか
経口から注射へ経路が変わるので、換算したうえで2割ほど減らして始めます(§2)。換算そのものはオピオイド換算ツールで出します。
減らす根拠は、いまの痛みが安定していることです。前日のレスキューは2回で、いずれも効いていました。取れていない痛みを抱えているなら、減らさずに始めて頻回に見る選択もあります。
レスキューは決め直します。持続皮下注なら1時間量の早送りが基本です。前の速放錠2mg/回をそのまま残さないこと。
切り替えた日にやること  換算して2割ほど減らして開始  レスキューを1時間量の早送りに設定し直す  眠気・呼吸数・刺入部をいつもより頻回に見る  嘔吐の原因を並行して評価する(第6章 §2)  在宅の準備を今日から動かす(機器・薬局・訪問看護)
成分は変えず、ヒドロモルフォンの持続皮下注へ。換算して2割ほど減らし、レスキューは1時間量の早送りに決め直す。切り替え当日は頻回に見に行き、在宅の手配を同時に始める。
この章の持ち帰りは、変える要素は一度にひとつということと、換算した量をそのまま出さないことです。
この章の要点
次のステップ
第9章:痛み以外の苦痛呼吸困難/嘔気と消化管閉塞/せん妄/食欲不振と悪液質 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。