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第 4 章 ・ 選択

オピオイドを選ぶ

選ぶ軸は4つ/6成分の性格/腎機能で変わること/突出痛だけに使う製剤。

どのオピオイドを選ぶかで悩む時間は、実はあまり長くありません。腎機能と、飲めるかどうかで、候補はほとんど絞れます。残りは副作用の出方と痛みの性質で決めます。強さの順に並んだ表は要りません。
§ 1

4つの軸で絞る

見るもの効いてくる場面
腎機能eGFR、尿量、脱水モルヒネを避けるかどうか(§3)
飲めるか嚥下、嘔吐、消化管閉塞、意識内服か、貼付か、注射か(第8章)
副作用の出方すでに便秘か、眠気が強いか、せん妄があるか成分を変えるか、量を変えるか(第6章)
痛みの性質神経障害性の成分があるか鎮痛補助薬を足すか、メサドンを考えるか(第7章)
最初の一手で迷ったら、腎機能が保たれていて内服できる患者にはオキシコドン徐放錠かヒドロモルフォン徐放錠。どちらも扱いやすく、あとから切り替えもききます。迷って始めないことのほうが害になります。

成分ごとの強さの比は、換算のときにだけ必要になります。数字はオピオイド換算ツールに入れてあるので、この講義では持ちません。同じ数値を2か所に置くと、片方が古くなります。

§ 2

6つの成分の性格

成分剤形性格
モルヒネ速放・徐放・坐剤・注射いちばん古く、剤形が揃っている。呼吸困難に使える(第9章)。腎機能低下では避ける
オキシコドン速放・徐放・注射扱いやすく、最初の一手にしやすい。剤形も一通り揃っている
ヒドロモルフォン速放・徐放・注射徐放は1日1回。同じ成分の注射があり、内服から注射へそのままつなげられる(第8章)
フェンタニル貼付・注射・口腔粘膜吸収便秘が比較的少ない。腎機能低下でも使いやすい。貼付は立ち上がりが遅い
タペンタドール徐放錠のみμ受容体への作用に加えノルアドレナリン再取り込み阻害を持つ。消化器症状が比較的少ない。剤形が徐放錠だけなので、飲めなくなると続けられない
トラマドール速放・徐放弱オピオイド。上限がある。けいれん閾値を下げる。セロトニン作用のある薬との併用に注意

メサドンも強オピオイドですが、位置づけが違います。適応は他の強オピオイドで治療困難ながん疼痛で、必ず他剤から切り替えて使います。神経障害性の痛みに期待できる一方、処方には講習の受講と登録が要り、心電図の管理も必要です。第7章で扱います。

剤形が揃っているかどうかは、思っているより効いてきます。タペンタドールは徐放錠しかないため、内服できなくなった時点で別の成分に切り替えることになります。その患者が数週間後に飲めているかを想像して選ぶと、切り替えの回数が減ります。
§ 3

腎機能で変わること

ここが選択でいちばん効く軸です。モルヒネは活性を持つ代謝物が腎から出ていきます。腎機能が落ちるとそれがたまり、傾眠、ミオクローヌス、呼吸抑制として出ます。

腎機能選び方
保たれているどれでもよい。オキシコドンかヒドロモルフォンから入ることが多い
低下しているモルヒネを避ける。フェンタニルやヒドロモルフォンが使いやすい。オキシコドンは量を控えめに
透析中フェンタニルが選ばれることが多い。専門科と相談する
腎機能は途中で落ちます。選んだ時点で保たれていても、食べられなくなり脱水になり、数日で変わります。眠気が急に強くなった、手足がぴくつくという変化を見たら、腎機能とモルヒネを疑ってください(第6章)。eGFR 計算ツールで確認できます。

肝機能も見ますが、実務では腎機能ほど選択を変えません。高度の肝障害では、どの成分でも量を減らして間隔を空けるという共通の対応になります。

§ 4

突出痛だけに使う製剤

フェンタニルの口腔粘膜から吸収される製剤(舌下錠とバッカル錠)は、突出痛のためだけの薬です。効き始めが速く、切れるのも速い。定時薬としては使えません。

この製剤の量は、定時薬の1日量から換算できません。ふつうのレスキューは1日量の1/6で決まります(第5章)が、この製剤だけは違います。最小用量から始めて、効くところまで一段階ずつ上げて決めます。アブストラル舌下錠なら100μgから、と決まった手順があります。
ふつうのレスキューフェンタニル口腔粘膜吸収製剤
量の決め方定時薬1日量の1/6(第5章)換算しない。最小用量から段階的に決める
製剤どうし同一成分なら比較で考えられる舌下錠とバッカル錠のあいだで用量を読み替えない
向く場面ほとんどの突出痛立ち上がりが速く短時間で終わる突出痛

オピオイド換算ツールでもこの2製剤は換算の対象から外してあります。換算表に数字が無いことが、そのまま「換算してはいけない」という意味です。

使うには、定時のオピオイドで持続痛が抑えられていることが前提です。持続痛が取れていない患者にこの製剤を重ねても、突出痛の形になっていないので効きません。まず定時薬を整えます。

§ 5

症例で確認

81歳男性。前立腺癌、多発骨転移。施設入所中。
腰背部痛に対してモルヒネ徐放錠 60mg/日 分2 を3週間内服し、痛みは落ち着いていた。
3日前から食事量が落ち、飲水も減っている。
本日、日中もうとうとしていると施設から連絡。呼びかけには開眼するが会話が続かない。
呼吸数 12/分。血圧 108/62、脈拍 88。手足がときどきぴくつく
採血:Cr 1.8(3週間前は0.9)、BUN 42、Na 138、血糖 96。

何が起きていて、次に何をするかを考えてください。

1この眠気の原因は何か
3週間安定していた量で、薬を増やしていないのに眠気が出たのがポイントです。薬の量が変わっていないなら、変わったのは患者のほうです。
Cr が 0.9 から 1.8 に上がり、BUN 42。経口摂取の低下による脱水で腎機能が落ちています。モルヒネの活性代謝物は腎から出ていくため、排泄が落ちてたまります。
手足のぴくつき(ミオクローヌス)は、この蓄積を強く示唆する所見です。眠気とミオクローヌスが揃ったら、まずここを疑います。
2ナロキソンを使うか
使いません。呼吸数12/分は保たれており、呼びかけで開眼します。緊急に拮抗する状態ではありません。
ここでナロキソンを打つと、蓄積したオピオイドの効果を一気に外すことになり、3週間抑えていた骨転移痛が急に戻り、離脱症状も起こします。取り返しがつきにくい。
やるのは、脱水を補正し、モルヒネを減量するか他の成分へ切り替えることです。判断の線引きと、本当に拮抗が要る場面は第6章で扱います。
3どの成分に切り替えるか
腎機能が落ちた患者ではモルヒネを避けます。候補はフェンタニルかヒドロモルフォンです。
飲めている  → ヒドロモルフォン徐放錠(1日1回) 飲めない   → フェンタニル貼付剤、または注射へ(第8章)
この患者は食事量が落ちていて、今後も飲めるとは限りません。数週間後に飲めているかを考えると、剤形の選択肢が多い成分が安全です。
切り替えの換算と、切り替え時に量を控えめにする理由は第8章で扱います。腎機能はeGFR 計算ツールで追い、脱水が戻れば必要量も変わるので切り替えたあとも見に行きます
脱水による腎機能低下で、モルヒネの活性代謝物が蓄積した状態。ナロキソンではなく、補液と減量・成分の切り替えで対応する。
この章の持ち帰りは、腎機能は選んだあとも動くということです。眠気とミオクローヌスが揃ったら、量ではなく腎機能を見に行きます。
この章の要点
次のステップ
第5章:定時薬とレスキューを組むレスキューは1日量の1/6/増やす根拠/効果判定の間隔 講義一覧に戻る章の一覧
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