アセトアミノフェンとNSAIDsの使いどころ/三段階ラダーは階段ではない/強オピオイドの開始量/麻薬処方の実務。
アセトアミノフェンとNSAIDsは、ある量を超えると増やしても効果が伸びません。副作用だけが増えます。これを天井効果と呼びます。オピオイドにはこの天井がなく、必要なだけ増やせます。この違いが、切り替えの判断そのものです。
ただし天井が無いのは鎮痛の話です。呼吸困難に対するオピオイドには頭打ちがあり、やみくもに増やしません(第9章 §2)。
| アセトアミノフェン | NSAIDs | |
|---|---|---|
| 用量 | 1回300〜1000mg、投与間隔は4〜6時間以上。1日総量4000mgが限度 | 薬剤ごと。上限を超えて増やさない |
| 得意な痛み | 広く効く。単独では力不足のことが多い | 炎症を伴う痛み。骨転移痛や腫瘍による炎症に強い |
| 気をつけること | 肝障害。常用飲酒、低体重、低栄養では減らす。市販の総合感冒薬にも入っており重複しやすい | 腎障害、消化性潰瘍、心血管イベント、血小板機能。高齢・脱水・腎機能低下では慎重に |
オピオイドを始めたあとも、非オピオイドは原則として続けます。効いている土台を外す理由がありません。効いていないと判断したときだけ中止します。
アセトアミノフェンの投与間隔は4〜6時間以上、ロキソプロフェンは1日3回。どちらも「食後」と決まっているわけではありません。食事の回数に薬を合わせるのではなく、薬が効いている時間に合わせて時刻を決めます。
ただしNSAIDsは空腹時の投与を避けることが望ましいとされています。眠前に回すなら、少し食べてもらうか、胃粘膜保護を併せて考えます。時刻をずらす判断と、胃を守る判断はセットです。
三段階除痛ラダーは、非オピオイド、弱オピオイド、強オピオイドの3段を示した図です。これを必ず順に上る手順だと読むと、強い痛みの患者に弱オピオイドを何日も試すことになります。
世界保健機関の2018年のガイドラインでは、第2段階(弱オピオイド)を必ず経由するという前提が外されました。多くの患者は結局第3段階を必要とし、弱オピオイドを挟むぶんだけ鎮痛が遅れるためです。
出典:World Health Organization. WHO Guidelines for the Pharmacological and Radiotherapeutic Management of Cancer Pain in Adults and Adolescents. 2018.
いまも残っている原則は、段ではなく使い方のほうです。
| 原則 | 中身 |
|---|---|
| 経口的に | 飲めるなら内服で。注射や貼付は、飲めないか吸収できないときに選ぶ(第8章) |
| 時刻を決めて | 定時薬は痛くなくても決まった時刻に飲む。痛くなってから飲む形にしない。間隔が均等になる時刻にする(§1) |
| 患者ごとに | 正しい量は、その患者で効いて副作用が許容できる量。決まった数字はない |
| 細かい配慮を | レスキュー、下剤、嘔気時の指示、飲み方の説明までを一組で出す |
オピオイドを使っていない患者に始めるときの、添付文書上の開始量です。ここから始めて、効果と副作用を見ながら調節します。調節の仕方は第5章、薬の選び分けは第4章で扱います。
| 薬 | 開始量 | 備考 |
|---|---|---|
| モルヒネ徐放錠 | 1日20mgを2回に分割 | 腎機能低下で代謝物がたまる。呼吸困難にも使える(第9章) |
| オキシコドン徐放錠 | 1日10mgを2回に分割 | 使いやすく、最初の一手にしやすい |
| ヒドロモルフォン徐放錠 | 1日4mgを1回 | 1日1回でよい。同じ成分の注射があり経路変更が楽(第8章) |
| フェンタニル貼付剤 (1日製剤) | 0.5mg | がん疼痛では未使用の患者にも開始できるが、血中濃度の立ち上がりが遅く至適用量の決定に時間がかかる。痛みが動いている時期の第一選択にはしにくい |
| トラマドール | 1日100mgを4回に分割 | 弱オピオイド。上限がある |
そして、オピオイドを単独で処方しません。始めるときに同時に出すものが決まっています。
この4つが揃っていない処方は、夜間にコールを呼びます。処方の場で飲み方も説明します。徐放錠は噛まずに飲むこと、レスキューはいつ使ってよいか、使ったら記録すること。
医療用麻薬は法律上の扱いが決まっていて、処方箋の書き方から残った薬の返し方まで手順があります。研修医が最初につまずくのはここです。
| 決まっていること | |
|---|---|
| 処方できる人 | 都道府県知事の免許を受けた麻薬施用者だけ。研修医が自分の名前で出せるかは施設の運用による |
| 処方箋の記載 | 通常の記載に加えて患者の住所と麻薬施用者免許証の番号が要る。院外処方箋で落とすと薬局から差し戻される |
| 受け取れる薬局 | 麻薬小売業者の免許を持つ薬局に限られる。退院処方や在宅移行では、その薬局が近くにあるかを先に確かめる |
| 保管 | 鍵をかけた堅固な設備に、他の薬と分けて保管する |
| 残った薬 | 患者や家族が捨てない。処方元か調剤した薬局に返す。患者が亡くなったときも同じ |
院内処方箋では、患者の住所・処方箋の使用期間・施設の名称と所在地の記載を省略できます。院外に出すときだけ項目が増えると覚えておくと間違えません。
出典:厚生労働省『医療用麻薬適正使用ガイダンス ~がんの痛みの治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス~』令和6年
飲まれていないことは、残薬を数えれば分かります。痛みが取れないと言われたときは、まず処方どおり飲めているかを確かめます。効かないのではなく飲んでいない、という場面は珍しくありません。
この患者に何を出すか、何を話すかを考えてください。