初期研修医向け 心不全講義
心不全診療ノート
EF の数字ではなく、うっ血と灌流の2軸で患者を置く。当直の初期対応から慢性期の4本柱まで。
82歳女性。2週間前からの労作時息切れと両下腿浮腫で夜間受診。高血圧・心房細動の既往。
胸部X線は「軽度のうっ血像はあるが心拡大なし」。心エコーで EF 62%(正常) を確認した。
研修医は「収縮は保たれている=心不全ではない」と判断し、加齢と運動不足でしょうと説明して帰宅させた。
4日後、起坐呼吸と SpO₂ 88% で救急搬送。急性心不全(肺水腫)として NPPV・入院となった。
| 項目 | 初回受診時 | 4日後 |
| 血圧 | 158/92 mmHg | 182/104 ↑ |
| 脈拍 | 96 /分(不整) | 124 /分(不整) |
| SpO₂(室内気) | 94 % | 88 % ↓↓ |
| 頸静脈 | 怒張あり | 著明な怒張 |
| 下腿浮腫 | 両側 pitting | 増悪 |
| LVEF | 62 %(正常) | 60 %(正常) |
| BNP | 測定せず | 480 pg/mL |
❌ よくある間違い
「EF が正常 → 心臓は元気 → 心不全ではない」。
EF は収縮の指標にすぎず、うっ血しているかどうかは何も教えてくれません。
→ 頸静脈怒張と両下腿浮腫といううっ血の証拠は、初回受診時からそこにありました。
⚡ HFpEF(LVEF ≧ 50% の心不全)は心不全患者のおよそ半数を占める
⚡ 心不全の診断は EF の数字ではなく、症状+うっ血の所見で行う
初回受診時に BNP を測り、頸静脈怒張・下腿浮腫をうっ血として拾えていれば、外来で利尿薬を開始し入院を回避できた可能性が高い。高齢・高血圧・心房細動は HFpEF の典型的な背景でもあった。
心不全は EF の数字ではなく、うっ血と灌流の2軸で患者を置く。
第1章から順に学んでいきましょう。
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学習進捗
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第1章から始めましょう
第1部 ・ 心不全をとらえる
1
心不全とは定義とステージA〜D/LVEFによる分類(HFrEF・HFmrEF・HFpEF)/HFimpEF
2
疑う・診断する身体所見の感度と特異度/BNP・NT-proBNPの使い方と落とし穴/胸部X線・心エコー
第2部 ・ 急性期の判断
3
急性心不全の初期対応うっ血と灌流の2軸/Nohria分類とCS分類/酸素とNPPV/いつ循環器を呼ぶか
4
うっ血と利尿薬フロセミド初回量の決め方/効果判定/利尿薬抵抗性/腎機能悪化をどう読むか
第3部 ・ 慢性期の治療
5
慢性期治療の4本柱ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬/なぜ4剤を早期から始めるのか
6
導入の実際と落とし穴血圧が低い・腎機能が悪い・Kが高いときどうするか/増量のタイミング
7
HFpEFと合併症HFpEF・HFmrEFの治療/心房細動の合併/心腎連関/高齢者とフレイル
第4部 ・ つなぐ
8
退院・在宅・再入院予防体重モニタリング/増悪の早期サイン/在宅での評価/意思決定支援
まとめ
まとめ早見表(チートシート)分類・BNPの目安・Nohria分類・利尿薬・4本柱の用量を1ページに
薬剤リファレンス4本柱と利尿薬の開始量・目標量・注意点をまとめた当直リファレンス
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関連サイト
MedCalc Tools — medcalcs.app救急・循環器・糖尿病など医療計算ツール
このシリーズについて
心不全が難しく感じられる最大の理由は、EF という1つの数字に判断を預けようとすることです。しかし EF が教えてくれるのは「収縮の強さ」だけで、患者が今溺れているのか(うっ血)、末梢に血が届いていないのか(低灌流)は何も語りません。この2つを分けて見られるようになると、急性期の初期対応も、慢性期の薬の選び方も、同じ地図の上に乗ってきます。
このシリーズは、当直での初期対応から、入院中の調整、退院後の再入院予防までを1本の流れとして扱います。各章は概ね15〜20分。読了ボタンを押すと進捗が保存され、次回の続きがすぐわかります。データはすべてこの端末のみに保存され、外部には送信されません。
本シリーズは 2025年改訂版「心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会)を主な拠りどころとしています。
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準・薬剤の扱いはあくまで一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。