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第 4 章 ・ 急性期

うっ血と利尿薬

フロセミドの初回量をどう決めるか/効いたかどうかを何で見るか/効かないときに何を足すか/そして「腎機能が悪化した」をどう読むか。

利尿薬は心不全診療でいちばん多く使う薬でありながら、雑に使われがちな薬でもあります。浮腫があるからフロセミド40mg、で止まらず、量の決め方・効果判定・効かないときの次の一手まで踏み込みます。うっ血を取りきれずに退院した患者は、高い確率で戻ってきます。
§ 1

なぜうっ血を取りきることが大事なのか

急性心不全で入院した患者の症状は、多くの場合数日で改善します。しかし症状が取れることと、うっ血が取れきることは違います

退院時にうっ血が残っている(residual congestion)患者は、症状が軽快していても再入院率と死亡率が高いことが知られています。だからこそ、退院を判断する基準は、息切れが取れたかではなく、頸静脈・体重・浮腫が戻ったかであるべきです。

目標は症状が取れることではなく
うっ血が取れきること頸静脈怒張の消失・浮腫の消退・体重がドライウェイトに戻ること。
ここを妥協すると第8章(再入院予防)が成り立たなくなる。
§ 2

フロセミドの初回量を決める

急性期は静注を選びます。腸管もうっ血しているため、経口では吸収が不安定だからです。初回量は普段の内服量を基準に決めます。

患者背景フロセミド静注の初回量(目安)
利尿薬を使っていない20 〜 40 mg 静注
すでに内服している普段の経口1日量の 1 〜 2.5 倍に相当する量を静注
例:フロセミド40mg/日を内服中 → 40〜100mg 相当を静注で
腎機能低下・高度うっ血より高用量を要することが多い
尿細管に届く薬物量が減るため
内服中の患者にいつもと同じ量を静注しても足りません。すでにその量では足りなくなって増悪しているのですから、同量では意味がありません。普段の量より増やすのが原則です。逆に、利尿薬を使ったことのない患者に高用量を入れれば、容易に脱水と腎障害を起こします。背景で量が変わることを押さえてください。
持続静注と間欠静注のどちらが優れるかについては、明確な差は示されていません。施設の慣習に従って構いませんが、いずれの場合も効果を見て調整することのほうがはるかに重要です。
§ 3

効いたかどうかを何で見るか

投与したら、必ず効果を判定して次の量を決めます。判定は早いほうがよく、投与から2〜6時間後には尿量で当たりがつきます。

最速
尿量
投与後2〜6時間の尿量。反応が乏しければその日のうちに増量する。翌朝まで待たない。
毎日
体重
毎朝・同条件で測る。1日あたり 0.5〜1.0 kg の減少が現実的な目安。
毎日
頸静脈・浮腫
最も直接的なうっ血の指標。体重よりも信頼できることがある
適宜
腎機能・電解質
Cre・BUN・K・Na。とくに K は補正しながら進める。
反応が悪いのに同じ量を続けるのが、よくある失敗です。フロセミドには閾値(threshold)があり、一定量を超えないと尿は出ません。効かないときに必要なのは、待つことではなく増やすことです。倍量にするのが実務上の基本的な考え方になります。
in-out バランスと体重が食い違うときは、体重を信じてください。尿量の記録漏れ、不感蒸泄、経口摂取量の過小申告など、バランスシートは容易にずれます。毎朝同じ条件で測った体重のほうが、体液量の変化をよく反映します。
§ 4

利尿薬が効かないとき(利尿薬抵抗性)

十分量のループ利尿薬を使ってもうっ血が取れない状態を利尿薬抵抗性と呼びます。次の順で考えます。

まず確認:本当に効いていないのか
①量は足りているか 閾値を超えていない可能性。まず倍量にする
②経路は適切か 腸管うっ血で経口が吸収されていない → 静注へ
③灌流は足りているか Nohria C なら利尿薬では解決しない(第3章)。強心薬・循環器コンサルト
④邪魔をしている薬はないか NSAIDs が代表。中止する
⑤塩分・水分が入り続けていないか 食事・点滴・内服の希釈水も含めて見直す
↓ それでも不十分なら
作用部位の違う利尿薬を足す(sequential nephron blockade)

足す薬の選択肢

薬剤作用部位・特徴注意点
サイアザイド系
トリクロルメチアジドなど
遠位尿細管。ループ利尿薬で増えた遠位への Na 再吸収をブロックして相乗効果低K・低Na血症を起こしやすい。頻回の電解質チェックが必須
トルバプタン
バソプレシンV2受容体拮抗薬
水だけを排泄する(水利尿)。低Na血症を伴ううっ血や、電解質を崩したくない場面で有用必ず入院下で開始。急激な血清Na上昇に注意。口渇を感じ、飲水できる状態であることが前提
MRA
スピロノラクトンなど
集合管。利尿効果に加えK保持的に働く高K血症。詳細は第5章
アセタゾラミド近位尿細管。ループ利尿薬への上乗せ効果が報告されている代謝性アシドーシス。血液ガス判読ノート
トルバプタンは、効かないから足す薬ではなく、電解質を守りながらうっ血を取る薬です。低ナトリウム血症を合併したうっ血、あるいはループ利尿薬の増量で低Kが問題になる場面で価値が出ます。低Na血症そのものの評価は 電解質・輸液ノート 第2章 を参照してください。
§ 5

腎機能が悪化したら、やめるべきか

利尿を進めると Cre が上がる。研修医が判断に迷う場面です。結論から言えば、Cre の数字だけでは決められません。うっ血が取れているかどうかとセットで読みます。

許容してよい上昇
うっ血が改善している/症状・体重・頸静脈がよくなっている/尿は出ている/血圧・灌流は保たれている
利尿は続けてよい。この Cre 上昇は予後を悪くしないとされる
危険な上昇
うっ血が取れていないのにCre が上がる/血圧低下・四肢冷感・乏尿を伴う/乳酸上昇
低灌流(Nohria C)を疑う。利尿を止め、灌流の立て直しへ
うっ血が取れながらの Cre 上昇は許容
うっ血が取れないままの Cre 上昇は危険信号同じ検査値でも、うっ血の状態によって意味が正反対になる。
心不全における腎機能悪化には、静脈側の要因があります。腎うっ血(中心静脈圧の上昇)そのものが糸球体濾過を妨げるため、うっ血を取ることで腎機能が改善することがしばしば起こります。腎臓が悪いから利尿を控える、という反射的な判断が、かえって腎機能を悪化させる場面があることを知っておいてください。
§ 6

症例で確認

76歳女性。慢性心不全(LVEF 35%)でフロセミド 40mg/日を内服中。1週間で体重が 4kg 増え、下腿浮腫と息切れで入院。
入院時:血圧 128/76 mmHg、脈拍 88/分、四肢は温かい。頸静脈怒張あり、両下腿に著明な浮腫。Cre 1.2 mg/dL、K 3.8 mEq/L、Na 138 mEq/L。
研修医はフロセミド 40mg を静注した。
6時間後:尿量 250mL、体重の変化はほとんどなし。研修医は「明日の朝まで様子を見ます」と言っている。
1初回量の設定は適切だったか
不足していました。この患者はすでにフロセミド40mg/日を内服中です。その量では足りなくなって増悪したのですから、同じ40mgを静注しても届きません。
内服中の患者の初回静注量  = 普段の経口1日量の 1 〜 2.5 倍  = 40mg × 1〜2.5 = 40 〜 100mg 相当
いつもと同じ40mg は、この範囲の下限にあたります。うっ血が高度であることを考えれば、はじめからもう一段上を選ぶ余地がありました。
2「明日の朝まで様子を見る」でよいか
待ってはいけません。6時間で尿量250mL、体重も動いていない――これは反応不良の判定がすでに出ているということです。
フロセミドには閾値があり、届かなければ何時間待っても尿は出ません。待つことで得られるのは失われた半日だけです。
反応不良 → 待つ ✗ 反応不良 → 倍量にする ○
この場面での実務的な対応は、フロセミドを倍量(80mg 相当)にして再評価することです。
3増量しても足りないときは何を足すか
まず抵抗性のチェックリストを回します。灌流は保たれているか(四肢温・血圧128/76 → warm & wet=Nohria B でよさそう)、NSAIDs を飲んでいないか、点滴や食事で塩分・水分が入っていないか。
そのうえで不十分なら、作用部位の違う薬を足します
この患者は K 3.8 とやや低めなので、サイアザイド系を足すと低K血症が問題になりやすい点に注意が要ります。K を補正しながら使うか、電解質を崩しにくいトルバプタンを選ぶかを、上級医と相談して決めます。
初回量が不足(内服中なら1〜2.5倍)。6時間で反応不良なら待たずに倍量へ。
それでも不十分なら、灌流・NSAIDs・塩分を確認したうえで作用部位の違う利尿薬を追加する。反応を見て量を動かすことが、利尿薬を使うということ。
この章の要点
次のステップ
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