初期研修医向け 感染症講義
感染症診療ノート
感染がどこにあるかが決まらないと、薬は届かない。フォーカス・耐性リスク・重症度の3つで治療を決める。
68歳男性。3日前からの発熱と排尿時痛で受診。尿は混濁し、尿沈渣で膿尿と細菌尿。
尿路感染症として入院し、タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)を開始。2日で解熱し、症状も改善した。
7日目に内服へ切り替えて退院。処方は第3世代セフェムの内服薬だった。
2週間後、39℃台の発熱と会陰部痛で再受診。造影CTで前立腺膿瘍が見つかった。
| 項目 | 初回入院時 | 2週間後 |
| 体温 | 38.9 ℃ | 39.4 ℃ |
| 症状 | 排尿時痛・頻尿 | 会陰部痛・排尿困難 |
| 尿沈渣 | 膿尿・細菌尿 | 膿尿 |
| 尿培養 | 大腸菌 | 大腸菌(初回と同一) |
| 直腸診 | 未施行 | 前立腺の腫大と強い圧痛 |
| CRP | 12.4 mg/dL | 18.9 mg/dL ↑ |
| 治療期間 | 7日で終了 | — |
❌ よくある間違い
「尿から大腸菌が出た → 尿路感染 → 尿に出る薬なら効く」。
男性の発熱を伴う尿路感染では、膀胱なのか前立腺なのかを分けないと薬も期間も決まりません。
→ それを分ける入口は直腸診で、初回入院では行われていませんでした。
⚡ 前立腺に移行するのはフルオロキノロンやST合剤など。多くのβラクタム内服は前立腺へ十分に移行しない
⚡ 急性前立腺炎の治療期間は2〜4週。尿路感染の感覚で7日で切ると再燃する
⚡ そもそも内服の第3世代セフェムは腸管からの吸収が悪く、実臨床では使わない。血中濃度が上がらないので、移行性より手前の問題として外れている
点滴で一度解熱したのは矛盾ではない。急性期は炎症で前立腺への移行性が上がるため、静注のβラクタムでも初期は効くことがある。落とし穴は解熱したあと、移行性を考えずに内服へ切り替え、尿路感染の感覚で期間を切ったところにあった。フォーカスを前立腺と決めていれば、内服はキノロンかST合剤になり、期間も2〜4週で組めた。
感染症はフォーカス・耐性リスク・重症度の3つが決まれば、治療は自ずと決まる。
第1章から順に学んでいきましょう。
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学習進捗
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第1章から始めましょう
第1部 ・ フォーカスを見つける
1
発熱をみたら感染症らしいか、そうでないか/フォーカス・耐性リスク・重症度という3つの軸/このシリーズの地図
2
フォーカスを探す・身体所見頭からつま先まで/口腔・褥瘡・カテーテル刺入部・関節・皮膚軟部組織・肛門周囲/直腸診をためらわない
3
フォーカスを探す・検査と画像血液・尿・画像の使い分け/培養をどこから何セット採るか/フォーカス不明のときの詰め方
第2部 ・ グラム染色を武器にする
4
グラム染色を自分で染める検体の質を見る(喀痰のGeckler分類)/標本の作り方と染色手順/鏡検の進め方
5
グラム染色で起因菌を読む形・配列・染色性の組み合わせ/白血球に貪食されているか/起因菌と定着菌を分ける
第3部 ・ リスクと重症度をはかる
6
耐性のリスクを評価する90日以内の抗菌薬曝露・施設入所・透析・デバイス・免疫抑制/緑膿菌とESBLをどこまでカバーするか
7
重症度を測るqSOFA・SOFA/敗血症性ショックの認識/肺炎のA-DROP/初期対応で遅らせてはいけないこと
第4部 ・ 治療を組み立てる
8
治療を組み立てる3つの軸から薬を決める/組織移行性(前立腺・髄液・骨・膿瘍)/代表例と、施設の採用薬をどう優先するか
9
治療期間と効果判定疾患ごとに決まっている期間/グラム染色と経過での効果判定/内服への切り替え/狭める判断
まとめ
まとめ早見表フォーカス別の代表薬と、疾患別の治療期間を1枚に
フォーカス別リファレンス肺炎・尿路・腹腔内・皮膚・骨・髄膜・CD腸炎と予防投与を、フォーカスから引く
抗菌薬リファレンス主要抗菌薬がどこまでカバーするかを一覧で確認する
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ツール
抗菌薬 投与量計算eGFR連動で腎機能区分別の投与量と間隔を表示。45剤対応・TDM注意つき
計算ツール
qSOFA スコア敗血症のスクリーニング。3項目をタップして即時判定
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SOFA スコア6臓器の評価。Sepsis-3 の基準に対応
計算ツール
A-DROP スコア市中肺炎の重症度。5項目で軽症から超重症までを判定
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eGFR 計算抗菌薬の投与量設計に。日本人補正・CKD-EPI式・CCr対応
計算ツール
関連サイト
MedCalc Tools — medcalcs.app救急・循環器・糖尿病など医療計算ツール
このシリーズについて
感染症が難しく感じられるのは、覚える菌と薬の数が多いからではありません。感染がどこにあるのかを決めないまま、薬の名前から考え始めてしまうからです。臓器が決まらなければ、その臓器に届く薬かどうかも判断できません。前立腺、髄液、骨、膿瘍の中は、血液中の濃度がそのまま届く場所ではありません。
このシリーズは、フォーカス・耐性のリスク・重症度という3つを順に決めていく形で進みます。この3つが決まると、選ぶ薬も、狭める時期も、いつまで続けるかも、ほとんど自動的に決まります。グラム染色は自分の目で起因菌に近づける数少ない手段なので、2章分を使います。各章は概ね15〜20分。読了ボタンを押すと進捗が保存され、次回の続きがすぐわかります。データはすべてこの端末のみに保存され、外部には送信されません。
抗菌薬の選択と投与量は サンフォードガイドを主な拠りどころとしています。ただし第一選択は施設の採用薬とアンチバイオグラムによって変わります。本シリーズの薬剤名はあくまで代表例として読み、実際の選択は院内の方針を優先してください。
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準・薬剤の扱いはあくまで一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。