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第 4 章 ・ グラム染色

グラム染色を自分で染める

なぜ自分で染めるのか/Geckler分類で検体の質を見る/標本の作り方/脱色が結果を決める/鏡検の進め方。

培養の結果は数日かかりますが、グラム染色は数分で返ってきます。しかも、検体が目的の場所のものかどうかを、培養を待たずに判定できます。この章では研修医が自分で染めて自分で見ることを前提に、検体の質の見方から染色手順、鏡検の進め方までを扱います。読んだ内容は、実際に顕微鏡の前に立って初めて身につきます。
§ 1

なぜ自分で染めるのか

検査室に出せば結果は返ってきます。それでも自分で染める価値は3つあります。

自分で染めると
速い培養は数日、報告も待ち時間がある。自分で染めれば10分で起因菌の見当がつく
検体の質が分かる唾液を提出していたことがその場で分かる。培養結果を3日待って気づくのとは速度が違う
治療が変わるグラム陽性球菌か陰性桿菌かで、初期に選ぶ薬が変わる。効果判定にも使える
グラム染色は「培養の予告編」ではありません。培養で分かるのは菌名と感受性ですが、グラム染色でしか分からないことがあります。白血球が菌を貪食しているか菌が1種類か複数かそもそも検体が下気道のものか。これらは培養結果には出てきません。

本章では模式図や顕微鏡写真は載せていません。実物の見え方は成書や施設の顕微鏡で確認してください。ここで扱うのは手順と、見るべき順序です。

§ 2

染める前に、検体の質を見る

質の悪い検体をどれだけ丁寧に染めても、読み取れるのは通り道の菌です。まず弱拡大で質を判定し、質が悪ければ採り直します。

喀痰では、白血球が多く、扁平上皮が少ないものが下気道由来です。扁平上皮は口腔粘膜の細胞なので、多ければ唾液の混入を意味します。100倍の視野で数えて分類したものが Geckler分類です。

白血球(/視野)扁平上皮(/視野)扱い
1< 10> 25唾液。採り直す
210〜25> 25唾液の混入が多い。採り直す
3> 25> 25混入が多い。採り直す
4> 2510〜25使える
5> 25< 10最も良質
6< 25< 10唾液ではない。好中球減少では有用
4群と5群が使える検体です。1〜3群が出たら、結果を読む前に採り直してください。うがいをしてもらい、深く咳をして出させます。出せない患者では吸引を検討します。
6群は白血球が少ないので一見悪く見えますが、好中球減少の患者では白血球が出てこないだけで、扁平上皮が少なければ下気道の検体として読めます。

尿では膿尿があるかを見ます。喀痰以外の検体でも考え方は同じで、目的の場所の細胞成分があるかを最初に確認します。

§ 3

標本を作る

染色の失敗の多くは、染める前の段階で決まっています。

手順失敗すると
1膿性の部分を選ぶ。喀痰は白く濁った部分、黄色い部分をつまむ透明な部分を塗ると唾液を見ることになる
2スライドガラスに薄く広げる厚いと脱色が届かず、すべて紫に見える
3完全に乾かす濡れたまま固定すると、洗浄で流れる
4火炎固定(軽く数回通す)加熱しすぎると菌の形が壊れる
薄く広げることが要点です。厚い標本はグラム染色の最も多い失敗で、脱色液が中心部まで届かず、グラム陰性菌まで紫に見えてしまいます。読めない標本は作り直すほうが速いです。
§ 4

染める

4段階です。施設によって試薬名や時間が違うので、院内の手順書を優先してください。ここでは何をしているかを押さえます。

操作何が起きているか
1クリスタルバイオレット(紫)すべての菌が紫に染まる
2ヨード液(媒染)紫の色素を菌体内で複合体にして固定する
3脱色(アルコール系)厚い細胞壁を持つ菌は紫を保つ。薄い菌は色が抜ける
4サフラニンなど(赤)色が抜けた菌が赤く染まる
脱色で紫が残る=グラム陽性 / 抜けて赤になる=グラム陰性
結果を決めるのは3番目の脱色です。ここだけが加減の要る操作で、他は時間どおりに置けば済みます。
脱色しすぎ → グラム陽性菌が赤く見える(陰性と誤る) 脱色が足りない → グラム陰性菌が紫に見える(陽性と誤る)
迷ったら、同じ標本の中の白血球の核を目安にします。核まで紫に濃く残っていれば脱色不足です。
§ 5

鏡検の進め方

いきなり油浸で菌を探さないでください。順序があります。

倍率見るもの
1弱拡大(100倍)検体の質。白血球と扁平上皮の数。Geckler分類
2弱拡大標本のなかで白血球が集まっている場所を探し、そこに狙いを定める
3油浸(1000倍)菌の形・配列・染色性。1種類か複数か
4油浸白血球の中に菌がいるか(貪食像)
5油浸複数の視野で確認する。1視野で決めない
白血球のいる場所を狙って油浸に上げます。菌だけを探して視野を動かすと、扁平上皮に付着した口腔内常在菌を拾いやすくなります。白血球のそば、できれば白血球の中にいる菌が、起因菌に最も近い像です。読み方そのものは第5章で扱います。
§ 6

症例で確認

76歳男性。3日前からの発熱と咳、膿性痰。胸部X線で右下肺野に浸潤影があり、市中肺炎として入院。
研修医は喀痰を提出し、あわせて自分でグラム染色を行った
弱拡大で見ると、扁平上皮が視野いっぱいに広がり、白血球はほとんど見えない
油浸に上げると、さまざまな形の菌が何種類も見えた。グラム陽性球菌も、グラム陰性桿菌も、グラム陽性桿菌も混在している。

この標本から、何が言えるでしょうか。

1この検体の質をどう判定するか
扁平上皮が多く、白血球がほとんどない。Geckler分類では1群にあたります。
白血球 < 10 / 扁平上皮 > 25  → 1群=唾液
これは下気道の検体ではなく、唾液です。患者は膿性痰を出せる状態なので、採り直せます。
うがいをしてもらい、深く咳をして白く濁った部分・黄色い部分を出させてください。標本を作るときも、その膿性の部分を選んでつまみます。
2何種類もの菌が見えることをどう読むか
起因菌ではなく、口腔内の常在菌です。口腔内には多種類の菌がいるので、唾液を染めれば当然いろいろな菌が見えます。
単一の菌が優勢に見えることが、起因菌らしさの手がかりになります。何種類も同じくらい見えているときは、検体の質を疑うのが先です。
ここで「グラム陰性桿菌も見えるから緑膿菌をカバーしよう」と考えると、質の悪い検体をもとに広域抗菌薬へ進むことになります。検体の質を判定せずに菌を読んではいけません。
3この標本を検査室に出していたらどうなっていたか
培養に出せば、数日後に口腔内常在菌の名前が並んだ報告が返ってきます。そこで初めて「検体が悪かった」と気づくことになります。
その間、患者は経験的治療のまま経過し、狭める根拠は得られません。自分で染めていれば、この判断は10分で終わっていました。
採り直した検体で、白血球が多く扁平上皮の少ない標本が得られ、そのなかに単一の菌が優勢に見え、白血球に貪食されているなら、それが起因菌である可能性は高くなります。第5章でその読み方に進みます。
Geckler 1群=唾液。菌を読む前に採り直す。
何種類もの菌が見えるのは口腔内常在菌であって起因菌ではない。検体の質を判定せずに菌を読まない。自分で染めれば、この判断は培養を待たず10分でできる。
この章の要点
次のステップ
第5章:グラム染色で起因菌を読む形・配列・染色性の組み合わせ/貪食像/起因菌と定着菌を分ける 第3章に戻るフォーカスを探す・検査と画像 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。