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第 3 章 ・ フォーカス

フォーカスを探す・検査と画像

培養をどこから何セット採るか/検体の質/炎症マーカーで分かること分からないこと/画像の使い分け/フォーカス不明の詰め方。

検査は、身体所見で立てた見込みの答え合わせです。宛先を決めずに出した検査は、陽性でも陰性でも解釈できません。この章で持ち帰ってほしいのは、培養は採り方で結果が変わるということです。同じ患者から採っても、量・部位・タイミング・検体の質で、出るはずのものが出なくなります。
§ 1

培養は採り方で結果が変わる

抗菌薬を選び、あとで狭めるための根拠は培養です。その培養が空振りすると、広域抗菌薬を続けるしかなくなります。採り方の要点を検体ごとに押さえます。

検体要点やりがちな失敗
血液培養2セット別々の穿刺部位から。1セットは好気+嫌気の2本1セットで済ませる/同じ部位から2本採る
血液培養の量採血量が陽性率を最も左右する。1本あたり規定量を入れる少量しか入れず、陰性を「菌血症なし」と読む
喀痰唾液ではないものを出させる。うがい後、深く咳をして採る唾液を提出し、口腔内常在菌を起因菌と読む
尿中間尿。留置カテーテルがあるなら新しいものに入れ替えてから採る古いカテーテルのバッグから採り、バイオフィルムの菌を拾う
創部表面のぬぐいではなく深部の検体・組織表面のスワブで定着菌を拾い、それに合わせて薬を変える
髄液・関節液・胸水抗菌薬の前に採る。採取したらすぐ提出提出が遅れて菌が死ぬ
血液培養は2セット採ります。理由は2つあります。1セットでは菌血症を拾いきれないこと、そして汚染との区別がつかないことです。皮膚常在菌が1セットだけから出たなら汚染を考え、2セットとも同じ菌が出たなら本物として扱う、という判断ができます。1セットしか採っていないと、この判断そのものができません。

ただし例外があります。黄色ブドウ球菌が血液培養から出たら、1セットでも汚染として扱いません。この菌は血管内に居座り、心臓弁や脊椎に飛びます。出た時点で「どこに巣を作っているか」を探し始める菌です。第5章でもう一度扱います。

§ 2

検体の質を見る

提出された検体が目的の場所のものかを、培養の結果より先に確認します。質の悪い検体から出た菌は、起因菌ではなく通り道の菌です。

検体質の指標質が悪いと
喀痰白血球が多く、扁平上皮が少ないものが下気道由来。扁平上皮が目立つものは唾液口腔内常在菌が並び、起因菌が埋もれる
尿採取方法と、膿尿があるか無症候性細菌尿を治療してしまう
創部深部から採ったか定着菌に合わせて広域抗菌薬に変えてしまう
検体の質は、自分でグラム染色を見れば培養結果を待たずに分かります。喀痰なら、扁平上皮ばかりの標本を見た時点で「採り直し」と判断できます。培養の結果が返ってから3日後に気づくのとは、まったく速度が違います。第4章で染め方から扱います。
§ 3

炎症マーカーで分かること、分からないこと

白血球・CRP・プロカルシトニンは、フォーカスを教えてくれません。どこに感染があるかは、これらの数字からは決して分かりません。

使えること限界
白血球その場で分かる。左方移動は参考になる重症では減ることがある。ステロイドで上がる
CRP経過を追う目安になる上がるのも下がるのも遅れる。発症早期は低い。感染以外でも上がる
プロカルシトニン細菌感染でより上がりやすいこれだけで抗菌薬の要否を決められない。腎機能や手術後で修飾される
乳酸組織灌流の指標。重症度の評価に使う感染の有無やフォーカスは分からない
CRPを毎日追いかけて治療を変えないでください。CRPは反応が遅れるので、良くなっている患者でも翌日は上がっていることがあります。判断の主役はバイタル・意識・食事摂取・局所の所見です。数字だけを見て抗菌薬を変えると、効いている薬を捨てることになります。効果判定は第9章で扱います。
§ 4

画像は身体所見の宛先に撮る

画像も同じで、どこを見たいかが決まってから撮ります。全身を漠然と撮る前に、身体所見で当たりをつけてください。

検査向くもの注意
胸部X線肺炎、胸水の当たりをつける早期や脱水では写らないことがある。陰性は否定にならない
腹部エコー胆嚢、胆管拡張、水腎ガスと体型に左右される。術者によって差が出る
造影CT膿瘍の検出、腹腔内・後腹膜、フォーカス不明の全身検索腎機能とアレルギー。膿瘍は造影しないと見つけにくい
心エコー感染性心内膜炎の疣贅経胸壁で陰性でも否定できない。疑いが強ければ経食道を考える
MRI化膿性脊椎炎、硬膜外膿瘍、骨髄炎撮るまでに時間がかかる。疑ったら早く動く
「膿があるかどうか」を画像で確かめる意味は大きいです。第1章で見たとおり、膿瘍は抗菌薬だけでは治りません。解熱しない患者で造影CTを撮る目的は、菌を探すことではなくドレナージすべきものがあるかを決めることです。
§ 5

フォーカス不明のときの詰め方

全身を診て、培養を採って、それでも分からないことはあります。そのときは順序を決めて詰めます。

やること
1病歴を取り直す。渡航、動物との接触、生ものや井戸水、職業、性交渉、歯科処置、手術歴、内服薬
2もう一度、全身を診る。時間が経って所見が出てくることは多い
3血管内デバイスを疑う。点滴、ポート、透析シャント、ペースメーカー
4薬剤熱を疑う。被疑薬を止めて反応を見る
5造影CT、心エコー、必要ならMRI
6感染以外を考え直す(第1章の表に戻る)
抗菌薬をすでに始めているなら、止めて培養を採り直すという選択肢があります。状態が安定していることが前提ですが、フォーカスも起因菌も分からないまま広域抗菌薬を続けるより、いったん止めて採り直すほうが、その後の数週間を短くします。ただし不安定な患者では行いません。上級医と相談する場面です。
§ 6

症例で確認

70歳男性。維持血液透析中(左前腕に内シャント)。
透析中に 39.2℃ の発熱と悪寒戦慄。血圧 104/60 mmHg、脈拍 108/分。
咳・痰はなく、排尿時痛もない。腹部は柔らかく圧痛なし。胸部X線で明らかな浸潤影なし。
研修医は「フォーカス不明の発熱」と判断し、血液培養を1セットだけ提出して広域抗菌薬を開始した。
翌日、グラム陽性球菌がブドウの房状に見えたと報告があった。

この報告を受けて、何を考え、何をしますか。

1血液培養が1セットしかないことの意味
通常なら、皮膚常在菌が1セットだけから出た場合は汚染の可能性を考えます。2セット採っていれば「2セットとも陽性か」で判断できましたが、1セットではその判断ができません
さらに、悪寒戦慄は菌血症を強く示唆する所見です。この患者は「フォーカス不明」ではなく、血流感染を疑うべき患者でした。
今からでも追加で血液培養を採ります。抗菌薬が入ったあとでも、陽性が続いているかどうかは治療期間の判断に効いてきます。
2ブドウ状のグラム陽性球菌をどう扱うか
ブドウ状に並ぶグラム陽性球菌はブドウ球菌です。ここで分かれるのが黄色ブドウ球菌か、皮膚常在のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌かです。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 → 1セットのみなら汚染を考える 黄色ブドウ球菌 → 1セットでも汚染として扱わない
黄色ブドウ球菌なら、感染巣を探しに行く必要があります。血管内に居座り、心臓弁・脊椎・関節・腸腰筋などに転移巣を作るためです。
透析患者で、血管内デバイス(内シャント)を持っているこの患者は、まさに高リスクです。
3どこを診て、どこを撮るか
まずシャント肢を診ます。発赤、圧痛、排膿、穿刺部の状態。血管内デバイスは、§5 の詰め方で3番目に挙げた項目そのものです。
次に心エコー。黄色ブドウ球菌の菌血症では感染性心内膜炎の合併を必ず検索します。経胸壁で疣贅が見えなくても否定にはなりません。疑いが強ければ経食道を考えます。
そして背部痛や腰痛がないかを聞き直します。あれば化膿性脊椎炎を疑ってMRIへ動きます。
この患者で「フォーカス不明」と書き続けることは、もうできません。菌の名前が、探すべき場所を教えてくれています。
悪寒戦慄+透析+シャントは血流感染を疑う組み合わせ。血液培養は2セット採る。
ブドウ状のグラム陽性球菌が黄色ブドウ球菌なら1セットでも汚染扱いしない。シャント肢の診察・心エコー・背部痛の聴取へ進み、転移巣を探す。
この章の要点
次のステップ
第4章:グラム染色を自分で染める検体の質を見る/標本の作り方と染色手順/鏡検の進め方 第2章に戻るフォーカスを探す・身体所見 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。