その発熱は感染症か/フォーカス・耐性リスク・重症度という3つの軸/なぜ臓器を先に決めるのか。すべての章の土台。
発熱を見た瞬間に抗菌薬を考え始めると、感染症ではない発熱に抗菌薬を出してしまいます。抗菌薬は効かず、培養は採られないまま、薬剤熱が上乗せされることさえあります。まず「感染症らしいか」を一度立ち止まって考えます。
感染症以外で発熱をきたす代表的なものは次のとおりです。
| 分類 | 代表例 | 手がかり |
|---|---|---|
| 薬剤熱 | βラクタム、抗てんかん薬、アロプリノールなど | 比較的元気/好酸球増多/薬剤開始からの時間経過 |
| 血栓 | 深部静脈血栓症、肺塞栓症 | 片側の下腿腫脹、頻呼吸、低酸素、長期臥床 |
| 悪性腫瘍 | リンパ腫、腎細胞癌など | 体重減少、リンパ節腫大、盗汗 |
| 膠原病 | 血管炎、成人Still病、リウマチ性多発筋痛症 | 関節症状、皮疹、抗菌薬に反応しない |
| 結晶性関節炎 | 痛風、偽痛風 | 単関節の熱感と腫脹。高齢者では発熱だけが目立つことがある |
| 内分泌 | 甲状腺クリーゼ、副腎不全 | 頻脈、意識障害、循環不安定 |
逆に、発熱がないことは感染症の否定になりません。高齢者、ステロイド使用中、腎不全、重症例では発熱しないことがあり、敗血症では低体温(36℃未満)が予後不良のサインになります。「熱がないから様子を見る」が最も危険な場面です。高齢者では、発熱の代わりに食欲低下、活気の低下、せん妄、転倒だけが出ることがあります。
感染症の治療方針は、覚えた薬の数では決まりません。次の3つが決まれば、選ぶ薬も、いつまで続けるかも、ほとんど自動的に決まります。
| 軸 | 何を決めるか | 扱う章 |
|---|---|---|
| フォーカス 感染がどこにあるか | 届く薬かどうかと、治療期間。想定される起因菌もここで絞れる | 第2章・第3章 |
| 耐性のリスク ふつうの菌でよいか | どこまで広くカバーするか。緑膿菌やESBLを最初から入れるかどうか | 第6章 |
| 重症度 どれだけ急ぐか | 投与開始までの時間と、外すことをどこまで許容できないか | 第7章 |
順番にも意味があります。フォーカスが決まらないうちに耐性リスクや重症度から考え始めると、「とりあえず広く」に流れます。広い薬は多くの菌を殺しますが、届かない場所には届きません。冒頭の前立腺炎の症例は、まさにその形で外れています。
血液中で有効な濃度が出ていても、そのまま届かない場所があります。抗菌薬は血中濃度が高ければどこでも効く、わけではありません。
| 届きにくい場所 | 何が起きるか | 選び方 |
|---|---|---|
| 前立腺 | 多くのβラクタムは十分に移行しない | フルオロキノロン、ST合剤 |
| 髄液 | 血液脳関門があり、移行する薬が限られる。移行する薬でも髄膜炎では増量する | 移行性を確認したうえで髄膜炎量で投与する |
| 骨・関節 | 移行が悪く、治療が長期になる | 移行性と、数週間続けられるかで選ぶ |
| 膿瘍の内部 | 血流がなく、酸性で薬が効きにくい | 薬だけでは治らない。ドレナージを考える |
| 人工物・デバイス | バイオフィルムを作り、薬が届いても菌が生き残る | 抜去や交換の検討が要る |
もうひとつ、経口薬には吸収されるかどうかという関門が手前にあります。内服の第3世代セフェムは腸管からの吸収が悪く、実臨床では使いません。血中濃度が上がらないので、組織移行性を論じる以前の問題として外れています。点滴から内服へ切り替えるときは、吸収の確かな薬(フルオロキノロン、ST合剤、アモキシシリン、セファレキシンなど)を選びます。第9章でもう一度扱います。
3つの軸は、順に埋めていきます。最初の30分で手を動かすのは次の4つです。
| やること | 埋まる軸 | |
|---|---|---|
| 1 | バイタルを取り直す。意識、呼吸数、血圧、尿量 | 重症度 |
| 2 | 頭からつま先まで診る。服を脱がせて背中と会陰部まで見る | フォーカス |
| 3 | 抗菌薬の前に培養を採る。血液培養2セットと、疑った臓器の検体 | フォーカス |
| 4 | 背景を聞く。施設入所、直近の抗菌薬、デバイス、免疫抑制 | 耐性リスク |
呼吸数は、この4つのなかで最も飛ばされやすい項目です。qSOFAの3項目のうち1つは呼吸数で、実際に測らずに「20回」と記録されることがあります。数えてください。
この患者を、3つの軸で置いてみてください。