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第 7 章 ・ 重症度

重症度を測る

qSOFAでふるいにかける/敗血症と敗血症性ショックの定義/肺炎のA-DROP/遅らせてはいけないことと、ソースコントロール。

3つの軸の最後です。重症度が決めるのはどれだけ急ぐかと、外すことをどこまで許容できないか。同じフォーカス・同じ耐性リスクでも、重症度が違えば動き方が変わります。落ち着いた患者では培養を丁寧に採ってから始められますが、ショックの患者では待てません。
§ 1

重症度が決める2つのこと

軽症〜中等症重症・ショック
速度培養を丁寧に採り、必要な検査をそろえてから始める採れる範囲で採り、抗菌薬を待たせない
外すことの許容外れても培養結果で変えられるその場で取り返せない。広めに始める
ESBLのカバーリスクがあってもカバーしないリスクがあればカバーする(第6章)
場所外来または一般病棟ICUを含めた管理を考える
重症度は「怖いかどうか」ではなく、数えられる指標で置きます。研修医が「なんとなく元気そう」と感じた患者が、呼吸数を数えると28回だった、ということが起こります。第1章で呼吸数を強調したのはこのためです。
§ 2

qSOFA でふるいにかける

ベッドサイドで、採血も待たずに数えられる3項目です。

項目基準
意識意識変容(GCS < 15)
呼吸呼吸数 22回/分 以上
血圧収縮期血圧 100 mmHg 以下
2項目以上 → 敗血症を疑って動き出す
qSOFA が陰性でも敗血症は否定できません。これは見逃しを減らすためのふるいであって、除外のための道具ではありません。1項目しか当てはまらなくても、臨床像が悪ければ動きます
特に高齢者では、血圧がふだんから低め、意識がもともと不明瞭、といった事情で判定が濁ります。数字は使いますが、数字に判断を預けないでください。

3項目を数えるだけの qSOFA スコアツール を用意しています。

§ 3

敗血症と敗血症性ショック

用語を整理しておきます。Sepsis-3 の定義です。

出典:Singer M, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.

定義実務上の目安
敗血症感染に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害感染が疑わしく、SOFA スコアが2点以上急に上がった
敗血症性ショック循環・細胞・代謝の異常が大きく、死亡率が高い病態十分な輸液をしても昇圧薬が必要で、かつ乳酸が高い
「敗血症」は熱が高いことでも、菌血症のことでもありません。臓器障害があることです。血液培養が陰性でも敗血症はあり、菌血症でも臓器障害がなければ敗血症とは呼びません。
だから測るのは臓器の状態です。意識、呼吸、血圧、尿量、腎機能、肝機能、血小板、乳酸。

6臓器を評価する SOFA スコアツール があります。ベースラインからの上昇を見るためのものなので、もともとの臓器障害がある患者では、その分を差し引いて考えます

§ 4

肺炎は A-DROP で置く

市中肺炎では、日本呼吸器学会の A-DROP で重症度を置き、外来か入院か、ICUかを決めます。

出典:日本呼吸器学会『成人肺炎診療ガイドライン2024』.

項目基準
A年齢男性 70歳以上、女性 75歳以上
D脱水・BUNBUN 21 mg/dL 以上、または脱水あり
R呼吸SpO₂ 90% 以下(PaO₂ 60 mmHg 以下)
O意識意識障害あり
P血圧収縮期血圧 90 mmHg 以下
点数区分対応
0点軽症外来治療が可能
1〜2点中等症入院を検討する
3点重症入院。ICU を考慮する
4〜5点、または3点で意識障害か血圧低下を含む超重症ICU での管理
意識障害と血圧低下は、点数以上の重みを持ちます。3点でもこの2つのどちらかを含めば超重症として扱います。合計点だけを見て「3点だから重症」と処理しないでください。
5項目をタップするだけの A-DROP スコアツール があります。

A-DROP は市中肺炎のための道具です。誤嚥性肺炎や医療関連の肺炎では、そのまま当てはめるのではなく、背景と全身状態をあわせて判断します。

§ 5

重症なら、遅らせてはいけないこと

敗血症を疑ったら、順番と速度が決まっています。

やること注意
1培養を採る血液培養2セット。ただし抗菌薬を待たせるほど時間をかけない
2抗菌薬を投与する広めに、速やかに。フォーカスに届く薬であること
3輸液を始める循環の評価を繰り返す
4乳酸を測る高ければ治療後に再検して下がるかを見る
5ドレナージすべきものを探す膿瘍、閉塞した胆道や尿路、感染したデバイス
第1章では「抗菌薬の前に培養を採る」と書きましたが、ショックの患者ではこの原則が抗菌薬を遅らせる理由になってはいけません。血液培養は2セット採るのに数分あれば足ります。それ以上かかる検体(髄液、膿瘍穿刺など)を待って抗菌薬を止めるべきかは、状況によります。迷ったら上級医を呼んでください。

ソースコントロールを忘れないでください。閉塞した胆道、閉塞した尿路、膿瘍、感染したデバイス。これらは抗菌薬をどれだけ広げても解決しません。重症であるほど、薬より先に手を動かす必要がある病態を探します。

§ 6

症例で確認

79歳男性。2日前から発熱と右季肋部痛。本日、意識がもうろうとして救急搬送。
体温 38.8℃、血圧 82/48 mmHg、脈拍 122/分、呼吸数 26/分、SpO₂ 94%(室内気)。呼びかけにかろうじて反応する
皮膚と眼球結膜に黄染。右季肋部に強い圧痛。
血液検査で総ビリルビン 4.8 mg/dL、AST/ALT 上昇、乳酸 4.2 mmol/L
腹部エコーで総胆管の拡張と結石を疑う所見。
研修医は血液培養2セットを提出し、広域抗菌薬を開始した。輸液も始めている。

重症度をどう置き、次に何をしますか。

1qSOFA と敗血症の判断
qSOFA は3点です。
意識変容        あり   → 1点 呼吸数 22回/分 以上   26回  → 1点 収縮期血圧 100mmHg 以下 82   → 1点
加えて臓器障害の証拠がそろっています。意識、循環(低血圧)、肝(ビリルビン上昇)、そして乳酸 4.2 mmol/Lという組織灌流の異常。
感染が疑わしく、臓器障害がある。敗血症です。
輸液に反応せず昇圧薬が必要になれば、乳酸高値とあわせて敗血症性ショックとなります。血圧の推移を見ながら、その準備をしておきます。
2研修医の対応で足りているか
やっていることは正しい順序です。培養 → 抗菌薬 → 輸液まで進んでいます。乳酸も測れています。
足りていないのは5番目です。
ドレナージすべきものを探す
この患者には、黄疸・右季肋部痛・発熱がそろい、総胆管の拡張と結石を疑う所見があります。胆管炎で、胆道が閉塞しています。
閉塞した胆道に抗菌薬だけを流し込んでも、圧のかかった胆汁の中の菌は処理できません。この患者に必要なのは、薬を広げることではなく胆道ドレナージです。連絡すべき先があります。
33つの軸で置き直すとどうなるか
フォーカス : 胆道(閉塞を伴う胆管炎) 耐性リスク : 病歴を確認する。前回の培養、抗菌薬曝露、施設入所 重症度   : qSOFA 3点、乳酸高値、臓器障害あり
重症度が高いので、広めに速やかに始めるのは正しい判断です。第6章の方針でいえば、重症でリスクがあればESBLもカバーの対象になります。
そしてフォーカスが胆道と決まったことで、次の一手がドレナージだと分かります。3つの軸のうち、この患者で治療方針を最も大きく動かしたのはフォーカスでした。
抗菌薬の選択に時間をかけるより、ドレナージの手配のほうが患者の予後を変えます
qSOFA 3点、乳酸4.2、臓器障害あり=敗血症。フォーカスは閉塞を伴う胆管炎。
培養・抗菌薬・輸液・乳酸まで正しく進んでいるが、抜けているのはソースコントロール。閉塞した胆道は抗菌薬だけでは治らない。胆道ドレナージの手配が次の一手。
この章の要点
次のステップ
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