身体所見が決めるのは「どこを培養し、どこを撮るか」/頭からつま先までの順序/見落としやすい6か所/所見が出にくい患者。
血液培養は全身のどこの感染でも陽性になりえますが、それ以外の培養はすべて「どこから採るか」を先に決めないと出せません。喀痰なのか、尿なのか、創部なのか、関節液なのか、髄液なのか。撮る画像も同じです。
順序が逆になると、こうなります。とりあえず血算・生化学・尿・胸部X線を出す。どれも決定打にならない。フォーカス不明のまま広域抗菌薬を開始する。数日たっても解熱しないが、培養が採られていないので狭めることも変えることもできない。
順序を固定しておくと、忙しいときでも抜けません。仰臥位のまま胸腹部だけを診て終わらせないことが要点です。
| 部位 | 見るもの | そこが起点なら |
|---|---|---|
| 頭頸部 | 副鼻腔の圧痛、耳、咽頭、項部硬直 | 副鼻腔炎、中耳炎、咽後膿瘍、髄膜炎 |
| 口腔内 | 齲歯、歯肉の腫脹と排膿、義歯下の粘膜 | 歯性感染、深頸部膿瘍、誤嚥性肺炎の背景 |
| 胸部 | 呼吸音の左右差、副雑音、呼吸数 | 肺炎、膿胸 |
| 心臓 | 新たな心雑音、末梢の塞栓所見 | 感染性心内膜炎 |
| 腹部 | 圧痛の局在、肋骨脊柱角の叩打痛、胆嚢の圧痛 | 腎盂腎炎、胆管炎、腹腔内膿瘍 |
| 背部・仙骨部 | 体位を変えて褥瘡、脊椎の叩打痛 | 褥瘡感染、骨髄炎、化膿性脊椎炎 |
| 四肢・関節 | 単関節の熱感と腫脹、可動域の制限 | 化膿性関節炎 |
| 皮膚軟部組織 | 発赤の境界、水疱、痛みが所見に不釣り合いに強い、握雪感 | 蜂窩織炎、壊死性軟部組織感染 |
| 会陰・肛門周囲 | 肛門周囲膿瘍、フルニエ壊疽、直腸診 | 肛門周囲膿瘍、前立腺炎 |
| デバイス | 刺入部の発赤と排膿、留置期間 | カテーテル関連血流感染、シャント感染 |
| 足 | 足底と趾間、糖尿病足潰瘍 | 足病変からの骨髄炎 |
上の表のうち、実際に抜けやすいのは次の6つです。いずれも診察の姿勢を変えないと見えないか、患者が訴えない場所です。
| 場所 | なぜ抜けるか | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 仙骨部・踵の褥瘡 | 仰臥位のままでは見えない。認知症では訴えがない | 体位を変えて全周を見る。深さ、ポケット、悪臭、骨に触れるか |
| デバイス刺入部 | ドレッシングを剥がさないと見えない | 剥がして発赤と排膿を見る。留置日数を確認する |
| 口腔内 | 開口してもらう手間で省略される | ライトを当てて歯肉と義歯の下まで見る |
| 関節 | 「動かすと痛い」を筋肉痛と扱ってしまう | 他動での可動域制限を見る。単関節なら穿刺を考える |
| 会陰・肛門周囲 | 患者も医師も避けやすい | 側臥位で開いて見る。フルニエ壊疽は急速に進む |
| 前立腺 | 直腸診をためらう | 男性の発熱を伴う尿路感染では必ず行う |
褥瘡で骨に触れるかどうかは、その場で治療期間を左右します。創から骨が触れれば骨髄炎を強く疑い、治療は数日ではなく数週間になります。第9章で扱います。
身体所見は万能ではありません。所見が出ないことが分かっている集団では、所見の乏しさを「感染ではない根拠」に使えません。
| 患者 | 何が起きるか |
|---|---|
| 高齢者 | 発熱しない。腹膜刺激徴候が出にくい。せん妄・食欲低下・転倒だけのことがある |
| ステロイド・免疫抑制薬 | 炎症所見が抑えられ、発赤も痛みも乏しい。穿孔していても腹部が柔らかい |
| 好中球減少 | 膿がたまらないため、膿瘍らしい所見が出ない。発熱だけが唯一のサインになる |
| 糖尿病 | 神経障害で足の潰瘍を痛がらない。深部に達していても訴えが乏しい |
| 認知症・意識障害 | 痛みの場所を言えない。表情や体動の変化で拾うしかない |
この患者で、まだ行われていないことは何でしょうか。