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第 2 章 ・ フォーカス

フォーカスを探す・身体所見

身体所見が決めるのは「どこを培養し、どこを撮るか」/頭からつま先までの順序/見落としやすい6か所/所見が出にくい患者。

フォーカスを探す作業は、検査から始まりません。どこを培養し、どこを撮るかを決めるのが身体所見です。ここを飛ばすと、採る検体も撮る部位も当てずっぽうになり、結果として「フォーカス不明」のまま広域抗菌薬だけが始まります。この章では、服を脱がせて全身を診るという当たり前を、順序として持てるようにします。
§ 1

身体所見が決めるのは検査の宛先

血液培養は全身のどこの感染でも陽性になりえますが、それ以外の培養はすべて「どこから採るか」を先に決めないと出せません。喀痰なのか、尿なのか、創部なのか、関節液なのか、髄液なのか。撮る画像も同じです。

身体所見 → 検体と撮影部位が決まる → 起因菌が絞れる

順序が逆になると、こうなります。とりあえず血算・生化学・尿・胸部X線を出す。どれも決定打にならない。フォーカス不明のまま広域抗菌薬を開始する。数日たっても解熱しないが、培養が採られていないので狭めることも変えることもできない

「フォーカス不明」の多くは、探した結果ではなく、探していない結果です。本当に探しても見つからない発熱はありますが、それを名乗れるのは、服を脱がせて全身を診て、採るべき検体を採ったあとです。
§ 2

頭からつま先まで

順序を固定しておくと、忙しいときでも抜けません。仰臥位のまま胸腹部だけを診て終わらせないことが要点です。

部位見るものそこが起点なら
頭頸部副鼻腔の圧痛、耳、咽頭、項部硬直副鼻腔炎、中耳炎、咽後膿瘍、髄膜炎
口腔内齲歯、歯肉の腫脹と排膿、義歯下の粘膜歯性感染、深頸部膿瘍、誤嚥性肺炎の背景
胸部呼吸音の左右差、副雑音、呼吸数肺炎、膿胸
心臓新たな心雑音、末梢の塞栓所見感染性心内膜炎
腹部圧痛の局在、肋骨脊柱角の叩打痛、胆嚢の圧痛腎盂腎炎、胆管炎、腹腔内膿瘍
背部・仙骨部体位を変えて褥瘡、脊椎の叩打痛褥瘡感染、骨髄炎、化膿性脊椎炎
四肢・関節単関節の熱感と腫脹、可動域の制限化膿性関節炎
皮膚軟部組織発赤の境界、水疱、痛みが所見に不釣り合いに強い、握雪感蜂窩織炎、壊死性軟部組織感染
会陰・肛門周囲肛門周囲膿瘍、フルニエ壊疽、直腸診肛門周囲膿瘍、前立腺炎
デバイス刺入部の発赤と排膿、留置期間カテーテル関連血流感染、シャント感染
足底と趾間、糖尿病足潰瘍足病変からの骨髄炎
服を脱がせ、体位を変える。この2つをやらないと、褥瘡・仙骨部・背部・会陰部・足底は原理的に見えません。見えない場所は、見落としているという自覚さえ生まれないので、順序として固定してください。
§ 3

見落としやすい6か所

上の表のうち、実際に抜けやすいのは次の6つです。いずれも診察の姿勢を変えないと見えないか、患者が訴えない場所です。

場所なぜ抜けるか確認の仕方
仙骨部・踵の褥瘡仰臥位のままでは見えない。認知症では訴えがない体位を変えて全周を見る。深さ、ポケット、悪臭、骨に触れるか
デバイス刺入部ドレッシングを剥がさないと見えない剥がして発赤と排膿を見る。留置日数を確認する
口腔内開口してもらう手間で省略されるライトを当てて歯肉と義歯の下まで見る
関節「動かすと痛い」を筋肉痛と扱ってしまう他動での可動域制限を見る。単関節なら穿刺を考える
会陰・肛門周囲患者も医師も避けやすい側臥位で開いて見る。フルニエ壊疽は急速に進む
前立腺直腸診をためらう男性の発熱を伴う尿路感染では必ず行う
男性の発熱を伴う尿路感染で、直腸診は省略できません。膀胱炎なのか前立腺炎なのかで、選ぶ薬も治療期間も変わります。冒頭のひっかけ症例は、ここが抜けたまま尿の所見だけで「尿路感染」と決めた結果でした。
ただし急性前立腺炎では強いマッサージを避けます。圧痛の有無と腫大を確認する程度にとどめてください。

褥瘡で骨に触れるかどうかは、その場で治療期間を左右します。創から骨が触れれば骨髄炎を強く疑い、治療は数日ではなく数週間になります。第9章で扱います。

§ 4

所見が出にくい患者を知っておく

身体所見は万能ではありません。所見が出ないことが分かっている集団では、所見の乏しさを「感染ではない根拠」に使えません。

患者何が起きるか
高齢者発熱しない。腹膜刺激徴候が出にくい。せん妄・食欲低下・転倒だけのことがある
ステロイド・免疫抑制薬炎症所見が抑えられ、発赤も痛みも乏しい。穿孔していても腹部が柔らかい
好中球減少膿がたまらないため、膿瘍らしい所見が出ない。発熱だけが唯一のサインになる
糖尿病神経障害で足の潰瘍を痛がらない。深部に達していても訴えが乏しい
認知症・意識障害痛みの場所を言えない。表情や体動の変化で拾うしかない
この5つに当てはまる患者では、所見が乏しいほど丁寧に全身を診るという逆転が要ります。訴えられない患者ほど、脱がせて、体位を変えて、自分の目で確認してください。
§ 5

症例で確認

84歳女性。特別養護老人ホーム入所中。認知症があり、痛みの訴えははっきりしない。
3日前から 38.5℃ の発熱と食欲低下。施設で採った尿が混濁していたため、尿路感染症として紹介受診。
研修医は仰臥位のまま胸部の聴診と腹部の触診を行い、明らかな所見なしと判断。尿培養と血液培養2セットを提出し、抗菌薬を開始した。
4日たっても解熱しない。尿培養は大腸菌が検出され、投与中の抗菌薬に感受性があった。

この患者で、まだ行われていないことは何でしょうか。

1診察で抜けている部位はどこか
背面です。仰臥位のまま胸腹部を診ただけなので、仙骨部・踵・背部・会陰部は一度も見られていません
施設入所・認知症・臥床という条件がそろっており、褥瘡のリスクが高い患者です。しかも認知症で痛みを訴えられないため、患者側からの申告は期待できません
体位を変えて全周を見てください。あわせて足底と趾間、口腔内、点滴刺入部も確認します。
2褥瘡があったら、何をどこまで確認するか
見つけて終わりにしないでください。深さが治療期間を決めます
深さとポケットの有無 周囲の発赤・熱感・握雪感(ガス) 悪臭と排膿 創から骨に触れるか
創から骨に触れれば骨髄炎を強く疑います。ここで「褥瘡感染」と「褥瘡に伴う骨髄炎」のどちらとして扱うかが決まり、治療期間が数日単位から数週間単位へ変わります。
創部の表面をぬぐった培養は定着菌を拾うだけのことが多く、判断には使いにくい検体です。深部の検体やデブリドマン時の組織を考えます。
3尿が混濁して大腸菌も出ている。尿路感染ではないのか
尿の所見だけではフォーカスを決められません。高齢者では無症候性細菌尿がありふれており、尿が濁っていることも、培養から大腸菌が出ることも、それ自体では感染の証拠になりません。
この患者では、感受性のある抗菌薬を4日投与して解熱していないという経過が、すでに答えを示しています。薬が外れているのではなく、狙っている臓器が違う可能性を考える場面です。
フォーカスが2つ併存することもあります。尿路感染を否定するのではなく、解熱しない理由を説明できる別のフォーカスを探すという順序で考えてください。
背面が一度も診られていない。体位を変えて仙骨部を見る。
褥瘡があれば深さと骨への到達を確認し、骨髄炎なら治療期間が数週間に変わる。高齢者の膿尿と細菌尿は、それ自体ではフォーカスの証拠にならない。
この章の要点
次のステップ
第3章:フォーカスを探す・検査と画像血液・尿・画像の使い分け/培養をどこから何セット採るか/フォーカス不明のときの詰め方 第1章に戻る発熱をみたら 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。