トップ講義一覧第9章
第 9 章 ・ 治療

治療期間と効果判定

効果判定は何で見るか/効かないときの4つの理由/疾患別の治療期間/点滴から内服へ/狭める。

抗菌薬を始めたあとの章です。効いているかをどう判定するか効かないときに何を疑うか、そしていつまで続けるか。治療期間は疾患ごとにおおよそ決まっており、感覚で切ると再燃します。冒頭のひっかけ症例で7日で終了した前立腺炎は、その典型でした。
§ 1

効果判定は何で見るか

判断の主役は数字ではありません。

見るもの読み方
バイタル解熱、脈拍の低下、呼吸数の低下、血圧の安定
意識・活気会話が戻る、目つきが変わる。高齢者では最も早く動くことがある
食事摂取食べられるようになったかは、検査値より正直なことがある
局所の所見発赤の縮小、疼痛の軽減、排膿の減少、酸素需要の低下
グラム染色の再検菌量が減っているか、貪食像が増えているか(第5章)
CRP遅れて動く。単独では判断材料にしない
抗菌薬の効果判定には48〜72時間みます。翌日に解熱していないことは、失敗を意味しません。ここで薬を替えると、効いている薬を捨てることになります。
ただし悪化しているなら待ちません。バイタルが崩れる、意識が落ちる、局所が広がる。この場合は48時間を待たずに動きます。
§ 2

効かないときの4つの理由

第1章で挙げた4つに戻ります。薬を広げる前に、この順で確認してください。

理由確認すること
1薬が外れている培養と感受性。耐性菌ではないか。量が足りていないか
2届いていないフォーカスは合っているか。移行しない場所ではないか(第8章)
3感染症ではない薬剤熱、血栓、悪性腫瘍、膠原病(第1章)
4ドレナージが必要膿瘍・閉塞・感染したデバイス。薬だけでは治らない
研修医が最初に考えがちなのは1番ですが、実際に多いのは2番と4番です。「耐性菌かもしれないから広げよう」と動く前に、フォーカスが本当に合っているか膿がたまっていないかを確認してください。
広げても解熱しない患者に、さらに広げても解熱しません。

もう一つ、見落とされやすいのが新しい感染の発生です。入院中にカテーテル関連血流感染や偽膜性腸炎が加わっていることがあります。経過中に発熱の性質が変わったら、最初の診断だけで説明しようとしないでください。

§ 3

治療期間は疾患で決まっている

期間は「解熱したら終わり」ではなく、疾患ごとにおおよそ決まっています。以下はサンフォードガイドを拠りどころとした目安です。

疾患おおよその期間備考
市中肺炎(軽症〜中等症)5〜7日解熱し安定していることが前提
腎盂腎炎7〜14日薬剤と経過で変わる
急性前立腺炎2〜4週尿路感染の感覚で切らない
蜂窩織炎5〜10日改善が遅ければ延長する
胆管炎・胆嚢炎ドレナージ後 4〜7日ソースコントロールが効けば短くできる
腹腔内感染ドレナージ後 4〜7日同上
黄色ブドウ球菌の菌血症最低2週間、合併症があれば4〜6週血液培養の陰性化日を起点にする
感染性心内膜炎4〜6週菌と弁による
化膿性脊椎炎・骨髄炎6週以上移行が悪く長期になる
化膿性関節炎2〜4週ドレナージを伴う
細菌性髄膜炎菌により7日〜3週髄膜炎量で投与する(第8章)
この表に必ず従うわけではありません。膿瘍を形成した、ドレナージが不十分だった、免疫抑制がある、経過が悪い。こうした場合は延長します。逆にソースコントロールがうまくいけば短くできることもあります。
表は出発点であって、患者ごとに調整するものです。施設の方針と上級医の判断を優先してください。

期間を決めるとき、起点をどこに置くかも重要です。黄色ブドウ球菌の菌血症では、抗菌薬を始めた日ではなく血液培養が陰性化した日から数えます。だから第3章で「陰性化の確認のために採り直す」と書きました。

§ 4

点滴から内服へ

切り替えの条件と、選ぶ薬です。

切り替えてよい条件
解熱し、バイタルが安定している
経口摂取ができ、消化管が使える
吸収の確かな経口薬がある
フォーカスが内服で治療できる場所である
最後の2つが落とし穴です。状態が良くなったことだけを見て切り替えると、吸収されない薬届かない薬に落ちます。
内服の第3世代セフェムは吸収が悪いので使いません。経口はフルオロキノロン、ST合剤、アモキシシリン、セファレキシンなど、吸収の確かなものから選びます(第8章)。
内服に落とさない病態理由
感染性心内膜炎原則として点滴で完遂する
化膿性脊椎炎・骨髄炎移行が悪い。長期の点滴が基本
黄色ブドウ球菌の菌血症転移巣のリスクがあり、点滴で管理する
髄膜炎髄液への移行と濃度が必要

冒頭のひっかけ症例に戻ります。あの患者は解熱していたので、切り替え条件の最初の2つは満たしていました。外したのは残りの2つです。吸収の悪い薬を選び、前立腺という届きにくい場所を考えず、尿路感染の期間で切った。3つの誤りが重なっていました。

§ 5

狭める

培養と感受性が出たら、広域から狭い薬へ切り替えます。第6章で「広げたら狭める前提で始める」と書いた、その回収です。

狭めるときに確認すること
起因菌が同定され、感受性が分かっている
臨床的に改善している
その薬がフォーカスに届く
ドレナージすべきものが残っていない
狭めることの利点は、耐性菌を減らすことだけではありません。副作用が減り、費用が下がり、偽膜性腸炎のリスクも下がります。患者にとって直接の利益があります。
培養を採っていなければ、この選択肢は最初から存在しません。第3章に戻ってください。
§ 6

症例で確認

72歳女性。発熱と右側腹部痛で入院。尿沈渣で膿尿、尿培養で大腸菌(広域βラクタムに感受性あり)。造影CTで右腎盂腎炎の所見。閉塞や膿瘍はなし。
広域βラクタムの点滴を開始。3日目に解熱し、食事も摂れるようになった。
ところがCRPは入院時 14.2 → 3日目 18.6 mg/dL と上昇している。
研修医は「CRPが上がっているので薬が効いていない。もう一段広い薬に変えるべきでは」と考えている。

この判断をどう評価しますか。治療をどう進めますか。

1CRPの上昇をどう読むか
薬を変える理由になりません。CRPは反応が遅れるため、良くなっている患者でも数日は上がり続けることがあります
この患者で見るべきものはそろっています。
解熱した     → 改善 食事が摂れている → 改善 側腹部痛     → 経過を確認する
判断の主役はバイタル・意識・食事・局所の所見でした。そのすべてが改善方向を指しています。
ここで薬を替えると、効いている薬を捨てることになります。しかも起因菌は同定され、投与中の薬に感受性があることまで分かっています。第2節の4つの理由のどれにも当てはまりません。
2この患者で本来やるべきことは何か
広げるのではなく、狭めます。
起因菌が同定されている     → 大腸菌 感受性が分かっている      → 広域βラクタムに感受性 臨床的に改善している      → 解熱・食事摂取 フォーカスに届く        → 腎盂は届く ドレナージすべきものがない   → 閉塞・膿瘍なし
狭める条件をすべて満たしています。感受性のある、より狭い薬へ切り替える場面です。
研修医の判断は方向が逆でした。CRPという遅れて動く指標に引きずられて、狭められる患者を広げようとしています。
3いつまで続けるか、内服に落とせるか
腎盂腎炎なので 7〜14日が目安です。経過と薬剤で決めます。
内服への切り替えは条件を確認します。
解熱・バイタル安定     → 満たす 経口摂取ができる      → 満たす 吸収の確かな経口薬がある  → 感受性を見て選ぶ フォーカスが内服で治療できる場所 → 腎盂腎炎は可能
4つとも満たせるので、内服への切り替えは可能です。
ただし薬の選び方に注意してください。ここで内服の第3世代セフェムを選ぶと、吸収が悪く血中濃度が上がりません。感受性結果を見たうえで、吸収の確かな薬を選びます。
この患者が男性だったなら、前立腺を分ける必要がありました。女性なので腎盂腎炎として扱えますが、フォーカスの確認は最後まで手を抜かないでください。
CRPの上昇は薬を変える理由にならない。解熱し食事が摂れているなら効いている。
この患者は広げるのではなく狭める場面。腎盂腎炎で 7〜14日、内服への切り替えも可能だが、吸収の確かな薬を選ぶこと。
この章の要点
次のステップ
まとめ早見表フォーカス別の代表薬と、疾患別の治療期間を1枚に 第8章に戻る治療を組み立てる 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。