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第 5 章 ・ グラム染色

グラム染色で起因菌を読む

染色性・形・配列の3要素/代表的な組み合わせ/貪食像で起因菌と定着菌を分ける/狭めるための染色。

グラム染色で読むのは、菌の名前ではありません。形・配列・染色性の3つの組み合わせと、白血球との位置関係です。この4つが読めると、培養結果を待つ前に「どのグループの菌か」「それは起因菌か通りすがりか」が判断でき、初期治療を狭めたり広げたりできます。
§ 1

読むのは3つの要素

順に見ていきます。この順序を固定しておくと、迷いません。

見るもの選択肢
染色性紫か赤かグラム陽性(紫)/グラム陰性(赤)
丸いか細長いか球菌/桿菌
配列どう並んでいるかブドウ状/連鎖状/双(2つ組)/ばらばら
染色性 × 形 × 配列 → 菌のグループが決まる

この3つに加えて、大きさそろい方も手がかりになります。同じグラム陰性桿菌でも、太くて短いものと、細長いものでは想定する菌が変わります。

§ 2

代表的な組み合わせ

研修医が出会う頻度の高いものに絞ります。ここで菌名を断定するのではなく、候補を絞るのが目的です。

見えるもの想定する菌よくある場面
グラム陽性球菌・ブドウ状ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌/コアグラーゼ陰性)血流感染、皮膚軟部組織、デバイス
グラム陽性球菌・連鎖状レンサ球菌、腸球菌(E. faecalis / E. faecium)皮膚軟部組織、腹腔内、心内膜炎
グラム陽性球菌・双球菌でランセット型肺炎球菌市中肺炎、髄膜炎
グラム陰性桿菌・太く短い大腸菌、クレブシエラなどの陰性桿菌尿路、胆道、腹腔内
グラム陰性桿菌・細長い緑膿菌を考える(SPACE)院内、デバイス、気管支拡張症
グラム陰性桿菌・小型で形が不ぞろいインフルエンザ桿菌気道感染、慢性肺疾患の増悪
グラム陰性球菌・双球菌モラクセラ(気道)、淋菌・髄膜炎菌気道感染、尿道炎、髄膜炎
グラム陽性桿菌コリネバクテリウム(定着が多い)、リステリア、クロストリジウム多くは定着。血培で複数セット陽性なら考え直す
酵母様真菌カンジダ喀痰では治療対象にしない。血液から出たら別
喀痰から酵母が見えても、抗真菌薬は始めません。口腔と気道にカンジダは常在しており、喀痰培養から生えることはありふれています。カンジダ肺炎は極めてまれです。一方で血液培養からカンジダが出たら、それは本物として扱います。同じ菌でも、どこから出たかで意味がまったく違います。
§ 3

起因菌か、通りすがりか

見えた菌が悪さをしているかどうかは、菌そのものではなく周囲との関係で判断します。

所見起因菌らしい定着菌らしい
白血球との関係白血球に貪食されている白血球から離れている
菌種の数単一の菌が優勢何種類も同じくらい見える
付着先白血球のそば扁平上皮に付着している
視野内に多数探してようやく見つかる
検体の質Geckler 4・5群1〜3群(唾液)
白血球の中にいる菌が、最も起因菌に近い像です。白血球は感染の現場に集まり、そこにいる菌を食べます。貪食像が見えるということは、その菌が免疫が反応している相手だということです。
逆に、扁平上皮の表面にびっしり付いている菌は、口の中から紛れ込んだ通りすがりと考えます。

例外もあります。好中球減少の患者では白血球がいないので貪食像は見えません。この場合は菌の量と単一性、そして臨床像で判断することになります。

§ 4

染色から治療をどう動かすか

グラム染色は、広げるためだけでなく狭めるためにも使えます

見えたもの治療の動き
肺炎でランセット型の双球菌が優勢肺炎球菌を考える。広域から狭められる根拠になる
血液からブドウ状グラム陽性球菌黄色ブドウ球菌なら転移巣を探す。MRSAのリスクを評価する(第6章)
細長いグラム陰性桿菌緑膿菌を考える。リスク因子と照らしてカバーするか決める(第6章)
複数の菌種が混在(質の良い検体で)誤嚥、腹腔内感染、壊死性軟部組織感染などもともと複数菌の病態を考える
何も見えない否定にはならない。抗菌薬がすでに入っている、菌量が少ない、非定型病原体の可能性
グラム染色で見えないことは、感染の否定になりません。抗菌薬が投与されたあとの検体では菌が見えにくくなります。またマイコプラズマやレジオネラのようなグラム染色では見えない病原体もあります。「見えなかった」を「菌はいない」と読まないでください。
§ 5

効果判定にも使う

治療を始めたあとにもう一度染めると、効いているかどうかが分かります。

治療後の再検で読み方
菌が減っている/消えている薬が届いて効いている
貪食像が増えている免疫が処理できている
菌量が変わらない薬が外れている、届いていない、膿がたまっている(第9章)
別の菌が優勢になった菌交代を考える。検体の質も見直す
CRPが遅れて動くのに対し、グラム染色は現場の状況をその日のうちに返します。第3章で「CRPを毎日追いかけて治療を変えない」と書きましたが、その代わりに見るものの1つがこれです。判断の主役は臨床像ですが、迷ったときに手元で確かめられる手段を持っておくことに意味があります。
§ 6

症例で確認

82歳男性。発熱と咳、膿性痰で受診。胸部X線で右下葉に浸潤影。市中肺炎として入院し、経験的にβラクタムとマクロライドの併用を開始した。
研修医が自分で喀痰を染めたところ、白血球が多く扁平上皮はほとんどない良質な標本だった。
油浸で見ると、ランセット型のグラム陽性双球菌が優勢で、白血球に貪食されているものが多数見えた。
あわせて、酵母様真菌が少数混じっていた。
研修医は「真菌も出ているので抗真菌薬を追加すべきか」と相談してきた。

この標本をどう読み、治療をどう動かしますか。

1優勢な菌をどう読むか
3つの要素で読みます。
染色性 : グラム陽性(紫) 形   : 球菌 配列  : 双球菌、ランセット型
肺炎球菌を考える組み合わせです。
さらに条件がそろっています。検体は良質(扁平上皮が少なく白血球が多い)単一の菌が優勢白血球に貪食されている。第3節の表のすべての項目で「起因菌らしい」側に寄っています。
ここまでそろえば、市中肺炎の起因菌として肺炎球菌を第一に考えてよい状況です。
2酵母様真菌をどう扱うか
抗真菌薬は追加しません。カンジダは口腔と気道の常在菌で、喀痰から見えることはありふれています。カンジダによる肺炎は極めてまれです。
ここで抗真菌薬を足すと、効果のない薬を1剤増やし、副作用と相互作用と費用だけが乗ります。
判断の分かれ目はどこから出たかです。
喀痰のカンジダ  → 治療しない 血液のカンジダ  → 本物として扱う
同じ菌でも、検体が変われば意味が変わります。
3治療は広げるのか、狭めるのか
狭める方向に動けます。研修医は真菌を見て「足す」ことを考えましたが、この標本が示しているのは逆です。
肺炎球菌が起因菌として濃厚なら、広域のカバーを続ける理由が減ります。感受性が確認できれば、より狭い薬に切り替えられます。
ただしこの場でいきなり単剤に絞るとは限りません。非定型病原体はグラム染色では見えないため、臨床像と重症度、施設の方針をあわせて判断します。培養と感受性の結果を待って確定させるのが順当です。
グラム染色の価値は、広げる根拠にも狭める根拠にもなることです。
ランセット型のグラム陽性双球菌が、良質な検体で単一優勢かつ貪食されている=肺炎球菌を第一に考える。
喀痰の酵母は治療しない(血液から出れば別)。この標本は薬を足す根拠ではなく、狭める根拠になる。
この章の要点
次のステップ
第6章:耐性のリスクを評価するチェックリストで評価する/緑膿菌とESBLをどこまでカバーするか 第4章に戻るグラム染色を自分で染める 講義一覧に戻る章の一覧
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