3つの軸から薬を決める順序/届かない場所/経口の吸収という関門/フォーカス別の代表例/量と間隔。
| 問い | 決まること | |
|---|---|---|
| 1 | フォーカスはどこか | 想定する菌/届く薬かどうか/治療期間 |
| 2 | 耐性のリスクはどれだけあるか | どこまで広くカバーするか |
| 3 | 重症度はどれくらいか | 速度/外すことをどこまで許容できないか |
| 4 | その薬は施設で採用されているか | 実際に出せる薬 |
| 5 | 腎機能・肝機能・体重・アレルギー | 投与量と間隔 |
第1章で触れた内容を、ここで詳しく扱います。血中濃度が十分でも届かない場所があります。
| 場所 | 何が問題か | どうするか |
|---|---|---|
| 前立腺 | 多くのβラクタムが十分に移行しない | フルオロキノロン、ST合剤を選ぶ |
| 髄液 | 血液脳関門。移行する薬が限られる | 移行性のある薬を選び、髄膜炎量に増量する。通常量では足りない |
| 骨・関節 | 移行が悪く、治療が長期になる | 移行性と、数週間続けられるかで選ぶ |
| 膿瘍の内部 | 血流がなく、酸性で薬が働きにくい | ドレナージ。薬だけでは治らない |
| 人工物・デバイス | バイオフィルムの中の菌は生き残る | 抜去・交換を検討する |
| 閉塞した胆道・尿路 | 圧がかかって薬が届かない | ドレナージ(第7章) |
髄膜炎で「移行する薬を選んだから大丈夫」と考えるのも危険です。同じ薬でも髄膜炎では投与量が変わります。通常量で始めると、届いてはいるが濃度が足りない、という外し方をします。
点滴なら投与した量が血中に入りますが、経口薬は吸収されなければ血中濃度が上がりません。組織移行性を論じる手前の問題です。
| 経口へ切り替えるときに選ぶもの | 備考 |
|---|---|
| フルオロキノロン | 吸収が良い。前立腺・骨にも移行する。制酸薬や金属イオンで吸収が落ちる |
| ST合剤 | 吸収が良い。前立腺に移行する。腎機能とカリウムに注意 |
| アモキシシリン(±クラブラン酸) | 吸収が良い経口ペニシリン |
| セファレキシン | 吸収の確かな経口セフェム |
| 内服の第3世代セフェム | 使わない |
フルオロキノロンとST合剤は経口スイッチの主力ですが、どちらも使いすぎない薬でもあります。キノロンは耐性化と副作用、ST合剤は電解質と腎機能。使う理由があるときに使ってください。
ここに挙げるのは代表例であって、第一選択の断定ではありません。実際の選択は施設の採用薬とアンチバイオグラムに従ってください。同じ疾患でも、施設によって推奨される薬は変わります。
| フォーカス | よくある起因菌 | 考え方 |
|---|---|---|
| 市中肺炎 | 肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、非定型病原体 | 重症度(A-DROP)と非定型のカバーで決める |
| 誤嚥性肺炎 | 口腔内の混合菌 | 横隔膜より上の嫌気性菌を含めて考える。背景の嚥下障害も評価する |
| 尿路感染(腎盂腎炎) | 大腸菌など | 男性なら前立腺を分ける。ESBLは重症+リスクで |
| 前立腺炎 | 大腸菌など | 移行する薬を選ぶ。経口はキノロンかST合剤 |
| 胆道感染 | 陰性桿菌、腸球菌(E. faecalis が多い)、横隔膜より下の嫌気性菌 | 閉塞があればドレナージが優先 |
| 皮膚軟部組織 | レンサ球菌、黄色ブドウ球菌。糖尿病性足・咬傷・水曝露・免疫抑制では陰性桿菌や嫌気性菌も | 進行が速い・痛みが所見に不釣り合いなら外科へ相談 |
| カテーテル関連血流感染 | ブドウ球菌、陰性桿菌、カンジダ | カテーテル抜去を検討する。黄色ブドウ球菌なら転移巣を探す |
| 髄膜炎 | 肺炎球菌、髄膜炎菌、高齢ではリステリア | 移行性と髄膜炎量。開始を遅らせない |
| 足したいもの | 代表例 |
|---|---|
| 緑膿菌と嫌気性菌の両方 | タゾバクタム/ピペラシリン。この薬の本来の使いどころ |
| 緑膿菌が要り、嫌気性菌は要らない | セフェピム(陽性球菌も保てる)、セフタジジム(陽性球菌は弱い) |
| ESBL産生菌 | メロペネム。ただし安定していればセフメタゾールを考える |
| 横隔膜より下の嫌気性菌だけ | セフメタゾール、またはメトロニダゾールの併用 |
薬を選んだあと、量と間隔で外すことがあります。特に腎機能です。
| 確認すること | 注意 |
|---|---|
| 腎機能 | 多くの抗菌薬で減量が要る。高齢者はクレアチニンが正常でも腎機能が落ちている |
| 初回投与量 | 腎機能が悪くても初回は減らさないことが多い。減らすのは2回目以降の量や間隔 |
| 髄膜炎・心内膜炎・骨髄炎 | 通常量では足りない。増量が要る |
| 血中濃度を測る薬 | バンコマイシンなど。投与設計と測定のタイミングを確認する |
| 併用で腎障害が増える組み合わせ | バンコマイシンとタゾバクタム/ピペラシリンの併用で急性腎障害が増える。両方が要るかを培養結果で見直す |
| 透析 | 透析日と非透析日で変わる。透析後に投与する薬がある |
投与量を減らしすぎるのも外し方の一つです。効かない理由の一つは「量が足りない」ということを、第9章で扱います。
3つの軸で置き直し、治療をどう組み立てますか。