左室駆出率(LVEF)は「1回の収縮で、左室の中の血液の何%を送り出せたか」を表します。EF は診断の道具ではありません。測るのは治療のエビデンスが EF ごとに違うからです。
分類
LVEF
臨床的な位置づけ
HFrEF 収縮不全
≦ 40 %
予後を改善する薬のエビデンスが最も豊富。4本柱(第5章)の主戦場
HFmrEF 軽度低下
41 〜 49 %
中間群。おおむね HFrEF に準じた治療が考慮される
HFpEF 駆出率が保たれた心不全
≧ 50 %
心不全のおよそ半数。高齢・女性・高血圧・心房細動・肥満が背景に多い(第7章)
HFimpEF 回復した心不全
もと HFrEF(≦40%)が 40% を超えて改善し、かつ 10 ポイント以上向上したもの
HFimpEF は、良くなっても薬をやめない。 EF が回復すると「治った」と感じますが、回復は薬が効いている状態であって、病気が消えたわけではありません。治療を中止すると相当な割合で再び EF が低下し、心不全が再燃することが知られています。EF が戻ったことは、治療を続ける理由であって、やめる理由ではありません。
EF は分類の道具であって、診断の道具ではありません。冒頭の症例(EF 62% で帰宅させた82歳)が示すとおり、EF が正常でも心不全は起こります。診断は症状+うっ血の証拠で行い、EF はそのあと治療を選ぶために測ります。順番を逆にしないでください。
ステージ C・NYHA I 度は、治療がうまくいっている理想的な状態です。心不全で入院した患者が、利尿薬と4本柱で無症状になって退院する――このとき NYHA は IV から I に戻りますが、ステージは C のままで、薬は続けます。この2つを分けて考えられるようになると、「良くなったのになぜ薬を飲み続けるのか」という患者さんの疑問にも、はっきり答えられるようになります。
2つの条件(40%超へ改善・10ポイント以上の向上)をどちらも満たすので、この患者は HFimpEF=回復した心不全です。 今の EF だけで分類すると誤ります。心不全の分類には経過が要ります。
2ステージと NYHA はどうなるか
NYHA は I 度です。階段2階分で症状がないので、身体活動の制限はありません。 ではステージは? 心筋梗塞という構造的心疾患があり、かつ過去に心不全の症状を呈しています。ステージは後戻りしないので、ステージ C のままです。
ステージ C(後戻りしない) + NYHA I 度(今は無症状)
この組み合わせは矛盾ではなく、治療が効いている証拠です。
3では、薬は減らしてよいか
減らしません。研修医の問いは「EF が改善した=心臓が治った」という前提に立っていますが、この前提が誤りです。 EF が改善したのは4本柱が効いているからであって、心筋梗塞で失われた心筋が再生したからではありません。ここで薬を中止すると、相当な割合で EF は再び低下し、心不全が再燃することが知られています。 HFimpEF は治癒ではなく、良好にコントロールされた心不全です。
✅ HFimpEF(もと HFrEF)・ステージ C・NYHA I 度。治療は継続する。 EF が戻ったことは、治療をやめる理由ではなく続ける理由。分類は今の数字ではなく、経過で決まる。