退院してよい条件/患者が自分で気づくための体重管理/在宅での評価/そして、いつか必ず来る話し合いの準備。
息切れが取れたから退院、では早すぎます。第4章で見たとおり、うっ血を残したまま退院した患者は高率に戻ってきます。
心不全の再入院予防で最も費用対効果が高い介入は、毎日の体重測定です。浮腫が目に見えるようになる前に、体重は動きます。
| 変化 | 患者に伝える行動 |
|---|---|
| 2〜3日で 2kg 以上増えた | 連絡する(あるいは指示された頓用利尿薬を追加する) |
| 1週間で 2kg 以上増えた | 連絡する |
| 体重が減り続ける・食欲がない | 連絡する(脱水や悪液質の可能性。増えるほうだけを見ない) |
呼吸困難が出たら受診してください、では遅すぎます。患者が自分で気づける具体的な言葉に置き換えます。
| 医学的な所見 | 患者に伝える言葉 |
|---|---|
| 起坐呼吸 | 「枕を増やさないと眠れなくなったら教えてください」 |
| 発作性夜間呼吸困難 | 「夜中に息苦しくて目が覚めたら連絡してください」 |
| 体液貯留 | 「靴や指輪がきつくなったら」「お腹が張る感じが出たら」 |
| 労作時呼吸困難の悪化 | 「いつもの坂道・階段がつらくなったら」 |
| 低灌流 | 「ぼんやりする、いつもより疲れるが続いたら」 |
在宅では検査が限られます。しかし心不全の評価に必要なものの多くは、ベッドサイドで得られます。
| 評価 | 在宅でできること |
|---|---|
| うっ血 | 頸静脈(第2章)、下腿浮腫、体重の推移、起坐呼吸の有無 |
| 灌流 | 手を握る(四肢冷感)、脈圧、意識レベル、尿量 |
| エコー | 携帯エコーがあれば IVC 径と虚脱率(右房圧の推定)、胸水、B-line、目視での収縮 |
| 服薬状況 | 残薬を数える。これが最も確実な服薬評価 |
| 生活 | 食事の実態(味噌汁・漬物・惣菜)、活動量、介護者の負担 |
かつて心不全に安静が指示された時代がありましたが、現在は逆です。運動療法は運動耐容能・QOL・再入院率を改善します。
| 項目 | 指導の要点 |
|---|---|
| 運動 | 安定期に有酸素運動を中心に。過度の安静はデコンディショニングとフレイルを招く |
| 塩分 | 目安は 1日6g未満。ただし高齢者では食欲低下・低栄養に注意し、緩める判断も必要(第7章) |
| 水分 | 一律の制限は不要。低ナトリウム血症や高度心不全で個別に検討 |
| 飲酒・喫煙 | 禁煙は必須。アルコールは節度を(アルコール性心筋症では禁酒) |
| ワクチン | インフルエンザ・肺炎球菌。感染は主要な増悪因子(第2章) |
| 入浴 | 可能。熱すぎる湯・長湯は避ける(血管拡張と脱水) |
心不全は予後の予測が難しい病気です。がんのように緩やかに下降するのではなく、増悪と回復を繰り返しながら、あるとき急に亡くなるという経過をたどります。
話し合うべき内容は、延命処置の可否だけではありません。