心不全の半数を占めるのに扱いが難しい HFpEF/HFmrEF はどちらに寄せるか/心房細動・心腎連関・高齢者とフレイル。
HFpEF(LVEF ≧ 50%)では、収縮は保たれているのに心不全になります。何が悪いのか。中心にあるのは左室が硬くて広がりにくいことです。
硬い左室に血液を入れるには高い圧が要ります。その圧が左房へ、肺静脈へと伝わり、肺うっ血を生みます。収縮は正常でも、うっ血は起こる――これが第1章の冒頭症例で見た現象です。
| 背景として多いもの | なぜ HFpEF になるか |
|---|---|
| 高齢 | 加齢そのものが心筋・血管を硬くする |
| 高血圧 | 左室肥大 → 硬い左室 |
| 女性 | 疫学的に HFpEF が多い |
| 肥満・糖尿病 | 全身の炎症・代謝異常が心筋の硬化に関与 |
| 心房細動 | 心房収縮の消失と頻脈で、拡張期充満が大きく損なわれる |
| 慢性腎臓病 | 体液貯留と血管の硬化 |
HFpEF はながく、予後を改善する薬がない領域でした。しかし SGLT2阻害薬 が心不全増悪の抑制を示し、状況が変わりました。現在の柱は次のとおりです。
LVEF 41〜49% の HFmrEF は、名前のとおり中間群です。実務上の扱いはシンプルに考えて構いません。
心不全と心房細動は双方向に悪化させ合う関係にあります。心不全が心房を拡大させて心房細動を生み、心房細動が心不全を増悪させます。
| なぜ心不全が悪化するか | 内容 |
|---|---|
| 心房収縮の消失 | 心室充満の 20〜30% を心房収縮が担う。HFpEF では影響が特に大きい |
| 頻脈 | 拡張期が短くなり充満が減る。持続すれば頻脈誘発性心筋症を起こす |
| RR 不整 | 1拍ごとの拍出量が不安定になる |
対応の要点は3つです。
心不全患者の多くは腎機能障害を併せ持ちます。両者は独立した病気ではなく、互いに原因であり結果でもある関係です(心腎連関)。
貧血・鉄欠乏も高頻度に合併します。貧血は心拍出量を増やす方向に働き、心臓の仕事を増やします。鉄欠乏を伴う心不全では、鉄補充により症状・運動耐容能・QOL の改善が期待できます。ヘモグロビンが正常でも鉄欠乏はありうるため、フェリチンとトランスフェリン飽和度を測ることを覚えておいてください。
日本の心不全患者の大半は高齢者です。ここでは予後を延ばす以外の目標が前面に出てきます。
| 論点 | 考え方 |
|---|---|
| ポリファーマシー | 4本柱を揃えると薬は増える。本当に必要でない薬を減らすことで、4本柱の余地をつくる |
| フレイル・サルコペニア | 過度の安静と減塩は低栄養と筋力低下を招く。厳格すぎる制限は害になりうる |
| 認知機能・服薬管理 | 飲めない処方は効かない。1日1回にまとめる・一包化・家族や訪問看護の関与 |
| 治療目標 | 予後だけでなく QOL。2025年改訂版は治療目標にQOLの改善を明記した |