トップ講義一覧第2章
第 2 章 ・ 評価

痛みを評価する

何を聞くか/持続する痛みと突出する痛みを分ける/侵害受容性か神経障害性か/NRSの使い方と記録の残し方。

痛みの評価を強さを数字にすることだと思っていると、薬を選ぶ材料が集まりません。強さは薬の量を決めるだけで、どの薬を使うかは痛みの性質で決まります。この章で集めるのは、次の章から先で使う材料です。
§ 1

ベッドサイドで聞く6つ

痛みの問診は項目が多く見えますが、実際に薬の選択を変えるのは次の6つです。

聞くこと何が決まるか
部位。どこが痛むか、指で示せるか骨転移か、内臓か、神経の走行に沿うか。画像で確かめる場所も決まる
性状。どんな痛みか侵害受容性か神経障害性か(§3)。鎮痛補助薬が要るかどうか
時間パターン。一日中か、ときどきか定時薬を増やすのか、レスキューを整えるのか(§2)
強さ。10段階でいくつか効果判定の物差し。定時薬の量(§4)
増悪と寛解。何をすると強まるか、何で楽になるか体動で誘発されるなら骨転移や病的骨折を疑う。前もってレスキューを使う組み立てになる
生活への影響。眠れるか、食べられるか、動けるか治療の目標。数字より本人の言葉で残す
指で示せる痛みと、手のひらでさする痛みは、別のものです。一点を指せる痛みは体性痛(骨や筋)のことが多く、手のひらで漠然と示す痛みは内臓痛のことが多い。診察室で数秒で分かる情報です。

問診と同じ回でその部位を診察します。骨転移が疑わしい部位は叩いて痛みが響くか、体位で変わるか。腹部なら圧痛と腸蠕動音、腹膜刺激徴候。診ずに聞くだけで済ませると、消化管閉塞や病的骨折のような、鎮痛薬とは別の対応が要る状態を取り逃します。

§ 2

持続する痛みと突出する痛みを分ける

この2つを分けないと、定時薬を増やすべき患者にレスキューを足し、レスキューを整えるべき患者の定時薬を増やして眠らせてしまいます。

持続痛突出痛
一日の大半、途切れずにあるふだんは落ち着いているのに、一過性に強くなる
対応定時薬で底上げするレスキューで山を削る
増やす根拠安静時のNRSが下がらないレスキューの回数と、効いているかどうか

突出痛は、誘因の有無でさらに分かれます。ここまで分けると、レスキューをいつ飲むかが決まります。

使い方
予測できる体動、処置、排便、食事動く前に先回りして使う。痛くなってからでは間に合わない
予測できない誘因なく突然強くなる起きたらすぐ使えるよう、手元に置いておく
次の定時薬の直前に決まって痛くなるのは、突出痛ではありません。定時薬が切れているだけです。この形を見たら、レスキューを足すのではなく定時薬の量か投与間隔を見直します。レスキューで埋め続けると、一日中同じ時刻に痛む患者ができあがります。

見分け方は簡単で、痛くなる時刻が定時薬の服用時刻とそろっているかを見ます。ここは記録がないと分かりません。何時に痛くなり、何時にレスキューを使ったかを、時刻で残してもらいます。

§ 3

侵害受容性か、神経障害性か

痛みの性状を聞く理由はひとつで、オピオイドだけで取れる痛みかどうかが変わるからです。

種類患者の言葉代表薬の効き方
体性痛
(侵害受容性)
「ここが痛い」と一点を指せる。ずきずき、鋭い。動くと響く骨転移、皮膚、筋、術後創オピオイドとNSAIDsがよく効く。体動時痛は取りきれないことがある
内臓痛
(侵害受容性)
手のひらで漠然と示す。重い、鈍い、押される感じ。悪心を伴う肝転移の被膜伸展、腸管、膵オピオイドがよく効く
神経障害性しびれる、電気が走る、焼ける。触れただけで痛い神経叢浸潤、脊椎転移の神経根圧迫、化学療法後オピオイドだけでは取りきれないことが多い。鎮痛補助薬を足す(第7章)
神経障害性の痛みを、オピオイドの量で追いかけないでください。増やしても取れず、眠気とせん妄だけが増えます。しびれる・電気が走る・触れただけで痛いという言葉が出たら、量ではなく薬の種類を足す方向に切り替えます。

ひとりの患者に何種類も同時に起きます。骨転移の体性痛に、脊椎転移からの神経根症状が乗っているのは日常的な組み合わせです。痛みの部位ごとに性状を聞くと取りこぼしません。「痛みはどうですか」ではなく「腰の痛みはどうですか」「足のしびれはどうですか」と分けて聞きます。

§ 4

NRSで測って、記録に残す

強さは0から10の数字で聞きます。0が痛みなし、10が想像できる最悪の痛み。これをNRSと呼びます。

安静時のNRS / 体動時のNRS / この24時間で最も強かったときのNRS

ひとつの数字では足りません。安静時は2でも体動時は8という患者は珍しくなく、この2つを分けて記録しないと、定時薬を増やすべきなのかレスキューを整えるべきなのかが後から読めなくなります。

治療の目標は段階で立てます。いきなり0を目指すと、そこに届かない患者と医療者の両方が消耗します。
第1段階 夜間、痛みで目が覚めずに眠れる 第2段階 安静にしていれば痛みがない 第3段階 動いても痛みがない
第3段階まで届かない痛みはあります。どこまで取れたかを本人と共有することが、次の一手を一緒に決める土台になります。

記録の形は決まっています。治療を変える前のNRSと、変えたあとのNRSを、同じ物差しで残す。これが揃っていないと、効いたかどうかを自分以外の人が判断できません。

いつ測るか何のため
治療を変える前出発点。これが無いと効果を判定できない
レスキューを使って30〜60分後(経口)そのレスキューが効いたか。効かないなら1回量が足りない(第5章)
翌日、同じ時間帯定時薬を増やすかどうか。レスキューの回数と並べて見る

数字だけでなく、本人の言葉も一行残します。「夜通し眠れた」「トイレまで歩けた」は、NRSが1しか下がっていなくても治療がうまくいっている証拠になります。逆に「数字は下がったが一日中眠い」は、次の章から扱う副作用の話です。

§ 5

症例で確認

64歳女性。乳癌、多発骨転移(胸椎・骨盤)。外来化学療法中。
オキシコドン徐放錠 20mg/日 分2 を内服中。レスキューはオキシコドン速放製剤が処方されている。
本人の訴えは3つ。
腰は一日中重い。安静時のNRSは3。
起き上がる瞬間に激痛が走る。そのときのNRSは9。すぐ治まる。
右の太ももの外側がしびれて、焼けるように痛い。ズボンが触れるだけで痛い。夜に強い。
レスキューは1日6回使っており、①と③には効いた感じがしないと言う。

この患者の痛みを分解して、次に何をするかを考えてください。

13つの訴えをどう分けるか
別々の痛みが3つ重なっています。
① 腰が一日中重い      → 持続痛(体性痛) ② 起き上がる瞬間の激痛   → 予測できる突出痛(体動時痛) ③ 太ももの外側のしびれと灼熱感 → 神経障害性疼痛
③はズボンが触れるだけで痛いという訴えが決め手です。触れただけで痛むのは神経障害性の痛みに特徴的で、体性痛や内臓痛の言葉ではありません。胸椎・骨盤の転移から神経が巻き込まれている可能性を、画像で確かめに行く場面です。
2レスキュー6回をどう読むか
回数だけを見て定時薬を増やすと外します。何に使って、効いたかどうかまで聞きます。
この患者は①と③には効いた感じがしないと言っています。②に使ったぶんは正しい使い方で、①に使ったぶんは定時薬が足りていないという情報、③に使ったぶんは薬の種類が合っていないという情報です。同じ「6回」でも、意味が3つに割れています。
ここを分けずに「レスキュー6回だから定時薬を増やそう」とすると、③は取れないまま眠気だけが増えます。
3次に何をするか
痛みごとに手が違います。
① 持続痛  → 定時薬の増量を検討する(第5章) ② 体動時痛 → 起き上がる前にレスキューを先に使う。骨転移そのものへの手も考える(第7章) ③ 神経障害性 → 鎮痛補助薬を足す(第7章)。オピオイドの増量では追いかけない
②は使い方を教えるだけで改善するところです。痛くなってから飲んでも、経口の速放製剤は効くまでに時間がかかります。起き上がる予定の30分前に使う、と決めておきます。
そして、変える前のNRSを記録してから変えます。①の安静時3、②の体動時9、③の夜間の強さ。この3つを別々に残します。
3つの痛みを分けて、それぞれに別の手を当てる。①は定時薬、②はレスキューの先回り、③は鎮痛補助薬。
レスキューの回数は、何に使って効いたかまで聞いて初めて判断材料になります。1つの数字にまとめないことが、この章のいちばんの持ち帰りです。
この章の要点
次のステップ
第3章:鎮痛薬を始めるアセトアミノフェンとNSAIDs/強オピオイドを始める判断/麻薬処方の実務 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。