トップ講義一覧第6章
第 6 章 ・ 副作用

副作用を先回りする

便秘は必発で耐性ができない/嘔気は最初の1〜2週/眠気・せん妄・ミオクローヌス/呼吸抑制の見分け方とナロキソン。

オピオイドの副作用は、どれが起こるかも、いつ起こるかも、だいたい決まっています。決まっているなら先に手を打てます。起きてから対応する形にすると、患者は苦しみ、薬をやめたいと言い出します。
§ 1

便秘だけは耐性ができない

眠気も嘔気も、続けているうちに体が慣れて軽くなります。便秘だけは慣れません。オピオイドを使っているあいだずっと続きます。だから、起きてから下剤を出すのではなく、始めるときに一緒に出します

オピオイドを始める処方に、下剤が入っていなければ未完成
種類代表気をつけること
浸透圧性酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール製剤酸化マグネシウムは腎機能低下で高マグネシウム血症。高齢者と腎障害では定期的に測る
刺激性センノシド、ピコスルファート腹痛。連用で効きにくくなることがある。頓用として重ねる使い方が向く
上皮機能変容薬などルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット浸透圧性で足りないときの選択肢
末梢性オピオイド受容体拮抗薬ナルデメジンオピオイド誘発性便秘症そのものに効く。消化管閉塞やその疑いには禁忌。下痢が出やすい。オピオイドを中止したら本剤も中止する
ナルデメジンは、腸のオピオイド受容体だけを外す薬です。脳に届きにくいので鎮痛は保たれます。ただし閉塞している腸を動かすと穿孔しうるため、腹部膨満・嘔吐・排ガス停止があるときは、まず閉塞を否定してから使います。用量と規格は薬から引くリファレンスにまとめてあります。

下剤を出したあとは、出たかどうかを確かめます。「便秘薬は出してあります」で終わると、3日後に嘔気と腹痛で呼ばれます。最終排便日を毎日の記録に入れておくのがいちばん確実です。

便秘は嘔気の原因になります。「オピオイドで気持ち悪い」と言われたとき、制吐薬を足す前に便が出ているかを聞いてください。便秘を放置したまま制吐薬を重ねると、どちらも解決しません。
§ 2

嘔気は最初の1〜2週

オピオイドによる嘔気は、開始時と増量時に出て、多くは1〜2週で軽くなります。ここに耐性ができるからです。この見通しを患者に伝えておくと、その期間を乗り切れます。

制吐薬を最初から定時で飲ませることは、ふつうしません。全員に出るわけではなく、眠気や錐体外路症状を上乗せするからです。出すのは嘔気時の指示です。起きたときにすぐ使えるようにしておき、実際に出た患者だけ定期投与へ切り替えます。

使う薬は、原因の見立てで選びます。代表はプロクロルペラジン、メトクロプラミド、ハロペリドール、オランザピンです。錐体外路症状とせん妄には注意します

疑うもの手がかり対応
オピオイドそのもの開始・増量の直後。1〜2週で軽くなる嘔気時の指示。続くなら成分の変更(第8章)
便秘最終排便が数日前。腹部膨満下剤を先に。制吐薬を重ねない
消化管閉塞嘔吐、排ガス停止、腹部膨満、金属音画像で確かめる。ナルデメジンは使わない(第9章)
高カルシウム血症口渇、多尿、傾眠、便秘も伴う採血する。治療できる原因(第1章 §3)
脳転移・頭蓋内圧亢進頭痛、朝方に強い、神経所見画像。ステロイドを考える
薬剤抗がん薬、抗菌薬、鉄剤など被疑薬を整理する

嘔気が2週を超えて続くときは、オピオイド以外の原因を探し直します。耐性ができるはずの期間を過ぎているので、別の理由があると考えるほうが自然です。

§ 3

眠気・せん妄・ミオクローヌス

この3つはつながっています。眠気が強まり、話がかみ合わなくなり、手足がぴくつくという順で出てくることがあり、いずれもオピオイドが多すぎるか、たまっているサインです。

症状ふつうの経過それを外れたら
眠気開始・増量から数日で軽くなる数日を過ぎても強い、痛みは取れているのに眠い → 減量(第5章 §4)
せん妄オピオイドだけが原因のことは少ない薬剤・脱水・尿閉・便秘・感染・高カルシウム血症・脳転移・癌性髄膜炎を探す(第9章)
ミオクローヌスふつうは起きない高用量か、腎機能低下による蓄積。減量か成分の変更(第4章 §3、第8章)
眠気とミオクローヌスが揃ったら、量ではなく腎機能を見に行きます。薬を増やしていないのに眠気が出たなら、変わったのは患者のほうです。食べられていない、飲めていない、脱水になっている。eGFR 計算ツールで確認します。

そのほかに、掻痒、口渇、尿閉、発汗があります。掻痒はヒスタミン遊離によるもので、成分を変えると軽くなることがあります。尿閉は高齢男性で見落とされやすく、せん妄の原因としても効いてきます。落ち着かない患者を見たら、腹部を触って膀胱を確かめてください。

§ 4

呼吸抑制の見分け方

研修医がいちばん恐れているのはここですが、痛みに合わせて調節されているかぎり、致命的な呼吸抑制はまず起こりません。痛みそのものが呼吸を促す方向に働くためです。起こるのは、痛みが急に取れたときや、腎機能が落ちて薬がたまったときです。

眠気が先に来る → 呼吸数が落ちる → 呼吸が浅くなる

この順番が大事で、いきなり呼吸が止まることはありません。だから見張るべきは呼吸数と覚醒の程度です。酸素飽和度は、酸素を投与していると最後まで下がらないことがあり、当てになりません。

状態所見対応
問題なし呼びかけで覚醒し会話できる。呼吸数が保たれているそのまま。眠れていること自体は良い徴候
注意強い眠気。呼びかけないと眠り続ける。呼吸数が落ちてきた次の定時薬を飛ばす。原因(腎機能・脱水・併用薬)を探す
危険強い刺激でも覚醒しない。呼吸数が明らかに少ない。縮瞳ナロキソン。応援を呼ぶ
ナロキソンは、量を一気に外す薬ではありません。添付文書では成人に1回0.2mgを静脈内投与し、効果不十分なら2〜3分間隔で0.2mgを1〜2回追加する、とされています。ただし緩和ケアの場面では、希釈して少量ずつ、呼吸数を見ながら使うのが実務です。一度に打つと、抑えていた痛みが一気に戻り、離脱症状も起こります。
作用時間はオピオイドより短い。いったん戻っても、また抑制されます。投与したら監視を続け、必要なら繰り返します。

そして、危険な状態でないならナロキソンを使わないことのほうが多い。呼吸数が保たれていて呼びかけで開眼するなら、次の定時薬を飛ばして原因を探すほうが安全です(第4章 §5)。

§ 5

症例で確認

73歳女性。胃癌、腹膜播種。入院中。
4日前からオキシコドン徐放錠を開始し、現在20mg/日 分2。痛みは落ち着いてきた。
本日、嘔気が強く食事が入らないと訴える。制吐薬の頓用を2回使ったが変わらない。
最終排便は4日前。腹部はやや膨満、腸蠕動音は亢進して金属音を聴取。排ガスは昨日から出ていない。
下剤は開始時に処方されていたが、「効きすぎるのが心配で飲んでいない」と本人が話す。
採血:Ca 9.1(補正値)、Cr 0.8、電解質異常なし。

この嘔気にどう対応するかを考えてください。

1この嘔気の原因は何か
開始4日目なのでオピオイドによる嘔気は当然考えます。しかしそれだけで済ませてはいけない所見が並んでいます。
最終排便 4日前     → 便秘 排ガス停止      → 通過障害 腹部膨満+金属音   → 消化管閉塞を疑う所見 腹膜播種という背景  → 閉塞が起こりやすい
高カルシウム血症は否定されています(Ca 9.1)。制吐薬を足す場面ではありません。まず画像で閉塞の有無を確かめます。
2下剤をどうするか
ここが分かれ目です。「便が出ていないから下剤を強めよう」と考えると危険です。
消化管閉塞が疑われる状況で刺激性下剤を使うと、閉塞部より上の腸管を動かすことになります。腹痛が悪化し、穿孔のリスクもあります。ナルデメジンは消化管閉塞またはその疑いには禁忌で、この患者はまさにその「疑い」に当たります。
やることは、下剤を強めることではなく、閉塞かどうかを先に決めることです。単純X線か造影を含む画像で確かめます。閉塞であれば対応そのものが変わります(第9章)。
3「飲んでいない」をどう扱うか
下剤は処方されていたのに飲まれていませんでした。処方したことと、飲まれていることは別です(第3章 §4)。
この患者は「効きすぎるのが心配」と言っています。理由を聞かずに「飲んでください」と繰り返しても変わりません。便秘は耐性ができず、飲み続ける必要があること、量は調節できることを伝え、飲める形に組み直します。
今回のように、飲まれていない薬が背景にあると、症状の原因を薬効の問題と読み違えます。痛みでも便秘でも、まず残薬を数える。
今日やること  画像で消化管閉塞の有無を決める  閉塞が否定されるまで、下剤の強化とナルデメジンは行わない  制吐薬を重ねる前に原因を決める  飲めていない理由を聞き、飲める形にする
オピオイドによる嘔気と決めつけず、消化管閉塞を先に否定する。閉塞が疑われるあいだは刺激性下剤とナルデメジンを使わない。処方されていた下剤が飲まれていなかったことも、原因の一部。
この章の持ち帰りは、便秘は必発で耐性ができないので最初から出すことと、嘔気を見たらまず便が出ているかを聞くことです。
この章の要点
次のステップ
第7章:増やす以外の手を持つ鎮痛補助薬/骨転移/神経ブロック/メサドン 講義一覧に戻る章の一覧
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。