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第 5 章 ・ 調節

定時薬とレスキューを組む

レスキューの1回量はどう決まるか/いつ増やすか/増やしてはいけないとき/効果判定の間隔。

オピオイドの調節は、前の日に何が起きたかを読む作業です。読む材料はNRSとレスキューの回数の2つだけで、どちらも記録がなければ読めません。この章は、記録から次の量を決めるところまでを扱います。
§ 1

2本立てで組む

定時薬は持続痛の底を上げ、レスキューは突出痛の山を削ります。どちらか一方では足りません。

定時薬で底を上げる + レスキューで山を削る
定時薬レスキュー
飲み方痛くなくても決まった時刻に痛くなったとき、または痛くなる前に
製剤徐放製剤(1日1〜2回)速放製剤
増やす根拠安静時のNRSとレスキューの回数1回使って効いたかどうか
レスキューを処方していない定時薬の処方は、未完成です。突出痛は必ず起こります。手元に無ければ、患者は痛みが治まるのを待つか、看護師が当直医を呼ぶことになります。定時薬を出すときは同じ画面でレスキューも出すと決めておくと落ちません。
§ 2

レスキューの1回量

経口の場合、目安は定時薬1日量の6分の1です。定時薬を増やしたら、レスキューも連動して増やします。

レスキュー1回量 ≒ 定時薬の1日量 ÷ 6 例)オキシコドン徐放錠 30mg/日   30 ÷ 6 = 5mg → オキシコドン速放製剤 5mg/回
6分の1は決まった数字ではなく、出発点です。1回使って効かなければ足りていないので上げ、効くが眠くなりすぎるなら下げます。「1回使って効いたか」を毎回聞くことが、この数字をその患者に合わせていく唯一の方法です。
定時薬の形レスキューの決め方
経口の徐放製剤同じ成分の速放製剤を、1日量の6分の1から
持続注射1時間量を早送りするのが基本(第8章)
フェンタニル貼付剤貼付剤に速放製剤は無い。別の成分の内服速放製剤を用意する

使ってよい間隔も決めて渡します。経口の速放製剤なら効き始めまでに時間がかかるため、効果を判定してから次を使います。間隔を伝えないと、効かないと感じた患者が短時間に重ねて使い、あとから眠気が出ます。

予測できる突出痛には、先回りして使います。体動、処置、入浴、排便。経口の速放製剤は飲んですぐには効かないので、動く予定の前に使うと決めておきます(第2章 §2)。「痛くなったら飲んでください」だけでは、この使い方は伝わりません。
§ 3

いつ、どれだけ増やすか

増量の根拠は2つです。安静時のNRSが目標に届いていないことと、レスキューを繰り返し使っていること。どちらか片方だけでは決めません。

前日の様子読み方次の手
レスキューを何度も使い、使えば効く底が足りていない定時薬を増やす
レスキューを使っても効かない1回量が足りないか、痛みの種類が違うレスキューの1回量を上げる。効かなければ第7章へ
レスキューはほとんど使っていないが、安静時のNRSが高い飲めていないか、痛みを訴えていない残薬を数える。使い方を聞き直す
痛みは取れているが眠い多すぎる減らす(§4)

増やす幅の目安は、いまの1日量の30〜50%増です。倍にはしません。

例)オキシコドン徐放錠 20mg/日 分2   → 30〜50%増 → 30mg/日 分2   レスキューも連動 → 30 ÷ 6 = 5mg/回
効果を判定する間隔は、製剤で変わります。経口の徐放製剤は血中濃度が落ち着くまで時間がかかり、貼付剤はさらに遅い(第4章 §4)。増やした翌日に効かないからといって、続けて増やすと、あとから効いてきて眠くなります。変えたら、効いてくる時間を待ってから次を判断します。

痛みが強く、待っていられないときは、徐放製剤の増量を待たずに速放製剤で先に痛みを抑えます。速放製剤で必要量が見えてから、その量に見合う徐放製剤へ移す、という順番です。

§ 4

増やしてはいけないとき

増量が答えにならない場面が4つあります。ここを見分けられないと、眠気とせん妄だけが増えていきます。

場面見分け方やること
痛みは取れているのに眠いNRSは下がっている。日中うとうとする減量する。眠気は副作用であって目的ではない
神経障害性の痛みしびれる、電気が走る、触れただけで痛い鎮痛補助薬を足す(第7章)。量では追わない
痛み以外の苦痛部位が毎回変わる。夜だけ強い。眠れていない不安・不眠・せん妄を評価する(第1章 §2、第9章)
定時薬の切れ目痛くなる時刻が服用時刻とそろっている1回量か投与間隔を見直す。レスキューで埋めない(第2章 §2)
「痛みは取れているのに眠い」は、増量の失敗ではなく、減量の合図です。症状が取れたところが到達点で、そこから先に増やす理由はありません。苦痛を取ることと、眠らせることは別のことです。手を尽くしても取れない苦痛への対応は第10章で扱います。
切れ目は、併用している非オピオイドでも起こります。アセトアミノフェンやNSAIDsが毎食後になっていると、夕から翌朝まで間隔が空き、明け方だけ痛いという形になります。オピオイドを増やす前に、併用薬の服用時刻を見てください。眠前を1回入れるだけで解決することがあります(第3章 §1)。

もうひとつ、治療できる原因が残っていないかを折に触れて確かめます(第1章 §3)。病的骨折、消化管閉塞、尿閉、感染。増やしても取れない痛みの背後に、鎮痛薬とは別の手が要る状態が隠れていることがあります。

§ 5

症例で確認

69歳女性。大腸癌、肝転移。入院中。
オキシコドン徐放錠 20mg/日 分2(朝夕)、レスキューはオキシコドン速放製剤 5mg/回
前日24時間の記録。
・安静時のNRS 5〜6(目標は「夜眠れる」に届いていない)
・レスキュー 5回 使用。うち4回は使って30分ほどで楽になった
・残り1回は「あまり変わらなかった」
・日中の眠気なし。便は2日出ていない。
・痛みの部位は右季肋部で、手のひらで示す重い痛み。しびれや灼熱感はない。

今日の指示をどう変えるかを考えてください。

1増やすべきか、増やさないべきか
増やす場面です。根拠は2つ揃っています。
安静時のNRS 5〜6 → 目標に届いていない レスキュー5回、うち4回は効いた → 底が足りていない
「使えば効く」ことが大事です。効いているなら痛みの種類は合っており、足りないのは量です。
眠気が無いことも確かめました。眠気があれば増量ではなく減量の話になります(§4)。
痛みの性状も内臓痛として矛盾しません(手のひらで示す重い痛み、しびれなし)。神経障害性の要素は今のところありません。
2いくつにするか
いまの1日量の30〜50%増を目安にします。
定時薬 20mg/日 × 1.5 = 30mg/日 分2 レスキュー 30 ÷ 6 = 5mg/回 (変わらない)
レスキューの1回量は今回は変わりません。20mg/日でも30mg/日でも、6分の1は5mgの規格に収まるためです。定時薬を増やすたびにレスキューも増える、と機械的に覚えていると、ここで不要な増量をします。
倍量(40mg/日)にしないのは、効いてくるまでに時間があり、行き過ぎると眠気として返ってくるからです。足りなければ明日また上げられます。
3同時に何を確かめるか
見落としやすいのが便が2日出ていないことです。
オピオイドによる便秘は必発で、耐性ができません(第6章)。下剤が処方されているか、飲めているかを確認します。放置すると数日後に嘔気や腹痛として返ってきて、それを痛みの悪化と読み違えると、さらに増量することになります
もうひとつは記録です。増やす前のNRS 5〜6を残し、明日は同じ物差しで測り直します。
明日見るもの  安静時のNRS(目標は夜眠れること)  レスキューの回数と、効いたかどうか  日中の眠気の有無  排便
定時薬をオキシコドン徐放錠 30mg/日 分2 に増量。レスキューは5mg/回のまま。下剤を確認し、増量前のNRSを記録して明日同じ物差しで測り直す。
この章の持ち帰りは、増量の根拠はNRSとレスキューの2つで、片方だけでは決めないことと、倍にせず30〜50%ずつということです。
この章の要点
次のステップ
第6章:副作用を先回りする便秘は必発/嘔気は1〜2週/呼吸抑制の見分け方とナロキソン 講義一覧に戻る章の一覧
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