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第 7 章 ・ 難治

増やす以外の手を持つ

鎮痛補助薬/骨転移への手/脊髄圧迫は待てない/メサドンと神経ブロック。

オピオイドを増やしても痛みが取れないとき、さらに増やすと眠気とせん妄だけが増えます。そこから先は、量ではなく手札の問題です。この章は、増やす以外に何が使えるかを並べます。
§ 1

取れない痛みには3つの顔がある

手がかり次の手
神経障害性しびれる、電気が走る、焼ける、触れただけで痛い鎮痛補助薬(§2)、メサドン、神経ブロック(§4)
骨転移の体動時痛安静では平気なのに、動く瞬間だけ激痛放射線、骨修飾薬、固定。レスキューの先回り(§3)
治療できる原因が残っている経過に合わない急な悪化、神経所見、発熱、腹部所見原因を治す。それが最大の緩和(第1章 §3)
安静時は取れているのに体動時だけ痛いという形は、オピオイドの増量で埋めにくいことを知っておいてください。安静時に合わせると動けるようになりませんが、体動時に合わせると安静時に眠くなります。だから、量ではなく別の手を足します。
§ 2

鎮痛補助薬

鎮痛補助薬は、本来は鎮痛薬として作られていない薬を、痛みに使うものです。神経障害性の痛みに対して、オピオイドに足して使います

使いどころ気をつけること
ミロガバリン神経障害性疼痛。少量から1週間以上あけて段階的に増やす眠気とめまい腎機能で開始量も推奨量も変わる
プレガバリン同上。使用経験が長い眠気、めまい、浮腫、体重増加。腎機能で調整。高齢者は少量から
デュロキセチンしびれや灼熱感が続くとき嘔気、食欲低下。中止時は漸減。がん疼痛そのものの効能は持たない
ステロイド神経や脊髄の圧迫、頭蓋内圧亢進、骨転移痛、肝被膜伸展高血糖、不眠、せん妄、易感染。漫然と続けない
ケタミン難治性の神経障害性疼痛。専門科と組んで使う悪夢、せん妄、血圧上昇。研修医が単独で始める薬ではない
効能・効果を確かめてから出してください。鎮痛補助薬の多くは、がん疼痛そのものを効能として持っていません。神経障害性疼痛としての適応で使えるのか、適応外の使用になるのかで、施設の手続きが変わります。「緩和ケアだから何でも使える」ということはありません。

始め方の原則は共通しています。少量から、1剤ずつ、間隔をあけて増やす。同時に2剤足すと、効いたのがどちらか分からず、眠気が出たときにどちらを止めるかも決められません。用量と腎機能ごとの調節は薬から引くリファレンスにまとめてあります。

効果判定にも時間がかかります。オピオイドのように翌日には決まりません。増やしながら1〜2週みて、効かなければ切り替えます。いつまでに判定するかを最初に決めておくと、効かない薬が積み上がりません。
§ 3

骨転移には薬以外の手がある

骨転移の痛みは、薬だけで追いかけると行き詰まります。放射線が効きます。

中身覚えておくこと
放射線限局した有痛性骨転移に照射する効果が出るまでに数日から数週かかる。その間の鎮痛は続ける
骨修飾薬デノスマブ、ゾレドロン酸。骨関連事象を減らす低カルシウム血症顎骨壊死。開始前に歯科を通す。カルシウムとビタミンDを補う
整形外科的な固定病的骨折、切迫骨折荷重骨は折れる前に相談する
ラジウム-223去勢抵抗性前立腺癌の骨転移適応が限られる。専門科の判断
デノスマブを始める前に、血清カルシウムを測って補正します。低カルシウム血症があるまま始めると重篤になりえます。開始後も数日から起こるため繰り返し測ります。カルシウムと天然型ビタミンDの補充を併せて行うのが添付文書上の要求です。用量は薬から引くリファレンスにあります。
背部痛に下肢の筋力低下や排尿の異常が加わったら、脊髄圧迫を疑って、その日のうちに動きます。ここは鎮痛の話ではありません。歩けるうちに治療を始められたかどうかで、その後歩けるかが変わります。画像を急ぎ、ステロイドを開始し、放射線腫瘍科や脊椎外科に連絡します。翌朝まで様子を見る判断はしません。

脊髄圧迫を疑う所見は、痛みそのものより神経の症状です。下肢の脱力、しびれの範囲が広がる、尿が出にくい、尿が漏れる、肛門周囲の感覚が鈍い。患者は痛みしか訴えないことがあるので、こちらから聞きます。

§ 4

メサドンと神経ブロック

メサドンは、他の強オピオイドで治療が難しい痛みに使う薬です。他の強オピオイドとの交差耐性が少なく、NMDA受容体への拮抗作用を持つため、神経障害性の痛みに効果が期待できます。

メサドンの性質
適応他の強オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度のがん疼痛。必ず他剤から切り替えて使う。最初に選ぶ薬ではない
処方の要件麻薬施用者免許に加えて適正使用の講習を受けて登録した医師であること。調剤する薬局にも登録された薬剤師が要る
危険QT延長による重篤な不整脈。定期的な心電図が必要
扱いにくさ半減期が長く個体差が大きい。効果の立ち上がりが遅く、蓄積による呼吸抑制が遅れて出る
換算単純な比で換算できない。もとのオピオイドの量によって比が変わる
研修医が自分で始める薬ではありませんが、名前と位置づけは知っておいてください。神経障害性の痛みで手詰まりになったとき、緩和ケアチームに相談する選択肢のひとつがこれです。相談できることを知っているかどうかが、患者の数日を変えます。

神経ブロックも、薬で行き詰まったときの手です。膵癌や上腹部の内臓痛に対する腹腔神経叢ブロックのように、効けばオピオイドを減らせることがあります。適応が合う患者は限られますが、合えば効果が大きい。麻酔科やペインクリニックに相談します。

手詰まりを一人で抱えないことが、この章のいちばんの中身です。鎮痛補助薬、放射線、メサドン、神経ブロック。どれも研修医が単独で決める手ではありません。増量を繰り返して眠らせてしまう前に、相談するという判断そのものが手札です。
§ 5

症例で確認

66歳男性。肺癌、胸椎転移(Th8)。外来通院中。
オキシコドン徐放錠 60mg/日 分2。2週間で20mg→40mg→60mgと増量してきた。
本日の外来で、背部痛は変わらず、レスキューも効かないと訴える。
さらに聞くと、3日前から両下肢が重く、階段が上りにくい昨日から尿が出にくい感じがある。
診察:下肢筋力は徒手筋力テストで両側4/5。膀胱は臍下に触れる。肛門周囲の感覚が鈍いと言う。
研修医は「オピオイドが足りないので80mgに増やそう」と考えている。

この患者に今日何をするかを考えてください。

1増量してよいか
増量の問題ではありません。神経の症状が3日で進行しています。
胸椎転移 + 両下肢の筋力低下 + 排尿障害 + 肛門周囲の感覚低下
これは脊髄圧迫を強く疑う組み合わせです。膀胱が臍下に触れるのは尿閉で、すでに膀胱直腸障害が出ています。
ここでオピオイドを80mgに増やして帰すと、数日で歩けなくなる可能性があります。痛みが取れないことより、神経症状の進行のほうが重大です。
2今日のうちに何をするか
その日のうちに動きます。翌朝まで待つ判断はしません。
画像    脊髄の圧迫を確かめる ステロイド 診断を待たずに開始を検討する 連絡    放射線腫瘍科・脊椎外科・主治医 導尿    尿閉に対して
歩けるうちに治療を始められたかどうかで、その後歩けるかが変わります。いま両側4/5で階段が上りにくい段階は、まだ間に合う可能性がある時期です。
鎮痛は続けます。ただし今日の主役は鎮痛ではありません
3痛みそのものにはどう手を打つか
脊髄圧迫への対応と並行して、痛みの手札も整理します。
この患者の痛みは、2週間で3倍に増やしても取れていません。増やして取れないなら、量の問題ではありません(§1)。神経が圧迫されている以上、神経障害性の要素が乗っている可能性が高い。
原因への治療 放射線(効くまでに数日〜数週) ステロイド  圧迫による浮腫と痛みの両方に働く 鎮痛補助薬  神経障害性の要素に(§2) オピオイド  続ける。ただし増量で追いかけない
放射線が効いてくるまでの数日は、鎮痛薬で支えます。効いてきたらオピオイドを減らせることもあるので、そのときに減量を検討します。
脊髄圧迫としてその日のうちに動く。画像・ステロイド・専門科への連絡・導尿。オピオイドの増量で帰さない。
この章の持ち帰りは、増やしても取れない痛みの背後に、治療できる原因が隠れていることがあることと、背部痛に神経の症状が加わったら鎮痛の話ではなくなることです。
この章の要点
次のステップ
第8章:経路を変える・薬を変えるスイッチングと減量/持続皮下注とPCA/内服できなくなったとき 講義一覧に戻る章の一覧
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