人工呼吸は1日でも短いほうが良い治療です。長引けば人工呼吸器関連肺炎・呼吸筋の萎縮・せん妄・鎮静薬の合併症が積み上がります。一方で早すぎる抜管は再挿管を招き、これも予後を悪化させます。いつ外せるかを系統的に判断する方法を扱います。
§ 1
離脱は毎日評価するプロセス
離脱を主治医の感覚に任せると、必ず遅れます。毎朝、全患者に同じチェックを行うことが標準です。
SAT(自発覚醒トライアル)
鎮静薬を減量/中止し、覚醒するか評価する。まず目を覚ますかを確認しないと、呼吸の評価はできない。
離脱の前提条件を満たすか確認
原疾患・酸素化・循環・意識の4点(§2)。1つでも欠ければこの日は見送り、翌日再評価。
SBT(自発呼吸トライアル)
呼吸器の補助をほぼ外し、30〜120分間、自力で呼吸できるかを試す(§3)。
気道の評価
SBT に成功しても、気道が保てなければ抜管できない。咳嗽力・分泌物・喉頭浮腫を評価(§5)。
抜管、そして抜管後の管理
ハイリスク例には予防的な NHF/NPPV を準備しておく(§6)。
SAT と SBT はセットで行います。両者を組み合わせたプロトコルが、人工呼吸期間の短縮と予後の改善につながることが示されています。鎮静を切ることと呼吸器を外してみることを、毎朝ペアで実施すると覚えてください。
§ 2
離脱の前提条件
SBT を試してよい条件(目安)
- 原疾患が改善/コントロールされている(最も重要。ここが未達なら他が揃っても失敗する)
- 酸素化:P/F 比 > 150〜200、PEEP ≤ 5〜8 cmH₂O、FiO₂ ≤ 0.4〜0.5
- 酸塩基:pH > 7.25
- 循環:昇圧薬なし、または少量で安定。活動性の心筋虚血・重篤な不整脈がない
- 意識:覚醒し、簡単な指示に従える
- 呼吸:十分な自発呼吸があり、咳嗽ができる
- その他:発熱・重篤な貧血・電解質異常が是正されている
意識が戻らない=抜管できない、とは限りません。気道を保てて咳嗽ができるなら、指示に従えなくても抜管できる場合があります(脳血管障害後など)。逆に意識清明でも分泌物が処理できなければ抜管は危険です。意識レベルそのものより、気道を守れるかで判断します。
§ 3
SBT(自発呼吸トライアル)
呼吸器の補助をほぼ取り去り、抜管後に近い負荷をかけて耐えられるかを見るテストです。
実施時間:30分で十分とされます(30分と120分で成功率は変わらないという報告があります)。長期挿管例や神経筋疾患では 120分まで延ばすこともあります。
SBT 中は必ずそばで観察します。モニターの数字だけでなく、呼吸パターン・補助呼吸筋・表情・発汗を見てください。失敗は数字より先に見た目に現れます。
§ 4
SBT 失敗のサインと RSBI
SBT 失敗とみなす所見
- 呼吸数 > 35 回/分が 5 分以上続く
- SpO₂ < 90%(または PaO₂ < 60 mmHg、FiO₂ ≤ 0.5 で)
- 心拍数 > 140/分、または開始時から 20% 以上の変化
- 収縮期血圧 > 180 または < 90 mmHg
- 不穏・発汗・強い不安/意識レベルの低下
- 奇異性呼吸・補助呼吸筋の使用
数値化した補助指標として RSBI(浅速呼吸指数)があります。
RSBI = 呼吸数 ÷ 一回換気量(L)
例:呼吸数 24 回/分、一回換気量 400 mL(0.4 L)
= 24 ÷ 0.4 = 60 → 良好
< 105
離脱成功を示唆
≈ 105
> 105
失敗を示唆
浅く速い呼吸(小さい TV × 多い RR)は呼吸筋疲労のサインです。RSBI はその程度を1つの数字にしたもので、SBT 開始 1〜2 分後に測定します。
RSBI 単独で抜管を決めないでください。感度・特異度とも十分ではなく、あくまで臨床所見を補う指標です。とくに女性や細径チューブでは高めに出やすいことが知られています。
SBT に失敗したら
- 元の設定に戻して休ませる(そのまま粘らない)。呼吸筋を疲れさせるだけです。
- 失敗の原因を探す:心不全の顕在化(陽圧が外れて前負荷が増える)、感染の再燃、鎮静薬の残存、せん妄、電解質異常(低リン・低マグネシウムは呼吸筋力を落とす)、栄養不良、甲状腺機能低下。
- 翌日また試す。1回の失敗は今日は無理という意味であって、離脱できないという意味ではありません。
§ 5
最後の関門は気道
SBT に成功しても抜管できるとは限りません。呼吸ができることと、気道を守れることは別問題です。
| 確認項目 | 見方 |
| 咳嗽力 | 指示で咳ができるか。カード法(チューブの先にカードをかざして飛沫がつくか)で評価することもある |
| 分泌物の量 | 吸引の頻度が 2 時間に 1 回を超えるようなら抜管失敗のリスクが高い |
| 意識・嚥下 | 気道を防御できるか |
| 喉頭浮腫 | カフリークテスト(下記) |
カフリークテスト
カフの空気を抜いた状態で、チューブの脇から空気が漏れるかを見ます。漏れが少なければ喉頭が腫れてチューブとの隙間がない=抜管後に上気道閉塞を起こす危険を意味します。
- 陽性(リークが少ない)の目安:リーク量 < 110 mL、または吸気換気量の < 10〜15%
- 実施する対象:全例ではなく、ハイリスク例に行います ― 長期挿管(> 6日)、外傷性・困難挿管、太いチューブ、女性、再挿管例、頸部手術後
- 陽性のときの対応:抜管を延期し、抜管の 4〜24時間前から全身ステロイド(メチルプレドニゾロンなど)を投与してから再評価します。
カフリークテストは偽陽性が多い検査です。リークがないというだけで抜管を無期限に延期すると、かえって挿管期間が延びます。ハイリスク例に限って実施し、結果は総合判断の一材料として扱ってください。
§ 6
抜管後の管理
抜管は終わりではありません。再挿管率は 10〜20% あり、再挿管となった患者は予後が悪くなります。抜管後 48 時間は要注意期間です。
抜管後にハイリスクとされる患者
- 65歳以上、心疾患・COPD などの基礎疾患がある
- 高 CO₂ 血症が残っている、BMI > 30
- 挿管期間が長い(> 7日)、SBT を複数回失敗した
- 咳嗽力が弱い・分泌物が多い、APACHE スコアが高い
ハイリスク例には予防的に NHF または NPPV を装着します。抜管後に悪くなってから NPPV を始めるよりも、最初から予防的に使うほうが再挿管を減らせることが示されています。特に高 CO₂ 血症のリスクがある例では NPPV が選ばれます。
抜管後喘鳴(上気道閉塞)
吸気性喘鳴(stridor)が出現したら喉頭浮腫を疑います。対応はアドレナリン吸入・全身ステロイド・酸素投与。改善しなければ躊躇せず再挿管してください。完全閉塞してからでは挿管も困難になります。再挿管の準備(difficult airway に備えた器具・応援)を整えてから対応します。
§ 7
症例で確認
70歳女性。誤嚥性肺炎で 8日間の人工呼吸管理。現在 A/C(VCV)/TV 380 mL/RR 14/PEEP 5/FiO₂ 0.35。解熱し、胸部 X 線の浸潤影は改善。昇圧薬なし。鎮静を切ると開眼し、指示に従える。
SBT(PS 5/PEEP 5)を開始したところ、10分後に 呼吸数 30回/分、一回換気量 250 mL、SpO₂ 94%、HR 96、血圧 132/76。表情は穏やかで補助呼吸筋の使用はない。
1前提条件は満たしているか
・原疾患:解熱・画像改善 → 改善
・酸素化:FiO₂ 0.35/PEEP 5 で SpO₂ 良好 → 基準内
・循環:昇圧薬なし → 安定
・意識:開眼し指示に従える → 可
→ SBT を行う条件は満たしています。実際に SBT を開始したのは妥当な判断です。
2SBT の結果をどう読むか
RSBI = 30 ÷ 0.25 = 120(> 105 で失敗を示唆)。
しかし失敗の基準を1つずつ確認すると:呼吸数 30(<35)、SpO₂ 94%(>90)、HR 96(<140、変化も 20% 未満)、血圧正常、不穏・発汗なし、補助呼吸筋の使用なし。明確な失敗基準は満たしていません。
浅く速い呼吸の傾向はあるため、そのまま観察を続けて 30分完遂できるかを見るのが妥当です。RSBI 単独で中止する場面ではありません。
3SBT 完遂後、抜管してよいか
SBT を 30分完遂できたとしても、次は
気道の評価です。
この患者は
誤嚥性肺炎=もともと嚥下・気道防御に問題がある可能性が高く、さらに
挿管 8日間・女性と喉頭浮腫のリスク因子を持ちます。
・咳嗽力と吸引頻度を確認する
・ハイリスクなので
カフリークテストを実施する
・65歳以上・長期挿管というハイリスク例なので、抜管するなら
予防的に NHF または NPPV を準備しておく
✅ SBT の数値(RSBI 120)だけで中止せず、失敗基準を個別に確認して完遂を目指す。抜管前には咳嗽力・分泌物・カフリークテストで気道を評価し、抜管後は予防的 NHF/NPPV と 48時間の厳重な観察を行う。再挿管の判断は遅らせない。
この章の要点
- 離脱は感覚ではなく毎日のプロトコル。SAT と SBT をペアで実施する。
- SBT の前提:原疾患改善・P/F>150〜200・PEEP≤5〜8・FiO₂≤0.4〜0.5・循環安定・覚醒。
- SBT は PS 5〜8 + PEEP 5 で 30分が標準。そばで呼吸パターンを観察する。
- RSBI = RR ÷ TV(L)、<105 が目安。ただし単独で判断しない。
- SBT に失敗したら粘らず戻し、原因(心不全・感染・鎮静・電解質)を探して翌日再挑戦。
- 呼吸ができることと気道を守れることは別。咳嗽力・分泌物・カフリークを評価する。
- ハイリスク例は抜管後すぐに予防的 NHF/NPPV。抜管後喘鳴は再挿管をためらわない。
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免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。