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第 5 章 ・ 陽圧換気

NPPV の基礎

CPAP と BiPAP は何が違うのか/効く病態・効かない病態/初期設定と撤退の判断。

NPPV(非侵襲的陽圧換気)は、挿管せずに換気を助けられる強力な手段です。ただし効く病態と効かない病態がはっきり分かれており、適応を外すと挿管を遅らせるだけになります。設定の意味と、始めたあとに何を見て続行・撤退を決めるかを扱います。
§ 1

CPAP と BiPAP は圧を1つかけるか2つかけるか

0 時間 → 気道内圧 5 CPAP(一定) 12 IPAP(吸気) EPAP(呼気) = PS(圧支持)

BiPAP は吸気時に IPAP、呼気時に EPAP。その差がプレッシャーサポート(PS)

CPAPBiPAP(S/T)
かける圧1つ(常に一定)2つ(吸気 IPAP / 呼気 EPAP)
できること肺胞を開く・虚脱を防ぐ
= 酸素化の改善
それに加えて吸気を押し込む
= 換気量が増え CO₂ が下がる
主な対象Ⅰ型(酸素化の問題)
心原性肺水腫・睡眠時無呼吸
Ⅱ型(換気の問題)
COPD 増悪・肥満低換気
PS(プレッシャーサポート) = IPAP − EPAP ・PS を上げる → 一回換気量が増える → PaCO₂ が下がる ・EPAP を上げる → 肺胞が開く(=PEEP)→ PaO₂ が上がる
設定を迷ったらこの2軸で考えます。CO₂ が高いなら PS を上げる(IPAP を上げる)。酸素化が悪いなら EPAP と FiO₂ を上げる
なお EPAP を上げると PS が縮むので、IPAP も同じだけ上げないと換気量が落ちます。

※ 人工呼吸器の NPPV モードでは「PS / PEEP」と表示されることがあります。IPAP = PS + PEEP、EPAP = PEEP の関係です。機器の表記がどちらかを必ず確認してください。

§ 2

効く病態を選ぶ

NPPV は、呼吸が悪い人に何となく使うものではありません。効果が確立している病態とそうでない病態を分けて覚えます。

病態推奨度ポイント
COPD 増悪
呼吸性アシドーシス pH < 7.35 を伴う
最も良い適応挿管率・死亡率を下げる。BiPAP で PS を効かせる
心原性肺水腫最も良い適応陽圧が前負荷・後負荷を下げ、肺胞の水を押し戻す。CPAP でも BiPAP でも可
免疫不全患者の呼吸不全良い適応挿管に伴う感染合併症を避けられる利点
肥満低換気症候群・神経筋疾患良い適応慢性期の在宅 NPPV も含む
抜管後の呼吸不全(高リスク例)条件付き予防的な使用は有用。すでに起きた呼吸不全への使用は再挿管を遅らせる危険
重症肺炎・ARDS慎重に失敗率が高い。NHF や早期挿管のほうが良い場合が多い
重症喘息発作慎重にエビデンスは限定的。使うなら厳重な監視下で短時間
覚え方:NPPV がいちばん輝くのは COPD 増悪と心原性肺水腫。この2つは自信を持って使ってよい。それ以外は効くかどうか試す姿勢で、必ず撤退基準を決めて始めます。
§ 3

使ってはいけない状況

絶対的禁忌相対的禁忌(慎重判断)
・心停止/呼吸停止
・気道を確保できない
・顔面にマスクを装着できない
  (外傷・熱傷・手術直後)
・意識障害(協力が得られない)
・循環不安定・重篤な不整脈
・大量の気道分泌物・喀血
・嘔吐・上部消化管出血・イレウス
・未ドレナージの気胸
・最近の上部消化管/気道の手術後
嘔吐リスクは特に重要です。マスクで陽圧をかけている状態で嘔吐すると、誤嚥から一気に致命的な状況になります。悪心が強い患者、腸閉塞、消化管出血では NPPV を選ばないでください。
意識障害は原則として禁忌ですが、例外があります。CO₂ ナルコーシスによる意識障害は、NPPV で CO₂ が下がれば意識も戻るため、厳重な監視下で NPPV を試すことがあります。ただし短時間で改善しなければ躊躇なく挿管へ移行します。
§ 4

初期設定の目安

低めの圧から始めて患者を慣れさせ、数分単位で目標まで上げていくのが実務のコツです。いきなり高い圧をかけると不快で外されてしまいます。

BiPAP(Ⅱ型呼吸不全・COPD 増悪など)
EPAP(=PEEP)4 〜 5 cmH₂O から
IPAP8 〜 12 cmH₂O から開始
PS(IPAP − EPAP)目標 8 〜 15 cmH₂O
IPAP の上限目安20 〜 25 cmH₂O
バックアップ換気(S/T)12 〜 16 回/分
FiO₂目標 SpO₂ に届く最小限
CPAP(心原性肺水腫など)
CPAP5 cmH₂O から 8 〜 10 まで
FiO₂目標 SpO₂ に届く最小限

調整の考え方

血液ガスの所見対応
PaCO₂ が高い/pH が低いIPAP を上げる(=PS を増やして換気量を増やす)。2 cmH₂O ずつ
PaO₂ / SpO₂ が低いEPAP と FiO₂ を上げる。EPAP を上げたら IPAP も同量上げて PS を維持
一回換気量が出すぎているIPAP を下げる(過大な換気量は肺障害の原因になる)
IPAP を上げすぎると胃に空気が入ります(胃膨満)。20〜25 cmH₂O を超えると食道下部括約筋の圧を超えやすく、胃膨満・嘔吐・誤嚥のリスクが上がります。ここが NPPV の圧の実質的な天井です。
§ 5

成否を分けるのは設定より装着

NPPV 失敗の原因の多くは、設定値ではなく患者が耐えられなかったことです。装着の丁寧さがそのまま成功率になります。
§ 6

続けるか、やめるか(1〜2時間後の判定)

NPPV は効くなら早く効く治療です。開始時に再評価の時刻をカルテに書いておきます

改善のサイン(続行)失敗のサイン(挿管へ)
pH の上昇・PaCO₂ の低下
・呼吸数の低下
・補助呼吸筋の使用が減る
・意識レベルの改善
・患者が「楽になった」と言う
pH が改善しない/さらに低下
・PaCO₂ が下がらない
・呼吸数が下がらない・意識が悪化
・マスクに耐えられない
・循環が不安定になる・分泌物が処理できない
もう少し様子を見よう、を繰り返さないでください。NPPV の最大の害は、それ自体ではなく挿管の遅れです。1〜2時間で改善しない場合、時間が経つほど患者は疲弊し、挿管の条件は悪くなります。
§ 7

症例で確認

72歳男性、COPD(在宅酸素なし)。感冒を契機に呼吸困難増悪。ベンチュリーマスク FiO₂ 28% で SpO₂ 90%、呼吸数 30回/分、口すぼめ呼吸、意識清明で会話可能。
pH 7.26 / PaCO₂ 78 / HCO₃⁻ 33 / PaO₂ 61
1NPPV の適応か
COPD 増悪+呼吸性アシドーシス(pH 7.26 < 7.35)+ PaCO₂ 78 の上昇。NPPV のよい適応です。
HCO₃⁻ 33 は慢性的な CO₂ 貯留の代償を示しており、酸素は目標 SpO₂ 88〜92% に合わせて絞る必要があります(現在 90% は適切)。
意識清明・気道保護可能・分泌物は自力喀出可・循環安定 → 禁忌なし
2初期設定を組む
下げたいのはPaCO₂ なので、必要なのはPS(換気量)です。
・EPAP 4 cmH₂O(COPD では auto-PEEP を打ち消す意味もある)
・IPAP 10 cmH₂O から開始 → 忍容性を見ながら 14〜16 まで漸増(PS 10〜12)
・バックアップ 12 回/分
・FiO₂ は SpO₂ 88〜92% を維持できる最小限
装着は手で当てて慣らしてから固定し、リークと同調を確認します。
31時間後の再評価
1時間後の血液ガス:pH 7.33 / PaCO₂ 63 / PaO₂ 68、呼吸数 24回/分、補助呼吸筋の使用が軽減。
pH が上がり PaCO₂ が下がっている=NPPV が効いている。このまま継続し、さらに数時間後に再検します。
もし pH 7.24/PaCO₂ 82 と悪化していたなら、迷わず気管挿管へ移行する場面でした。
✅ COPD 増悪+呼吸性アシドーシス → BiPAP(EPAP 4/IPAP 10〜14)を導入し、酸素は SpO₂ 88〜92% に絞る。同時に気管支拡張薬・全身ステロイド・(喀痰所見に応じて)抗菌薬を開始。1時間後の血液ガスで pH と PaCO₂ の改善を確認し、改善がなければ挿管する。
この章の要点
次のステップ
第6章:人工呼吸器モードの基礎トリガー・リミット・サイクル/VCV と PCV/初期設定 第4章:ネーザルハイフロー(NHF)前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。