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第 2 章 ・ 酸素療法

酸素投与デバイスの選び方

低流量と高流量の違い/各デバイスの FiO₂ と落とし穴/ネーザルハイフローの位置づけ。

「5L で足りないから 8L にしよう」— この判断は、デバイスによってはほとんど意味がないか、むしろ危険です。デバイスごとに供給できる FiO₂ の範囲と、守るべき最低流量が決まっています。当直で迷わず選ぶには、この2つを押さえます。
§ 1

低流量システムと高流量システム

分類の基準は酸素の量ではありません。患者の吸気流速をデバイスが満たせるかどうかです。

成人が安静時に息を吸う速さは およそ 30 L/分。呼吸が苦しいときは 60 L/分を超えることもあります。

低流量システム
供給ガスが患者の吸気流速に足りない。不足分は室内気(FiO₂ 0.21)を一緒に吸い込む。
実際の FiO₂ は呼吸パターンで変わり、一定しない
高流量システム
供給ガスが患者の吸気流速を上回る。室内気を吸い込まない。
設定した FiO₂ がそのまま届く(安定)
重要:低流量システムでは、同じ鼻カヌラ 3L/分でも、浅く速い呼吸の患者では室内気の混入が増えて FiO₂ は下がります。呼吸が荒い患者ほど、低流量デバイスは効きにくいのです。
低流量=軽症用、ではありません。リザーバーマスク 10L/分も分類上は低流量システムです(吸気流速 60L/分には届かないため)。高流量システムに該当するのはベンチュリーマスクネーザルハイフロー(NHF)です。
§ 2

デバイス別 FiO₂ 早見

鼻カヌラ1–6 L/分
単純フェイスマスク5–10 L/分
リザーバー付きマスク10–15 L/分
ベンチュリーマスクダイヤル指定
ネーザルハイフロー(NHF)20–60 L/分
21%40%60%80%100%
デバイス流量FiO₂ の目安分類
鼻カヌラ1–6 L/分24 〜 44%
1L ごとに約 +4%
低流量
単純マスク5–10 L/分40 〜 60%低流量
リザーバーマスク10–15 L/分60 〜 90%
実測は 80% 前後のことが多い
低流量
ベンチュリーマスク器具の指定流量24 / 28 / 31 / 35 / 40 / 50%
ダイヤルで確実に指定
高流量
NHF20–60 L/分21 〜 100%
流量と FiO₂ を独立に設定
高流量

※ FiO₂ の数値はいずれも目安です。低流量システムでは患者の一回換気量・呼吸数によって実際の値は大きく変動します。

§ 3

デバイスごとの落とし穴

鼻カヌラ

単純フェイスマスク

5 L/分未満で使用してはいけません。マスク内の呼気が洗い流されず、自分の吐いた CO₂ を再呼吸してしまいます。マスクだけど 3L でいいか、は誤りです。

リザーバー付きマスク

ベンチュリーマスク

使い分けの核心:濃度がだいたいでよいなら鼻カヌラ/マスク、濃度を厳密に決めたいならベンチュリー、濃度も流量も足りないなら NHF。
§ 4

ネーザルハイフロー(NHF)の概要

加温加湿した高流量ガスを専用鼻カニューレから流すデバイスです。ベンチュリーマスクと並ぶ高流量システムで、流量と酸素濃度を高い自由度で設定できます(設定の方式は機種により2種類あり、第4章で扱います)。

効果内容
FiO₂ の安定吸気流速を上回るガスを供給するため、設定した FiO₂ がそのまま届く
死腔の洗い出し鼻咽頭に残った呼気を洗い流し、換気効率を上げる。CO₂ を下げうる
軽度の PEEP 効果口を閉じた状態で数 cmH₂O
加温加湿気道が乾かず喀痰排出が保たれる。忍容性が高い

大まかな守備範囲:リザーバーマスクでも足りない Ⅰ型呼吸不全、抜管後の呼吸補助、そして NPPV に耐えられない Ⅱ型呼吸不全まで。在宅でも使われます。

NHF の危険は、効いているように見えることです。患者は楽そうに見え SpO₂ も保たれますが、その裏で呼吸仕事量が増え続け、挿管が遅れることがあります。導入後は必ず時間を決めて再評価してください(第3章の ROX index)。
第4章:ネーザルハイフロー(NHF)機種の2方式・流量と酸素の決め方・Ⅱ型呼吸不全・在宅での位置づけ
§ 5

選択の流れ

  1. 目標 SpO₂ を決める(一般 94〜98% / CO₂ 貯留リスク 88〜92%)
  2. CO₂ 貯留リスクがあるか? → あれば ベンチュリーマスクで FiO₂ を厳密に管理
  3. なければ鼻カヌラから開始(〜6 L/分)
  4. 足りなければ 単純マスク(5L 以上)→ リザーバーマスク
  5. リザーバーでも目標に届かない/呼吸仕事量が大きい → NHF または NPPV(第3〜5章)
  6. それでも改善しない・意識障害・気道が保てない → 気管挿管(第3章)
Ⅱ型(CO₂ 貯留)の場合はこの順序ではありません。酸素は SpO₂ 88〜92% に絞ったうえで、呼吸性アシドーシスがあれば早期に NPPVへ。NPPV に耐えられない場合の代替として NHF を検討します(第4章)。
忘れがちな視点:デバイスを上げる判断と同時に、なぜ低酸素なのかという原因治療を進めてください。肺炎なら抗菌薬、心不全なら利尿薬と血管拡張薬、気胸ならドレナージです。酸素は時間を稼ぐ手段にすぎません。
§ 6

症例で確認

68歳女性。市中肺炎で入院中。既往に喘息はあるが COPD なし。鼻カヌラ 4L/分で SpO₂ 91%、呼吸数 26回/分、会話は途切れがち。当直コールで訪室した。
1目標と現状のギャップを整理
COPD の既往はなく CO₂ 貯留リスクは低い → 目標 SpO₂ は 94〜98%。現在 91% なので目標未達。
加えて呼吸数 26回/分・会話が途切れる=呼吸仕事量が増えているサインで、数値以上に注意が必要です。
2カヌラを 6L に上げてよいか
4L → 6L で得られる FiO₂ の上昇はせいぜい 8% 程度(約 36% → 44%)。しかも呼吸数 26回/分と吸気流速が上がっている状態では室内気の混入が増え、期待した FiO₂ は届きません
短期的な微調整としては可能ですが、これで解決とせず時間を決めて再評価する必要があります。
3方針
まず血液ガスを採取して酸素化(PaO₂・P/F 比)と換気(PaCO₂)を確認します。Ⅰ型呼吸不全で呼吸仕事量が増えている状況なら、低流量デバイスの上乗せより高流量システムへの切り替えが理にかなっています。
✅ 一時的にリザーバーマスク 10L/分で酸素化を確保しつつ血液ガスを確認。Ⅰ型呼吸不全で呼吸努力が強ければ NHF(流量 40 L/分・FiO₂ を目標 SpO₂ に合わせて調整)へ切り替え、1〜2時間後に ROX index で再評価。肺炎そのものの治療(抗菌薬の見直し・胸部画像)も同時に進める。
この章の要点
次のステップ
第3章:換気補助のタイミング呼吸仕事量の評価・ROX index・挿管の適応 第1章:酸素療法の基礎前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。