ネーザルハイフロー(NHF、HFNC とも)は、たくさん酸素が出る鼻カヌラではありません。流量そのものが治療になるデバイスで、酸素化だけでなく CO₂ にも作用します。設定が3つあることが研修医のつまずきどころです。何をどう決めるかを中心に扱います。
§ 2
まず、どちらの方式の機種かを確かめる
NHF の設定でつまずく大きな原因は、機種によって何を指定するかが違うことです。目の前の機械がどちらかを知らないまま操作すると、酸素化を崩します。
A 方式では流量を変えると FiO₂ が動く
A 方式では、FiO₂ は酸素流量が総流量の何割を占めるかで決まります。2つの設定は独立ではありません。
FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 ×(酸素流量 ÷ 総流量)
例)総流量 40 L/分・酸素流量 10 L/分
→ FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 × (10 ÷ 40) ≒ 0.41
酸素流量はそのままで総流量だけ 60 L/分に上げると
→ FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 × (10 ÷ 60) ≒ 0.34 ← 下がる
苦しそうだから流量を上げた → SpO₂ が下がった、というのが A 方式でよくある事故です。総流量を上げたら、酸素流量も同じ割合で上げる必要があります。上の例で FiO₂ 0.41 を保つなら、総流量 60 L/分では酸素流量を 15 L/分にします。
B 方式なら総流量と FiO₂ は独立しています。流量を上げても FiO₂ は設定値のまま保たれるので、この心配は要りません。まず自施設の機種がどちらかを確認してください。
方式の違いを踏まえると、NHF で回すつまみは次の3つです。
流量=呼吸の仕事と CO₂、酸素=酸素化、温度=快適性という担当分けは変わりません。ただしA 方式では流量と酸素が連動するため、流量を触ったら必ず FiO₂ の表示と SpO₂ を確認してください。
§ 3
初期設定と流量の決め方
流量は病型ではなく、まず患者の体格(=必要な吸気流速)で決めます。NHF が成り立つ大前提は、患者が吸う速さを機械が上回っていることだからです。ここを下回ると室内気を吸い込み、設定した酸素濃度が届きません。
初期設定の目安
総流量(男性)50 L/分 前後
総流量(女性)40 L/分 前後
酸素(A 方式:酸素流量)目標 SpO₂ に届く最小限
酸素(B 方式:FiO₂)目標 SpO₂ に届く最小限
温度37℃(標準)
※ Ⅰ型・Ⅱ型で分ける必要はありません。体格と呼吸様式で決め、あとは反応を見て調整します。
そこからどう動かすか
- Ⅱ型(CO₂ 貯留)ではむしろ流量を増やす。死腔の洗い出しは流量が多いほど効きます。PaCO₂ を下げたい場面では、忍容性が許すかぎり 50〜60 L/分へ上げていくのが理にかなっています。
- 努力呼吸が強い患者も流量を増やす。吸気流速は努力時に 60 L/分を超えます。胸鎖乳突筋が張っている、会話が続かないといった所見があれば、初期値のままで満足しないでください。
- 上限を決めるのは快適性です。鼻や顔面の不快感で外されれば効果はゼロになります。数分おきに 5〜10 L/分ずつ上げると受け入れられやすくなります。
- A 方式では流量を上げるたびに酸素流量も上げる(§2)。上げ忘れると FiO₂ が下がります。
迷ったときの原則:SpO₂ が足りないなら酸素を増やす。呼吸数が多い・CO₂ が高い・苦しそうなら総流量を上げる。この2つを混同しないことが、NHF を使いこなす第一歩です。
§ 4
温度とカニューレが忍容性を決める
- 温度は 37 / 34 / 31℃ から選べます(機種による)。「熱い」「息苦しい」と訴える患者は珍しくなく、その場合は 34℃ へ下げると受け入れられることがあります。ただし加湿量が減るため、喀痰が硬い患者では 37℃ を維持したいところです。
- カニューレは鼻孔の 50% 程度を占めるサイズを選びます。密着させてはいけません。鼻孔の周囲にリークがあることが、過剰な圧がかからないための安全弁になっています。
- PEEP 効果は口を閉じて初めて得られます。開口している患者では大きく減弱するため、声かけを行います。
- 回路内の結露は加温加湿の設定と室温で調整します。水が患者側へ流れ込まないよう回路の取り回しにも注意します。
装着直後の数分がすべてです。「少し風が強く感じますが、呼吸が楽になります」と説明し、低い流量から慣らします。NPPV と同じで、忍容性を確保できるかどうかが成否を決めます。
§ 6
Ⅱ型呼吸不全・COPD での位置づけ
NHF は酸素化のためのもので CO₂ には効かない、というのは正確ではありません。死腔の洗い出しによって、NHF は実際に PaCO₂ を下げます。COPD では加えて、加湿による喀痰排出の改善と、軽度 PEEP による auto-PEEP の相殺(吸気トリガーが楽になる)も働きます。
そのうえで、急性期と慢性期を分けて考えます。
- 急性増悪(pH < 7.35 の呼吸性アシドーシス):まず NPPV。換気を直接押し込める NPPV のほうが CO₂ を下げる力は上で、挿管率・死亡率を下げる根拠も NPPV にあります(第5章)。
- NPPV が使えない・続かないときの代替として NHF。マスクの閉塞感に耐えられない、顔面の形状が合わない、口渇や皮膚障害で継続困難 ― こうしたNPPV 不耐容は現場で頻繁に起こります。NPPV が無理だから通常の酸素に戻す、よりも、NHF のほうが換気補助として理にかなっています。
- NPPV の合間の休憩として。食事・会話・排痰・吸引の時間に NHF へ切り替えると、酸素化と加湿を保ったまま NPPV を離脱できます。この使い方は実務上とても有用です。
- 安定期・在宅(在宅ハイフローセラピー):在宅酸素療法中で高 CO₂ 血症が残る COPD 患者に対し、長期の NHF が急性増悪の頻度を減らすことが日本発の臨床研究で示され、保険適用となりました。流量は 30〜40 L/分程度で用いられることが多く、急性期より低めです(長時間・毎日使うため快適性が優先されます)。
在宅ハイフローセラピーの対象(目安):在宅酸素療法を行っている安定期の COPD 患者で、自覚症状があり、安定期の PaCO₂ が 45 mmHg 以上、かつ過去1年以内に急性増悪による入院を繰り返しているような例。
※ 算定要件は診療報酬改定で変わりうるため、導入時は必ず最新の要件をご確認ください。
§ 7
始めたあとの評価で挿管を遅らせない
NHF の危険は、効いているように見えることです。患者は楽そうに見え SpO₂ も保たれますが、その裏で呼吸仕事量が増え続け、挿管が遅れることがあります。導入後は必ず時間を決めて再評価してください。
意識障害・循環不安定・気道が保てない状況が出たら、ROX index の値にかかわらず気管挿管です。非侵襲的手段の最大の害は、それ自体ではなく挿管の遅れであることを忘れないでください。
§ 8
症例で確認
74歳男性、COPD で在宅酸素(1L/分)。発熱・喀痰増加で入院。ベンチュリーマスク FiO₂ 28% で SpO₂ 90%、呼吸数 26回/分、意識清明。
pH 7.31 / PaCO₂ 62 / HCO₃⁻ 30 / PaO₂ 64
NPPV を試みたが、マスクの閉塞感に強い不安を訴え 5分で自己抜去。再装着も拒否している。
1まず何を確認するか
pH 7.31・PaCO₂ 62 の呼吸性アシドーシス。HCO₃⁻ 30 は慢性の CO₂ 貯留を示唆します。
本来は NPPV が第一選択の病態です(COPD 増悪+pH < 7.35)。しかし忍容性が得られず、このままでは、通常の酸素に戻して経過を見るという最悪の選択になりかねません。
意識は清明で気道は保てており、直ちに挿管が必要な状況でもありません。
2NHF の設定を組む
まず機種がどちらの方式かを確認します(§2)。
・総流量:男性なので 50 L/分から。装着後、PaCO₂ を下げたいので忍容性を見ながら 60 L/分まで上げていきます(洗い出しは流量が多いほど効く)
・酸素:SpO₂ 88〜92% を保てる最小限。A 方式なら酸素流量、B 方式なら FiO₂ で調整
・温度:37℃(喀痰が多いため加湿を優先)
A 方式の場合、総流量を 50 → 60 L/分に上げたら酸素流量も上げないと FiO₂ が下がります。流量を触るたびに FiO₂ 表示と SpO₂ を確認してください。
NPPV より装着が楽なことを説明し、まず数分手元で慣らします。同時に気管支拡張薬・全身ステロイド・抗菌薬など増悪そのものの治療を進めます。
31〜2時間後の判定
Ⅱ型なので
SpO₂ ではなく血液ガスで判定します。
・
pH 7.35 / PaCO₂ 54 と改善 → NHF 継続。以後も定期的に血ガスで追う
・
pH 7.27 / PaCO₂ 70 と悪化 → NHF では不十分。
NPPV の再挑戦(鎮痛・鎮静の工夫、マスク変更)か気管挿管へ
✅ NPPV 不耐容の COPD 増悪は NHF の良い適応。総流量 50 L/分から開始し、CO₂ を下げたいので忍容性の許すかぎり増やす。酸素は SpO₂ 88〜92% の最小限、温度 37℃。1〜2時間後の血液ガス(pH・PaCO₂)で継続か次の手かを決める。NPPV が無理だから通常酸素へ、は避ける。
この章の要点
- NHF の効果はFiO₂ の安定・死腔洗い出し・軽度 PEEP・加温加湿の4つ。
- 機種は2方式ある。A=酸素流量を指定(FiO₂ は結果)/B=FiO₂ を指定。まずどちらか確認する。A 方式では総流量を上げると FiO₂ が下がるので、流量を上げたら酸素流量も上げる。
- 初期流量は病型でなく体格で。男性 50・女性 40 L/分前後から開始する。
- Ⅱ型ではむしろ流量を増やす(洗い出しは流量依存)。上限を決めるのは快適性。
- カニューレは鼻孔の 50% 程度。リークが安全弁、PEEP 効果は口を閉じて得られる。
- NHF は死腔洗い出しで CO₂ も下げる。Ⅱ型でも NPPV 不耐容例・在宅では確立した選択肢だが、急性増悪の呼吸性アシドーシスは NPPV が第一選択。
- 判定は Ⅰ型=ROX index、Ⅱ型=血液ガス。挿管を遅らせないことが最優先。
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次のステップ
第5章:NPPV の基礎CPAP と BiPAP・適応と禁忌・初期設定
第3章:換気補助のタイミング前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。