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第 4 章 ・ 陽圧換気とハイフロー

ネーザルハイフロー(NHF)

4つの生理学的効果/流量・FiO₂・温度の決め方/Ⅱ型呼吸不全と在宅での位置づけ。

ネーザルハイフロー(NHF、HFNC とも)は、たくさん酸素が出る鼻カヌラではありません。流量そのものが治療になるデバイスで、酸素化だけでなく CO₂ にも作用します。設定が3つあることが研修医のつまずきどころです。何をどう決めるかを中心に扱います。
§ 1

4つの生理学的効果

加温加湿した高流量ガスを専用鼻カニューレから流すことで、次の4つが同時に得られます。

効果内容
FiO₂ の安定患者の吸気流速を上回るガスを供給するため、設定した FiO₂ がそのまま届く(=高流量システム)
死腔の洗い出し
washout
高流量が鼻咽頭に残った呼気を洗い流す。次の吸気で吸い込む CO₂ が減り、同じ換気量でも効率が上がる。NHF が CO₂ を下げうる最大の理由
軽度の PEEP 効果口を閉じた状態で流量 10 L/分ごとに約 0.5〜1 cmH₂O、50〜60 L/分で 3〜5 cmH₂O 程度。口を開けると大きく低下する
加温加湿37℃・相対湿度 100% で気道が乾かず、線毛機能と喀痰排出が保たれる。忍容性が高く長時間使える
NPPV との決定的な違い:NHF は吸気を押し込みません。あくまで自発呼吸の効率を上げ、仕事量を減らすデバイスです。だからこそ患者は会話も食事もでき、忍容性が高い一方で、換気を肩代わりする力は NPPV に及びません

出典:Frat JP, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015;372(23):2185-2196.

§ 2

まず、どちらの方式の機種かを確かめる

NHF の設定でつまずく大きな原因は、機種によって何を指定するかが違うことです。目の前の機械がどちらかを知らないまま操作すると、酸素化を崩します。

A:酸素流量を指定する方式B:FiO₂ を指定する方式
自分で決めるもの総流量 + 酸素流量(L/分)総流量 + FiO₂(%)
FiO₂結果として決まる(機器が表示)
直接は触れない
直接指定できる
酸素流量直接指定する指定できない(機器が内部で調整)
よくある構成室内空気を機器が取り込み、酸素は別の流量計から流し込む。在宅機を含め広く使われる空気-酸素ブレンダ内蔵型、人工呼吸器の NHF モード

A 方式では流量を変えると FiO₂ が動く

A 方式では、FiO₂ は酸素流量が総流量の何割を占めるかで決まります。2つの設定は独立ではありません。

FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 ×(酸素流量 ÷ 総流量) 例)総流量 40 L/分・酸素流量 10 L/分 → FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 × (10 ÷ 40) ≒ 0.41 酸素流量はそのままで総流量だけ 60 L/分に上げると → FiO₂ ≒ 0.21 + 0.79 × (10 ÷ 60) ≒ 0.34 ← 下がる
苦しそうだから流量を上げた → SpO₂ が下がった、というのが A 方式でよくある事故です。総流量を上げたら、酸素流量も同じ割合で上げる必要があります。上の例で FiO₂ 0.41 を保つなら、総流量 60 L/分では酸素流量を 15 L/分にします。
B 方式なら総流量と FiO₂ は独立しています。流量を上げても FiO₂ は設定値のまま保たれるので、この心配は要りません。まず自施設の機種がどちらかを確認してください。

方式の違いを踏まえると、NHF で回すつまみは次の3つです。

総流量
呼吸仕事量
CO₂ 洗い出し
酸素
酸素化
A=酸素流量 / B=FiO₂
温度
快適性
加湿
流量=呼吸の仕事と CO₂、酸素=酸素化、温度=快適性という担当分けは変わりません。ただしA 方式では流量と酸素が連動するため、流量を触ったら必ず FiO₂ の表示と SpO₂ を確認してください。
§ 3

初期設定と流量の決め方

流量は病型ではなく、まず患者の体格(=必要な吸気流速)で決めます。NHF が成り立つ大前提は、患者が吸う速さを機械が上回っていることだからです。ここを下回ると室内気を吸い込み、設定した酸素濃度が届きません。

初期設定の目安
総流量(男性)50 L/分 前後
総流量(女性)40 L/分 前後
酸素(A 方式:酸素流量)目標 SpO₂ に届く最小限
酸素(B 方式:FiO₂)目標 SpO₂ に届く最小限
温度37℃(標準)

※ Ⅰ型・Ⅱ型で分ける必要はありません。体格と呼吸様式で決め、あとは反応を見て調整します。

そこからどう動かすか

迷ったときの原則:SpO₂ が足りないなら酸素を増やす呼吸数が多い・CO₂ が高い・苦しそうなら総流量を上げる。この2つを混同しないことが、NHF を使いこなす第一歩です。
§ 4

温度とカニューレが忍容性を決める

装着直後の数分がすべてです。「少し風が強く感じますが、呼吸が楽になります」と説明し、低い流量から慣らします。NPPV と同じで、忍容性を確保できるかどうかが成否を決めます
§ 5

適応はⅠ型だけではない

場面位置づけ
Ⅰ型呼吸不全
肺炎・軽症〜中等症 ARDS
第一選択になりうる通常酸素より挿管を減らしうる。最も確立した適応
抜管後の呼吸補助良い適応ハイリスク例では予防的に装着(第8章)
挿管前の前酸素化・気管支鏡良い適応処置中も酸素化を保てる
Ⅱ型呼吸不全(COPD 増悪)NPPV が第一選択ただし NPPV 不耐容例では現実的な代替(§6)
慢性期・在宅確立した適応安定期 COPD の高 CO₂ 血症に対する在宅ハイフローセラピー(§6)
§ 6

Ⅱ型呼吸不全・COPD での位置づけ

NHF は酸素化のためのもので CO₂ には効かない、というのは正確ではありません。死腔の洗い出しによって、NHF は実際に PaCO₂ を下げます。COPD では加えて、加湿による喀痰排出の改善と、軽度 PEEP による auto-PEEP の相殺(吸気トリガーが楽になる)も働きます。

そのうえで、急性期と慢性期を分けて考えます。

在宅ハイフローセラピーの対象(目安):在宅酸素療法を行っている安定期の COPD 患者で、自覚症状があり、安定期の PaCO₂ が 45 mmHg 以上、かつ過去1年以内に急性増悪による入院を繰り返しているような例。
※ 算定要件は診療報酬改定で変わりうるため、導入時は必ず最新の要件をご確認ください。
§ 7

始めたあとの評価で挿管を遅らせない

NHF の危険は、効いているように見えることです。患者は楽そうに見え SpO₂ も保たれますが、その裏で呼吸仕事量が増え続け、挿管が遅れることがあります。導入後は必ず時間を決めて再評価してください。
何で判定するか
Ⅰ型ROX index=(SpO₂/FiO₂)÷呼吸数 を 2・6・12 時間で評価。≥4.88 で継続可、<3.85 は挿管リスク高(第3章)
Ⅱ型血液ガスの pH・PaCO₂。SpO₂ では換気の悪化を捉えられない。改善がなければ NPPV/挿管へ
意識障害・循環不安定・気道が保てない状況が出たら、ROX index の値にかかわらず気管挿管です。非侵襲的手段の最大の害は、それ自体ではなく挿管の遅れであることを忘れないでください。
§ 8

症例で確認

74歳男性、COPD で在宅酸素(1L/分)。発熱・喀痰増加で入院。ベンチュリーマスク FiO₂ 28% で SpO₂ 90%、呼吸数 26回/分、意識清明。
pH 7.31 / PaCO₂ 62 / HCO₃⁻ 30 / PaO₂ 64
NPPV を試みたが、マスクの閉塞感に強い不安を訴え 5分で自己抜去。再装着も拒否している。
1まず何を確認するか
pH 7.31・PaCO₂ 62 の呼吸性アシドーシス。HCO₃⁻ 30 は慢性の CO₂ 貯留を示唆します。
本来は NPPV が第一選択の病態です(COPD 増悪+pH < 7.35)。しかし忍容性が得られず、このままでは、通常の酸素に戻して経過を見るという最悪の選択になりかねません。
意識は清明で気道は保てており、直ちに挿管が必要な状況でもありません。
2NHF の設定を組む
まず機種がどちらの方式かを確認します(§2)。
・総流量:男性なので 50 L/分から。装着後、PaCO₂ を下げたいので忍容性を見ながら 60 L/分まで上げていきます(洗い出しは流量が多いほど効く)
・酸素:SpO₂ 88〜92% を保てる最小限。A 方式なら酸素流量、B 方式なら FiO₂ で調整
・温度:37℃(喀痰が多いため加湿を優先)
A 方式の場合、総流量を 50 → 60 L/分に上げたら酸素流量も上げないと FiO₂ が下がります。流量を触るたびに FiO₂ 表示と SpO₂ を確認してください。
NPPV より装着が楽なことを説明し、まず数分手元で慣らします。同時に気管支拡張薬・全身ステロイド・抗菌薬など増悪そのものの治療を進めます。
31〜2時間後の判定
Ⅱ型なので SpO₂ ではなく血液ガスで判定します。
pH 7.35 / PaCO₂ 54 と改善 → NHF 継続。以後も定期的に血ガスで追う
pH 7.27 / PaCO₂ 70 と悪化 → NHF では不十分。NPPV の再挑戦(鎮痛・鎮静の工夫、マスク変更)か気管挿管
✅ NPPV 不耐容の COPD 増悪は NHF の良い適応。総流量 50 L/分から開始し、CO₂ を下げたいので忍容性の許すかぎり増やす。酸素は SpO₂ 88〜92% の最小限、温度 37℃。1〜2時間後の血液ガス(pH・PaCO₂)で継続か次の手かを決める。NPPV が無理だから通常酸素へ、は避ける。
この章の要点
次のステップ
第5章:NPPV の基礎CPAP と BiPAP・適応と禁忌・初期設定 第3章:換気補助のタイミング前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。