なぜ酸素を投与するのか/解離曲線/目標SpO₂/高濃度酸素の害。酸素を「薬」として扱うための土台。
酸素療法の本当の目的は、組織に十分な酸素を届けること(酸素運搬能の維持)です。SpO₂ はその一部を示す指標にすぎません。
この式が教えてくれるのは、酸素の運搬量を決めているのは主にHb と SaO₂ と心拍出量だということです。
PaO₂ と SaO₂ の関係は直線ではなく S 字カーブです。この形を知っているかどうかで、モニターの数字の重みが変わります。
SpO₂ 90%(PaO₂ 60 mmHg)を下回ると、わずかな PaO₂ の低下で SaO₂ が急落する
| SaO₂ | 対応する PaO₂ の目安 |
|---|---|
| 97〜98% | 約 100 mmHg |
| 95% | 約 80 mmHg |
| 90% | 約 60 mmHg ← 呼吸不全の境界 |
| 75% | 約 40 mmHg(混合静脈血の値) |
| 50% | 約 27 mmHg(P50) |
| 方向 | 起きること | 要因 |
|---|---|---|
| 右方移動 | Hb が酸素を手放しやすい(末梢で有利) | アシドーシス・PaCO₂↑・発熱・2,3-DPG↑ |
| 左方移動 | Hb が酸素を離さない(末梢で不利) | アルカローシス・PaCO₂↓・低体温・CO中毒 |
とりあえず 100% を目指す、は誤りです。多くのガイドラインは患者を2群に分けて目標を設定します。
| 患者群 | 目標 SpO₂ | 考え方 |
|---|---|---|
| 一般の急性疾患 肺炎・心不全・敗血症など | 94 〜 98% | これ以上は利益がなく、害の可能性がある |
| CO₂ 貯留リスクあり COPD・高度肥満低換気・神経筋疾患・胸郭変形 | 88 〜 92% | CO₂ ナルコーシスを避けるため意図的に低めに |
CO₂ 貯留リスクありと判断する材料は、既往(COPD・在宅酸素)と、血液ガスの HCO₃⁻ 上昇です。慢性的に CO₂ を溜めている人は、代償として HCO₃⁻ が高くなっています(血液ガス判読ノート 第3章「代償の評価」)。
必要以上の酸素投与(高酸素血症)は、次のような不利益をもたらします。
| 害 | 機序 |
|---|---|
| 吸収性無気肺 | 高 FiO₂ で肺胞内の窒素が洗い出され、酸素が血中に吸収されると肺胞が虚脱する |
| 酸素毒性 | 活性酸素種による肺胞上皮障害。目安として FiO₂ >0.6 の長時間持続で懸念される |
| CO₂ ナルコーシス | 次の §5 で詳述。CO₂ 貯留リスク群で重要 |
| 血管収縮 | 冠動脈・脳血管が収縮し、心筋梗塞・脳卒中では不利に働き得る |
| 病態の隠蔽 | 高 FiO₂ で SpO₂ が保たれると、悪化しつつある酸素化障害に気づくのが遅れる |
慢性Ⅱ型呼吸不全(COPD など)の患者に高濃度酸素を投与すると PaCO₂ が上昇し、意識障害に至ることがあります。低酸素の刺激で呼吸していたのが止まるから、とだけ覚えている人が多いのですが、実際には3つの機序が重なっています。