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第 6 章 ・ 陽圧換気

人工呼吸器モードの基礎

呼吸器が答えている3つの質問/VCV と PCV/A/C・SIMV・PSV/最初の設定の組み立て方。

人工呼吸器の画面は文字と数字だらけで、初めて見ると圧倒されます。しかし呼吸器がやっていることは、突き詰めればいつ息を送り始め、何を目標に送り、いつ止めるかの3つだけです。この3つが分かれば、モード名は意味のある組み合わせとして読めるようになります。
§ 1

呼吸器は3つの質問に答えている

TRIGGER
いつ送る?
患者の吸気努力(圧/フロー)を感知 = 補助換気
または時間で強制 = 強制換気
LIMIT
何を目標に?
量を決める=VCV
圧を決める=PCV
CYCLE
いつ止める?
設定量に達したら/設定時間が来たら/吸気流速が落ちたら

モード名は、この3つの組み合わせに名前を付けたものにすぎません。A/C の VCV と言われたら、患者がトリガーしても時間が来ても送る(A/C)、送る量は決まっている(VCV)、と読めます。

トリガー感度の設定:フロートリガーで 2 L/分前後、圧トリガーで −2 cmH₂O 前後が標準です。鈍すぎると患者が吸っても送られず(ミストリガー)、鋭敏すぎると心拍や回路の揺れで勝手に送られます(オートトリガー)。
§ 2

VCV と PCV は何を保証し、何が変動するか

この2つは対の関係にあります。片方を固定すればもう片方が変動する、それだけのことです。

VCV(量規定)PCV(圧規定)
設定するもの一回換気量(TV)吸気圧
保証されるもの換気量(= PaCO₂ が安定)気道内圧(= 圧外傷を避けやすい)
変動するもの気道内圧
肺が硬くなると圧が上がる
一回換気量
肺が硬くなると量が減る
危険なとき気道内圧が上がりすぎる
圧上限アラームと Pplat の監視が必須
気づかぬうちに換気量が落ちる
換気量下限アラームの監視が必須
吸気の流れ方一定流量(矩形波)が多い漸減波(最初に多く入る)
VCV(量規定) Ppeak(最高気道内圧) Pplat(プラトー圧) PEEP 圧は肺の硬さで変わる PCV(圧規定) PEEP 圧は一定・量が変わる
どちらを選ぶか:結論から言えばどちらでも管理はできるため、施設や指導医の慣れているほうで構いません。初学者には、換気量が保証され PaCO₂ が読みやすい VCV から入るのがおすすめです。ただし VCV ではプラトー圧を必ず自分で確認する癖をつけてください(第7章)。
§ 3

主なモード

モード内容使いどころ
A/C
Assist/Control
(CMV とも)
設定回数の強制換気を行い、患者がトリガーした呼吸にも同じ換気を全量提供する。すべての呼吸がフルサポート。導入時の標準。呼吸筋を休ませたい急性期
SIMV
同期的間欠的強制換気
設定回数だけ強制換気。それ以外の自発呼吸は PS で補助されるか、無補助。かつてウィーニングに用いられたが、現在は積極的には推奨されない(呼吸仕事量が増え離脱が遅れる報告がある)
PSV
プレッシャーサポート
すべて患者のトリガー。吸気努力に対し設定圧で補助し、吸気流速が落ちたら終了。回数も換気量も患者次第。離脱期・SBT(第8章)。自発呼吸がしっかりあることが前提
CPAP一定の陽圧をかけるのみ。補助はしない。離脱の最終段階・NPPV
PSV には無呼吸のバックアップがありません。鎮静が深い患者や呼吸ドライブが不安定な患者に単独で使うと、無呼吸に陥る危険があります(多くの機器には無呼吸バックアップ機能がありますが、設定を必ず確認してください)。
§ 4

初期設定は予測体重から組み立てる

一回換気量は実測体重ではなく予測体重(PBW)で決めます。肺の大きさは身長で決まり、太っても肺は大きくならないからです。この一点を外すと、肥満患者に致命的な過大換気を行うことになります。

出典:The Acute Respiratory Distress Syndrome Network. Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 2000;342(18):1301-1308.

予測体重(PBW) 男性:50 + 0.91 ×(身長cm − 152.4) 女性:45.5 + 0.91 ×(身長cm − 152.4) 例)身長 160cm の女性 45.5 + 0.91 × 7.6 = 45.5 + 6.9 ≒ 52 kg → 一回換気量 6 mL/kg = 約 310 mL
成人・急性期の初期設定(目安)
モードA/C(VCV)
一回換気量(TV)6 〜 8 mL/kg PBW
呼吸回数(RR)12 〜 16 回/分
PEEP5 cmH₂O
FiO₂1.0 で開始 → 速やかに減量
I:E 比1 : 2
トリガーフロー 2 L/分/圧 −2 cmH₂O
圧上限アラームPpeak + 10 程度

病態別に外すべきポイント

病態初期設定の調整
ARDS・重症肺炎TV は 6 mL/kg PBW を守る。PEEP は高めから(第7章の PEEP/FiO₂ 表)
COPD・喘息
閉塞性
呼気時間を長く(I:E 1:3〜1:4、RR は 10〜12 と低め)。
auto-PEEP を防ぐことが最優先(第7章)
代謝性アシドーシス
DKA・敗血症など
患者はもともと過換気で代償している。分時換気量を絞ると急激に pH が悪化する。RR を高めに設定し、血液ガスで確認
頭蓋内圧亢進PaCO₂ を正常下限(35 前後)に保つ。過度の過換気は脳虚血を招くため避ける
挿管直後に必ず確認すること:①胸郭の左右差(片肺挿管していないか)②呼気 CO₂ 波形(EtCO₂)③SpO₂ ④血圧(陽圧換気で静脈還流が減り血圧が下がる)⑤チューブの深さ(門歯で男性 22〜24cm、女性 20〜22cm が目安)⑥胸部 X 線。
§ 5

設定したあと最初に見る4つの数字

数字見る理由
一回換気量(実測)PCV なら設定圧で本当に必要量が入っているか。VCV ならリークがないか
分時換気量TV × RR。PaCO₂ を規定する最も重要な値
Ppeak と PplatPplat ≤ 30 cmH₂O が肺保護の基本ライン(第7章)
実測呼吸回数設定より多ければ患者が自発でトリガーしている=鎮静や苦痛の評価が必要
そして 20〜30分後に血液ガスを採取します。設定が正しかったかを教えてくれるのは画面ではなく血液ガスです。ここで血液ガス判読ノートの5ステップがそのまま役に立ちます。
§ 6

症例で確認

54歳男性、身長 172cm、体重 92kg(BMI 31)。重症肺炎による低酸素血症で NHF でも改善せず気管挿管となった。挿管直後、あなたが初期設定を入力する。
1一回換気量を決める
実測体重 92kg で計算すると 6 mL/kg でも 552 mL となり、明らかに過大です。予測体重を使います。
PBW = 50 + 0.91 ×(172 − 152.4)= 50 + 0.91 × 19.6 = 50 + 17.8 ≒ 68 kg
重症肺炎で ARDS のリスクが高いため 6 mL/kg PBW = 約 410 mL を選択します。
(実測体重で決めていたら 1.35 倍の換気量となり、肺障害を助長するところでした。)
2残りのパラメータ
・モード:A/C(VCV)(急性期・呼吸筋を休ませる)
・RR:16 回/分(分時換気量 410 × 16 ≒ 6.6 L/分)
・PEEP:8〜10 cmH₂O(低酸素血症が主体なので 5 より高めから)
・FiO₂:1.0 で開始し、SpO₂ を見ながら速やかに減量
・I:E:1:2/トリガー:フロー 2 L/分
設定後、Pplat を測定して 30 cmH₂O 以下であることを確認します。
330分後の血液ガス
pH 7.31 / PaCO₂ 50 / HCO₃⁻ 24 / PaO₂ 88(FiO₂ 0.6)、Pplat 27 cmH₂O。
・酸素化:P/F = 88 ÷ 0.6 ≒ 147 → 中等症 ARDS の範囲。PEEP と FiO₂ の調整を続ける
・換気:PaCO₂ 50 とやや高いが、TV を上げるのではなく RR を 16 → 20 に上げて分時換気量を増やす(TV 6 mL/kg は守る)
・Pplat 27 は許容範囲内
A/C(VCV)/TV 410 mL(6 mL/kg PBW 68kg)/RR 16→20/PEEP 8-10/FiO₂ は目標 SpO₂ に合わせ漸減。肥満患者では必ず予測体重で換気量を決める。PaCO₂ の調整は TV ではなく RR で行う。
この章の要点
次のステップ
第7章:設定パラメータと肺保護換気プラトー圧・駆動圧・PEEP・auto-PEEP・血ガスでの調整 第5章:NPPV の基礎前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。