人工呼吸は救命手段であると同時に、それ自体が肺を傷つける治療です。過大な換気量と過大な圧が肺胞を壊し(人工呼吸器関連肺損傷)、予後を悪化させることが分かっています。呼吸器をどう設定すれば患者を助けつつ傷つけないか、という実践的な部分を扱います。
§ 1
Ppeak と Pplat が語ること
気道内圧は2つの成分に分けられます。この分解ができると、気道内圧上昇アラームの原因を数秒で絞り込めます。
Ppeak(最高気道内圧)
= 気道抵抗の成分 + 肺・胸郭の硬さの成分
Pplat(プラトー圧)※吸気ポーズ 0.5 秒で測定
= 肺・胸郭の硬さの成分だけ(抵抗の影響を除いた圧)
肺コンプライアンス = TV ÷(Pplat − PEEP)
正常:50 〜 100 mL/cmH₂O
アラームが鳴ったら:まず吸気ポーズを押して Pplat を測る。Pplat が正常なら吸引とチューブの確認、Pplat も高いなら胸を見て聴診し、気胸・片肺挿管を疑って胸部 X 線。この分岐だけで初期対応の大半がカバーできます。
§ 2
肺保護換気で守るべき3つの数値
駆動圧(ΔP)= Pplat − PEEP
= 一回換気量 ÷ 肺コンプライアンス
= その肺にとって、その換気量がどれだけ無理をさせているか
ARDS 患者を対象とした大規模研究で、一回換気量 6 mL/kg(対 12 mL/kg)は死亡率を下げることが示されました。以来、これは ARDS だけでなく人工呼吸を受けるすべての患者に対する基本方針として広がっています。
- 一回換気量 6 mL/kg PBW:予測体重で計算(第6章)。ARDS では厳格に、それ以外でも 8 mL/kg を超えないように。
- Pplat ≤ 30 cmH₂O:超えるなら TV を下げる(4 mL/kg まで下げることも許容される)。
- ΔP ≤ 15 cmH₂O:近年最も予後との関連が強いとされる指標。Pplat が 30 以下でも ΔP が大きければ危険。
Pplat が高いとき、その原因が肺とは限りません。高度肥満・腹腔内圧上昇・大量腹水では胸壁が硬いために Pplat が上がります。この場合、肺そのものにかかる圧(経肺圧)は見た目ほど高くありません。Pplat 32 だから即 TV を下げる、の前に腹部と体型を見てください。
§ 3
permissive hypercapnia(CO₂ を我慢する)
一回換気量を 6 mL/kg に抑えると、当然 PaCO₂ は上がります。肺保護を優先し、この高 CO₂ 血症をあえて許容するという考え方が permissive hypercapnia です。
- 目安として pH ≥ 7.20 であれば許容します(施設・病態により 7.15 まで許容することも)。
- まず 呼吸回数を上げて(25〜35 回/分まで)分時換気量を稼ぎます。ただし呼気時間が短くなり auto-PEEP を招くため上限があります。
- それでも pH が保てない場合に、重炭酸投与や体外循環(ECCO₂R・ECMO)が検討されます。
permissive hypercapnia が禁忌となる病態:頭蓋内圧亢進(CO₂ 上昇で脳血管が拡張し ICP が上がる)、重篤な肺高血圧、著明な代謝性アシドーシスの合併。これらでは PaCO₂ を上げられません。
§ 4
PEEP の効果と代償
| PEEP の効果 | PEEP の副作用 |
・虚脱した肺胞を開き、保つ
・機能的残気量が増え酸素化が改善
・肺胞の開閉の繰り返しによる損傷を防ぐ
・左心不全では前負荷・後負荷を軽減
|
・胸腔内圧上昇で静脈還流が減り血圧低下
・過膨張による肺損傷
・正常な肺胞の過伸展 → 血流が悪い部位へ再分配
・頭蓋内圧の上昇
|
PEEP の設定には決定版がありませんが、実務では ARDSNet の PEEP/FiO₂ 対応表が広く使われます(低 PEEP 戦略の例)。
※ この表は、酸素化を改善する2つの手段(FiO₂ と PEEP)をどういう組み合わせで上げていくかの指針です。上げたら必ず血圧・Pplat・ΔP を確認します。
PEEP を上げたあとの確認:①酸素化は改善したか ②Pplat・ΔP は許容範囲か ③血圧は下がっていないか。3つ目を忘れないでください。PEEP を上げた直後の血圧低下はよくあります。
§ 5
auto-PEEP(内因性PEEP)は息を吐ききれない状態
呼気が終わる前に次の吸気が始まると、肺に空気が溜まり続けます(エアトラッピング)。その結果、呼気終末にも肺胞内が陽圧のまま残る状態が auto-PEEP です。
| 起きやすい状況 | もたらす害 |
・COPD・喘息(呼気の抵抗が高い)
・呼吸回数が高すぎる
・吸気時間が長い(呼気時間が足りない)
・気管チューブが細い・分泌物で狭い
|
・胸腔内圧上昇で血圧低下(原因不明の低血圧の犯人)
・患者が吸っても呼吸器が反応しないミストリガー
・肺の過膨張・圧外傷(気胸)
|
見つけ方と対処
- 見つけ方:フロー波形で呼気が 0 に戻る前に次の吸気が始まっている。呼気終末ポーズを押すと auto-PEEP の値が測定できる。
- 対処:①呼吸回数を下げる ②吸気時間を短くして呼気時間を延ばす(I:E 1:3〜1:4)③気管支拡張薬・吸引 ④鎮静で呼吸努力を抑える
- ミストリガー対策:外因性 PEEP を auto-PEEP の 70〜80% 程度まで加えると、トリガーに必要な圧差が小さくなり患者が引きやすくなります(閉塞性疾患での考え方)。
人工呼吸中に突然の血圧低下を見たら:まず回路を外して息を吐かせる(10〜20秒)。auto-PEEP が原因なら血圧はすぐ戻ります。戻らなければ緊張性気胸を疑って身体所見をとってください。この2つが人工呼吸中の低血圧で最初に考えるべき原因です。
§ 6
血液ガスを見て設定を変える
ここが血液ガス判読ノートと直結する部分です。酸素化と換気は独立に調整します。
覚え方:CO₂ は回数、O₂ は FiO₂ と PEEP。一回換気量は肺保護のために固定してある、と考えると迷いません。
設定を変えたら 20〜30分後に血液ガスを再検します。変更直後の採血では平衡に達していません。
§ 7
症例で確認
65歳男性、COPD 増悪で挿管・人工呼吸管理中。設定は A/C(VCV)/TV 480 mL/RR 22/PEEP 5/FiO₂ 0.5。
1時間後、収縮期血圧が 130 → 78 mmHg に低下。Ppeak 42、Pplat 26 cmH₂O。呼吸器のフロー波形では呼気が 0 に戻る前に次の吸気が始まっている。頸静脈は怒張、呼吸音は両側で聴取されるが減弱している。
1圧の内訳を読む
Ppeak 42 と高値だが Pplat 26 は正常範囲。
→ 気道抵抗の上昇が主体(§1 の分岐)。COPD+喀痰貯留・気管支攣縮に矛盾しません。
コンプライアンス自体は保たれているため、ARDS のような肺の硬化は主因ではないと分かります。
2血圧低下の原因は
フロー波形で呼気が 0 に戻っていない= auto-PEEP の所見です。
COPD で呼気に時間がかかるのに RR 22 と高く設定されており、呼気時間が足りていません。空気が肺に溜まり続け、胸腔内圧が上昇して静脈還流が減り、血圧が低下しました(頸静脈怒張はこれで説明できます)。
鑑別すべきは緊張性気胸ですが、呼吸音は両側で聴取され、Pplat も上がっていないため可能性は下がります(ただし否定はできません)。
3対処
まず回路を外して 15 秒ほど息を吐かせます。血圧が速やかに回復すれば auto-PEEP が原因と確定できます。
次に設定を変更します:
・
RR 22 → 12〜14 に下げる(呼気時間を確保)
・
I:E を 1:3〜1:4 に(吸気流速を上げて吸気時間を短縮)
・気管支拡張薬、吸引で気道抵抗を下げる
・PaCO₂ の上昇は
permissive hypercapnia として pH 7.20 まで許容する
回復しなければ緊張性気胸として胸腔穿刺を考慮します。
✅ auto-PEEP による血圧低下。回路を一時的に外して減圧し、RR を下げ呼気時間を延ばす。COPD では、CO₂ を下げようと RR を上げることが逆に換気を悪化させ、循環を破綻させます。典型的な落とし穴です。
この章の要点
- Ppeak↑ / Pplat 正常 → 気道抵抗、両方↑ → コンプライアンス低下。
- 肺保護の3数値:TV 6 mL/kg PBW・Pplat ≤30・ΔP(Pplat−PEEP)≤15。
- 肺保護を優先し pH ≥7.20 なら高 CO₂ を許容(頭蓋内圧亢進では不可)。
- PEEP は酸素化を改善するが、血圧低下を招く。上げたら血圧を必ず確認。
- auto-PEEP は閉塞性疾患+高い呼吸回数で起きる。血圧低下・ミストリガーの原因。
- 人工呼吸中の突然の低血圧=まず回路を外して息を吐かせる、次に緊張性気胸。
- 調整の原則:CO₂ は回数、O₂ は FiO₂ と PEEP。変更後 20〜30分で再検。ただし閉塞性疾患では回数を上げると auto-PEEP が悪化するので、呼気時間を確保する。
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次のステップ
第8章:ウィーニングと抜管離脱の前提条件・SBT・RSBI・カフリーク・抜管後管理
トラブルシューティング一覧アラーム・SpO₂低下・非同調・血圧低下の対処
第6章:人工呼吸器モードの基礎前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・設定は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。