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第 7 章 ・ 経過

モニタリングと合併症

始めたあと何を追うか/高血糖/過剰投与という害/肝障害・胆汁うっ滞/カテーテル関連血流感染/微量元素と長期の欠乏症。

栄養の問題は、開始した日ではなく続けている間に出てきます。経腸・静脈のどちらにも、時間が経つほど現れる合併症があります。指示を出したあとに何を見続けるか、という話です。目の付けどころは、足りないことより「入れすぎ」で起きる合併症のほうが多いという点にあります。
§ 1

何を、どのくらいの頻度で見るか

項目頻度見る理由
体重週2〜3回(同条件で)最も基本的な指標。ただし浮腫と脱水に大きく左右されるので、単独では判断しない。
実際の摂取量連日指示した量ではなく、入った量。中断・嘔吐・検査での絶食で簡単に減る。
血糖開始直後は1日4回過剰投与とインスリン需要の指標。
電解質(Na・K・P・Mg)開始初期は連日refeeding(第6章)と利尿薬・下痢による喪失。
肝機能・胆道系酵素週1回静脈栄養関連の肝障害・胆汁うっ滞。
腎機能・BUN週1〜2回たんぱく負荷の指標。BUN/Cr比の上昇は過剰投与のサインになりうる。
中性脂肪脂肪乳剤使用中は週1回クリアランス低下の確認。
カテーテル刺入部連日発赤・疼痛・排膿。原因不明の発熱では必ず疑う。
「指示した量」と「実際に入った量」は必ずずれます。検査で絶食、嘔吐で中断、ルート閉塞で数時間空白 ── これらが積み重なると、1週間で計画の6割しか入っていないことがあります。カルテの指示ではなく、看護記録の実投与量を見てください。
§ 2

過剰投与(overfeeding)という害

栄養の合併症というと「足りない」ことを想像しがちですが、急性期に多いのは入れすぎのほうです。

急性期には内因性のエネルギー産生があります。侵襲時は体自身が蛋白と脂肪を分解してエネルギーを作っているため、そこに外から満量を入れると供給が需要を超えます。だから急性期は「目標の7〜8割」で十分とされ、初期には意図的に低めに保つ考え方(permissive underfeeding)もあります。

目安として、ツールでは目標の120%を超えたら過剰投与として警告を出しています。逆に70%未満でも警告しますが、段階的な増量の途中であれば問題ありません。数字そのものより「意図した状態か」が大事です。

§ 3

静脈栄養に特有の合併症

合併症特徴と対応
カテーテル関連血流感染
(CRBSI)
最も重要。原因不明の発熱では常に疑う。刺入部所見がなくても否定できない。血液培養はカテーテルと末梢の両方から。挿入時の最大バリアプリコーション、閉鎖式輸液ライン、不要になったら速やかに抜去。
肝障害・胆汁うっ滞長期TPNで頻度が上がる。腸を使わないこと自体が原因なので、少量でも経腸を併用するのが最善の対策。過剰投与を避け、脂肪乳剤の量を見直す。
高血糖・低血糖高血糖はGIRの見直しとインスリン。低血糖は投与を急に止めたときに起こる。中止時は糖濃度を段階的に下げる。
静脈炎(末梢)浸透圧比3を超える製剤を末梢に入れると起こる。刺入部の疼痛・発赤で早期に入れ替える。
気胸・血腫・血栓中心静脈カテーテル挿入時と留置中。挿入後の胸部X線確認を怠らない。
「TPNを入れたまま忘れられている患者」を作らないでください。腸が使えるようになったら経腸へ移行し、カテーテルを抜く。CRBSIの最大の予防策はカテーテルを抜くことです。
§ 4

経腸栄養に特有の合併症

合併症特徴と対応
誤嚥性肺炎頭位挙上、速度調整、形状の変更、幽門後投与(第4章)。
下痢薬剤・CDI・速度・浸透圧の順に確認。中止しない。
便秘見落とされやすい。水分不足食物繊維不足が主因。高濃度製剤では特に起きやすい。
チューブ閉塞前後の白湯フラッシュ、簡易懸濁法。
鼻翼潰瘍・副鼻腔炎経鼻の長期留置で。4週間を超えるなら胃瘻を検討する理由のひとつ。
胃瘻の合併症スキントラブル、バンパー埋没症候群、栄養剤の漏れ。
§ 5

長期投与で効いてくる欠乏症

数週間以上の栄養管理では、エネルギーとたんぱく質だけを見ていると足元をすくわれます。

栄養素欠乏で起こること注意点
ビタミンB1乳酸アシドーシス、Wernicke脳症最優先。基本液にはビタミンが入っていない(第5章)。
必須脂肪酸皮膚炎、創傷治癒遅延脂質をほとんど含まない製剤(成分栄養剤など)を単独で長期使用すると起こる。脂肪乳剤の併用を。
亜鉛味覚障害、皮疹、創傷治癒遅延、脱毛下痢や消化管瘻からの喪失が多いと不足しやすい。
貧血、好中球減少亜鉛の長期大量補充で銅の吸収が阻害される点に注意。
微量元素全般多彩高カロリー輸液キットによって配合が違う。エルネオパNFは5種(鉄・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素)だが、フルカリック・ネオパレンは亜鉛のみ
キットは名前ではなく中身で選んでください。「高カロリー輸液キットだから微量元素は足りている」とは言えません。フルカリックやネオパレンを長期に使うなら、微量元素製剤の追加を検討します。ツールで製品を選ぶと、この違いが製品ごとの注意として表示されます。
症例

この章の症例

55歳男性。クローン病、小腸大量切除後の短腸症候群。中心静脈栄養(フルカリック2号 2袋/日+イントラリポス20% 100 mL 隔日)で在宅管理中、6か月経過
外来受診時、「最近ものの味がしない」「傷が治りにくい」との訴え。Hb 9.8 g/dL(小球性ではない)、好中球 1,400/µL、AST 62・ALT 71・ALP 高値。刺入部に異常なし、発熱なし。何が起きているか。
1味覚障害と創傷治癒遅延から考える
亜鉛欠乏を考えます。味覚障害・創傷治癒遅延・皮疹・脱毛は亜鉛欠乏の典型です。
短腸症候群では消化液からの亜鉛喪失が大きいため、通常量の補充では足りないことがあります。
ただしフルカリックには亜鉛が入っているので、「亜鉛が全く入っていない」わけではありません。喪失量に対して不足している状態です。
2貧血と好中球減少をどう説明するか
銅欠乏です。貧血(小球性ではない)と好中球減少の組み合わせは、銅欠乏の典型像です。
フルカリックの微量元素は亜鉛のみで、銅・鉄・マンガン・ヨウ素は含まれていません。6か月間これだけで管理すれば、銅は枯渇します。
さらに、亜鉛を補充すると腸管での銅吸収が競合的に阻害されるため、亜鉛だけを足すと銅欠乏を悪化させる危険があります。
3肝機能異常の原因は
静脈栄養関連の肝障害・胆汁うっ滞を考えます。長期TPNで頻度が上がり、ALP優位の上昇が特徴的です。
最大の原因は腸を使っていないことです。対策は、①可能な範囲で少量でも経腸栄養を併用する ②過剰投与を避ける ③脂肪乳剤の量と種類を見直す、の順です。
短腸症候群でも、残存腸管が機能していれば少量の経腸は多くの場合可能です。
微量元素欠乏(亜鉛+銅)と、静脈栄養関連肝障害。
根本原因は「フルカリックの微量元素は亜鉛のみ」という製剤の性質を知らずに6か月使い続けたことです。
対応は、微量元素製剤の追加(亜鉛だけを足さない。銅を含むものを)、少量でも経腸栄養の併用過剰投与の是正
キットは名前ではなく中身で選ぶ。これがこの章の要点です。
この章の要点
次のステップ
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免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載内容は一般的な目安であり、実際の投与量・投与速度は個々の患者の病態、腎機能・肝機能、施設のプロトコル、および最新の添付文書に従って判断してください。最終的な判断は必ず担当医師が行ってください。