栄養の指示を出すのに必要な数字は3つです。エネルギー(kcal)・たんぱく質(g)・水分(mL)。この3つが決まれば、あとは製品を組み合わせるだけになります。決めずに製品から選ぶと、何を入れているのか分からないまま日数が過ぎます。3つの出し方と、途中でつまずきやすい体重の選び方を扱います。
§ 1
エネルギーの出し方は2通り
必要エネルギーの求め方には、大きく2通りあります。
簡易式(体重あたり)
25〜30 kcal / kg / 日
現場で最も使われる。暗算できるのが最大の利点。まずこれで当たりをつける。
Harris-Benedict式
BEE × 活動係数 × 傷害係数
基礎エネルギー消費量(BEE)を年齢・性別・身長・体重から計算し、係数を掛ける。
Harris-Benedict式のBEEは次のとおりです。計算はツールがやるので暗記は不要ですが、何を入力に取っているかは見ておいてください。
男性:66.47 + 13.75×体重(kg) + 5.00×身長(cm) − 6.76×年齢
女性:655.1 + 9.56×体重(kg) + 1.85×身長(cm) − 4.68×年齢
2つの式の答えは、しばしば食い違います。差が20%以上になるときは、たいてい体重の選び方か係数の掛けすぎが原因です。とくに係数を2つとも高めに取ると、簡単に必要量が過大になります。迷ったら低めから始めるのが安全側です。
§ 2
どの体重を使うか
「25〜30 kcal/kg」の kg に何を入れるか。実体重をそのまま使ってよいのは、BMIが標準域のときだけです。
肥満患者に実体重を使うと、確実に過剰投与になります。脂肪組織は代謝的にほとんど不活性なので、体重に比例してエネルギーを要求しません。BMI 35、体重 95 kg の患者に 30 kcal/kg を掛けると 2,850 kcal ですが、調整体重で計算すれば 2,000 kcal 前後に収まります。
逆に、るい痩の患者に理想体重を使うと危険になることがあります。BMI 14 の患者に IBW で計算した 1,600 kcal を初日から入れれば、それはrefeeding症候群そのものです。必要量と初日に入れる量は別物です。
必要量は目標であって
初日に入れる量ではない
§ 3
たんぱく質は侵襲の程度で決める
たんぱく質の必要量は、エネルギーとは別の論理で決まります。基準は侵襲の大きさです。
高齢者では、侵襲がなくてもサルコペニア予防の観点から 1.0〜1.2 g/kg/日を目安にすることが多くなっています。高齢だからといって減らす理由にはなりません。
腎不全は例外です。保存期の慢性腎臓病では、たんぱく制限(0.6〜0.8 g/kg/日)が行われることがあります。一方、
透析導入後はむしろ 1.0〜1.2 g/kg/日と増えます。透析でアミノ酸が失われるためです。「腎不全=たんぱく制限」と機械的に覚えると、透析患者を低栄養にします。詳しくは
第8章で扱います。
§ 4
水分は30〜35 mL/kg/日
水分の目安は30〜35 mL/kg/日です。体重 50 kg なら 1,500〜1,750 mL。ただしこれは「必要量」であって、実際には次の調整が入ります。
- 心不全・腎不全・肝硬変:制限する。1日 1,000〜1,500 mL に絞ることもある。
- 発熱:体温が1℃上がるごとに、およそ 150 mL/日 増える。
- 下痢・嘔吐・ドレーン排液・高度発汗:喪失分を上乗せする。
見落とされやすいのが、栄養剤そのものに含まれる水分です。経腸栄養剤は製品によって含水率が大きく違います。1.0 kcal/mL の製品は約85%が水ですが、1.6 kcal/mL のイノラス配合経腸用液では1パウチ187.5 mL のうち水分が約140 mLです。濃い製品ほど、別に白湯を足さないと脱水になります。
1日分の水分は製品ごとに足し上げないと出ません。NST栄養管理シミュレーターで製品を組み合わせると、水分の合計と目安との差が自動で出ます。
§ 5
NPC/N比はたんぱく質を燃やさないための指標
たんぱく質を入れても、エネルギーが足りていなければアミノ酸はエネルギー源として燃やされてしまいます。体を作る材料にならず、窒素として排泄されるだけです。これを避けるための指標が NPC/N比 です。
NPC/N比 = 非たんぱく熱量(kcal) ÷ 窒素量(g)
非たんぱく熱量 = 総熱量 − たんぱく質×4
窒素量 = たんぱく質(g) ÷ 6.25
「窒素1 g に対して、たんぱく質以外のカロリーを何 kcal 添えているか」という比です。
NPC/N比は単剤では評価できません。アミノ酸製剤(アミパレン等)を単独で見ればNPC/N比はほぼゼロですし、腎不全用の低たんぱく製品(リーナレンLP等)では600前後になります。見るのは「1日に入れる組み合わせ全体」です。
症例
この章の症例
58歳男性。身長 170 cm、体重 98 kg(BMI 33.9)。S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎で緊急手術。術後ICU入室、人工呼吸管理中。
研修医は「30 kcal/kg で 98 kg だから 2,940 kcal、たんぱく質は 1.5 g/kg で 147 g」と計算した。この計算の問題点は何か。正しくはどうなるか。
1どの体重を使うべきか
BMI 33.9 の肥満です。実体重をそのまま使うと過剰投与になります。
理想体重 = 22 × 1.702 = 63.6 kg
調整体重 = 63.6 + 0.4 ×(98 − 63.6)= 63.6 + 13.8 = 77.4 kg
使うのは調整体重 77.4 kg です。
2エネルギーとたんぱく質を計算し直す
エネルギー:25〜30 kcal/kg × 77.4 = 1,935〜2,322 kcal。当初の 2,940 kcal はおよそ600〜1,000 kcal の過剰でした。
たんぱく質:腹膜炎は中等度侵襲なので 1.2〜1.5 g/kg。77.4 × 1.2〜1.5 = 93〜116 g。当初の 147 g も過大です。
水分:30〜35 mL/kg × 77.4 = 2,320〜2,710 mL(発熱があればさらに上乗せ)。
3では初日から2,000 kcal 入れるのか
入れません。術直後の急性期は、たとえ必要量が 2,000 kcal と計算されても、初日からそれを目指しません。
急性期は内因性のエネルギー産生があるため、外から満量を入れるとoverfeeding(高血糖・脂肪肝・CO2産生増加・感染増加)になります。数日かけて段階的に上げるのが原則です。
必要量は目標であって、初日に入れる量ではありません。
✅
肥満患者に実体重を使ったことが誤り。調整体重 77.4 kg で計算し直すと 1,935〜2,322 kcal・たんぱく質 93〜116 g。ただし
初日からその量は入れません。急性期は低めから始めて数日で目標に近づけます。
肥満でも低栄養はありえます(
第1章)。
体重の選び方を変えて、正しい目標を出すのが正解です。
この章の要点
- 決めるべき数字はエネルギー・たんぱく質・水分の3つだけ。これが決まれば製品は後から選べる。
- エネルギーは簡易式 25〜30 kcal/kg/日で当たりをつけ、必要ならHarris-Benedict式で確認する。
- つまずくのは体重の選び方。標準域は実体重、肥満(BMI 30以上)は調整体重=IBW+0.4×(実体重−IBW)、やせは理想体重も検討する。
- たんぱく質は侵襲の程度で決める。正常0.8〜1.0/軽度1.0〜1.2/中等度1.2〜1.5/高度1.5〜2.0 g/kg/日。透析導入後は制限ではなく1.0〜1.2 g/kg/日と増える。
- 水分は30〜35 mL/kg/日。発熱1℃で約150 mL/日追加。高濃度の経腸栄養剤ほど製品中の水分が少ない。
- NPC/N比は150〜200。低ければ糖・脂質を、高ければアミノ酸を足す。単剤ではなく1日の組み合わせ全体で見る。
- 必要量は目標であって、初日に入れる量ではない。急性期の overfeeding は害になる。
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次のステップ
第3章:経腸か静脈か腸が使えるなら腸を使う。その原則の意味と、例外の見分け方。
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免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載内容は一般的な目安であり、実際の投与量・投与速度は個々の患者の病態、腎機能・肝機能、施設のプロトコル、および最新の添付文書に従って判断してください。最終的な判断は必ず担当医師が行ってください。