腸が使えるなら腸を使う/なぜ腸を使うのか/経腸の禁忌/いつ始めるか/経鼻と胃瘻の分かれ目/静脈栄養に踏み切る条件。
腸管は、体内最大の免疫臓器であり、内と外を隔てるバリアです。単なる「食べ物が通る管」として扱うと見落とします。使わないでいると、次のことが起こります。
ここから実務的な帰結が出ます。必要量の全部を経腸で賄えなくても、経腸を「ゼロ」にしない。静脈栄養が主体でも、1日 200〜400 kcal 程度の少量の経腸栄養(trophic feeding、腸管刺激目的の少量投与)を併用する意義があります。
禁忌は意外に限られています。多くの「できない」は、実は「やり方を変えればできる」です。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 腸閉塞(機械的) | 禁忌。閉塞部より先に届かない。 |
| 腸管虚血 | 禁忌。虚血腸管への負荷は致命的になりうる。 |
| 活動性の消化管出血 | 禁忌。止血が優先。 |
| 難治性の嘔吐・下痢 | 相対的禁忌。原因(薬剤・感染・速度)を是正して再挑戦する。 |
| 循環動態が不安定 | 相対的禁忌。高用量の昇圧薬を要する状態では腸管虚血のリスクがあるため、安定するまで待つか少量にとどめる。 |
| 誤嚥のリスクが高い | 禁忌ではない。頭位挙上・半固形化・幽門後投与などで対応する(第4章)。 |
| 腸蠕動音が弱い | 禁忌ではない。腸音は経腸開始の判断基準にならない。 |
| 術後で「まだ早い」 | 禁忌ではない。多くの消化管術後で早期経腸は安全とされる。 |
腸が使えると判断したら、早く始めるほうがよいというのが現在の考え方です。重症患者では入室後 24〜48時間以内の開始が推奨されます。
ここで「早く始める」と「早く目標量まで上げる」を分けてください。開始は早く、増量はゆっくりが原則です。とくに低栄養が背景にある患者では、増量を急ぐことがrefeeding症候群の引き金になります。
一方、静脈栄養を「いつ足すか」は別の判断です。もともと栄養状態が良好な患者なら、経口・経腸だけで不十分でも数日〜1週間程度は待てます。しかし、すでに低栄養がある患者では待てません。第1章のGLIM評価が、ここで効いてきます。
経腸と決めた後、次に選ぶのは「どこから入れるか」です。判断軸は期間と誤嚥リスクの2つです。
| ルート | 想定期間 | 特徴・注意 |
|---|---|---|
| 経口 | 制限なし | 可能なら常に第一選択。嚥下評価とトロミ調整、間食・栄養補助食品の活用から始める。 |
| 経鼻胃管 | 4週間まで | 最も手軽。長期になると鼻翼潰瘍・副鼻腔炎・不快感・自己抜去が問題になる。 |
| 胃瘻(PEG) | 4週間を超える見込み | 安定して長期投与できる。半固形製剤が使えるのは基本的にここ。 |
| 幽門後(経鼻十二指腸・空腸/腸瘻) | 状況による | 胃内投与で誤嚥や胃排出遅延が問題になるとき。持続投与が基本で、半固形は使えない。 |
腸が使えないと判断したら静脈栄養ですが、ここでも末梢(PPN)と中心(TPN)の使い分けがあります。決め手は浸透圧と期間です。
| 末梢静脈栄養(PPN) | 中心静脈栄養(TPN) | |
|---|---|---|
| 入れられる量 | 1日 800〜1,200 kcal 程度が限界 | 必要量を全部入れられる |
| 浸透圧の制約 | 浸透圧比 約3まで。超えると静脈炎 | 制約なし(血流量が多い) |
| 期間の目安 | 2週間以内 | 長期可能 |
| 主な合併症 | 静脈炎・血管痛・穿刺部位の枯渇 | カテーテル関連血流感染・気胸・血栓 |
実務的には、「2週間以内に腸が使えるようになりそうか」で分けます。なりそうなら末梢でつなぐ。ならなそうなら、最初から中心静脈を入れるほうが、末梢の血管を潰しながら結局中心に移行するより患者の負担が小さくなります。