静脈栄養で研修医が犯す誤りは、大きく3つに集約されます。①3号液を栄養だと思っている ②糖を入れすぎている ③ビタミンB1を入れ忘れている。いずれも知っていれば避けられます。3つ目だけは、忘れると患者が死ぬか、後遺症を残します。
§ 1
3号液は栄養ではない
維持液(3号液)は水分と電解質を保つための輸液です。栄養を入れる用途は想定されていません。代表的なソルデム3A輸液で計算してみます。
ソルデム3A 500 mL = ブドウ糖 21.5 g = 86 kcal
1日 1,500 mL(3本)= 258 kcal・アミノ酸 0 g
1日 2,000 mL(4本)= 344 kcal・アミノ酸 0 g
必要量が 1,400 kcal の患者に 1,500 mL 入れて、充足率は 18%。たんぱく質はゼロです。
点滴が入っていることと、栄養が足りていることは別です。3号液だけの状態が続くと、患者は毎日1,100 kcal 以上の赤字を出し続けます。1週間で 8,000 kcal 近い不足になり、これは体重換算で 1 kg 以上の組織の喪失に相当します。
絶食が3日を超えるなら、末梢静脈栄養か経腸栄養への切り替えを考えてください。
糖濃度がやや高い維持液(フィジオ35輸液など、ブドウ糖10%)でも 500 mL で 200 kcal、1,500 mL で 600 kcal。アミノ酸はやはりゼロです。アミノ酸が入っていない輸液は、どれだけ入れても栄養になりません。
§ 2
末梢静脈栄養の3製剤
末梢から入れられる栄養輸液には、世代の違いがあります。同じ「末梢輸液」でも中身が違います。
エネフリードは末梢から脂肪まで入れられるため、同じ末梢でも1袋あたり100 kcal 多く入ります。ただし脂肪を含むため除菌用ファイナルフィルターが使えず、連日投与では輸液ラインを24時間ごとに交換します。投与は2週間以内が原則です。
末梢静脈栄養だけで栄養を賄えるのは数日までです。ビーフリード2袋(1,000 mL)でも 420 kcal にしかなりません。NPC/N比も64と低く、これ単独ではアミノ酸がエネルギーとして燃やされてしまいます。脂肪乳剤を併用するか、期間が延びるなら中心静脈へ切り替えてください。
§ 3
糖には速度の上限がある
静脈から糖を入れるとき、1日の総量ではなく「1分あたりどれだけ入っているか」が問題になります。これが GIR(glucose infusion rate、糖注入速度)です。
GIR(mg/kg/分)= 糖質(g) × 1000 ÷ 体重(kg) ÷ 1440
体重 50 kg なら、GIR 5 に相当する糖は1日 360 gです。高カロリー輸液キットのフルカリック3号(1袋に糖250 g)を2袋入れれば、それだけで糖500 g となり GIR 6.9。明らかに超えます。
CO2産生の話は呼吸器管理につながります。糖の過剰投与は呼吸商を上げてCO2産生を増やし、人工呼吸器からの離脱を難しくすることがあります。ただしCO2を決めるのは炭水化物の比率より総投与エネルギーです。低炭水化物製剤を探すより、まず過剰投与をやめるのが本筋です。
§ 4
脂肪乳剤の速度制限
脂肪乳剤は「必須脂肪酸の補給」と「エネルギーを糖に偏らせない」ための製剤です。糖だけで必要量を満たそうとするとGIRを超えるので、脂肪はGIRを守るための道具でもあります。
投与速度は「0.1 g/kg/時」と引用されることがありますが、イントラリポスの添付文書は 0.08 g/kg/時以下と定めています。本シリーズと
ツールは添付文書の値を採用しています。速すぎると発熱・悪心などの副作用が増えます。
なお脂肪乳剤はリンの供給源でもあります(精製卵黄レシチン由来)。refeedingや腎不全の文脈では、この点も意識してください。
§ 5
ビタミンB1 は入れ忘れが致命傷になる
糖を投与するのにビタミンB1がない状態を、作ってはいけません。
ビタミンB1(チアミン)はピルビン酸をアセチルCoAに変換する酵素の補酵素です。B1が欠乏した状態で糖を大量に入れると、ピルビン酸が処理されず乳酸に流れます。結果として起こるのが以下の2つです。
重篤な乳酸アシドーシス
代謝性アシドーシスとして現れる。致死的になりうる。
Wernicke脳症
眼球運動障害・失調・意識障害。不可逆の後遺症を残す。
高カロリー輸液の「基本液」には、ビタミンが入っていません。ハイカリックRF輸液のような基本液は、糖と電解質だけの製剤です。これにアミノ酸液を混ぜただけで投与すると、大量の糖を入れながらB1がゼロという最悪の組み合わせになります。添付文書にも「ビタミンB1を1日3mg以上を目安に併用」と明記されています。
目安はルートで違います。高カロリー輸液(静脈栄養)では1日3 mg以上が目安。一方、経腸栄養だけなら食事摂取基準の推奨量(成人1.1〜1.4 mg/日)で足ります。経腸のみの患者に3 mgを要求すると、充足しているのに不足と判定してしまいます。
Wernicke脳症を疑うときの治療量は、これらとは桁が違います。推定診断例には、英国RCPがチアミン500 mgを1日3回・3〜5日間の静注、EFNSが200 mgを1日3回を推奨しています。そしていずれも糖の投与前に開始するのが鉄則です。ブドウ糖を先に入れると脳症を誘発・悪化させます。
症例
この章の症例
61歳男性。アルコール性肝硬変。3週間ほとんど食事を摂れず、意識がもうろうとした状態で救急搬送。身長 168 cm、体重 46 kg(BMI 16.3)。血糖 62 mg/dL。
救急外来で「低血糖だから」と50%ブドウ糖 40 mL を静注し、その後高カロリー輸液(フルカリック2号 1,000 mL)を開始した。翌朝、患者は開眼せず、眼球運動に異常を認めた。何が起きたか。どうすべきだったか。
1この患者のB1の状態は
枯渇していると考えるべきです。
ビタミンB1の体内貯蔵は2〜3週間分しかありません。この患者は「3週間ほとんど食事を摂れず」「アルコール多飲」という、B1欠乏の二大リスクを両方持っています。
アルコールは吸収を妨げ、貯蔵を減らし、需要を増やすため、単なる絶食よりさらに危険です。
2ブドウ糖静注は何をしたか
B1のない状態に糖を投与し、Wernicke脳症の引き金を引きました。
糖代謝はB1を消費します。もともと枯渇している患者に糖を入れると、残りわずかなB1が一気に使い果たされ、脳症が顕在化します。
低血糖の補正そのものは正しい。誤りは「B1を先に入れなかった」ことです。
さらにフルカリック2号のB1は1.5 mg/袋。予防量としても不足で、まして治療量ではありません。
3正しい順番と量は
①B1を先に静注 → ②ブドウ糖 の順です。時間差はわずかで構いませんが、
順番は守ります。
推定診断として扱うなら
チアミン 500 mg を1日3回、3〜5日間(英国RCP)あるいは
200 mg を1日3回(EFNS)。アリナミンF100注やビタメジン静注用を用います。いずれも
3分以上かけて緩徐に静注(ショックの報告があるため)。
そして栄養の開始自体も、BMI 16.3・3週間の絶食という条件から
refeeding症候群の高リスクです。フルカリック2号 1,000 mL(820 kcal)を初日から入れたこと自体が誤りでした。
第6章へ続きます。
✅ ビタミンB1を投与せずに糖を入れたことで、Wernicke脳症を誘発した。
正しい順番は「B1が先、糖が後」。3週間の絶食+アルコール多飲という時点で、B1は枯渇しているものとして扱います。
加えてこの患者はrefeeding症候群の高リスクでもあり、初日から820 kcalを入れる方針自体が危険でした。誤りは2つ、同時に起きています。
この章の要点
- 3号液は栄養ではない。ソルデム3A 1,500 mL=258 kcal・アミノ酸ゼロ。絶食が3日を超えたら、栄養状態と再開の見込みで切り替えるかを判断する。
- アミノ酸が入っていない輸液は、どれだけ入れても栄養にならない。
- 末梢栄養輸液はビーフリード<パレプラス(ビタミン9種)<エネフリード(+脂肪)の順に中身が増える。末梢は2週間まで。
- GIR 4〜5 mg/kg/分 以下を守る。超えると高血糖・脂肪肝・CO2産生増加。脂肪乳剤は0.08 g/kg/時 以下(添付文書値)で、20%製剤100 mLは72分以上かけて。
- 高カロリー輸液の基本液にはビタミンが入っていない。総合ビタミン剤の併用は必須。B1の目安は静脈栄養なら3 mg/日以上、経腸のみなら1.1〜1.4 mg/日とルートで異なる。
- Wernicke脳症を疑うときはB1が先、糖が後。ただし低血糖があれば糖投与を遅らせず、B1を同時に投与する。治療量は500 mg×3回/日(RCP)または200 mg×3回/日(EFNS)で、予防量とは桁が違う。
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次のステップ
第6章:refeeding症候群最も避けたい合併症。誰が高リスクで、初日に何 kcal から始めるか。
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免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載内容は一般的な目安であり、実際の投与量・投与速度は個々の患者の病態、腎機能・肝機能、施設のプロトコル、および最新の添付文書に従って判断してください。最終的な判断は必ず担当医師が行ってください。