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第 7 章 ・ その他の電解質

Ca・Mg・P の異常

補正Ca を必ず使う/高Ca血症クリーゼ/Mg は他の電解質の鍵/リフィーディング。

Na・K に比べて後回しにされがちな3つですが、いずれも見落とすと治らない・命に関わる場面があります。Ca は補正して初めて意味がありMg は低 K・低 Ca が治らない理由になりP はリフィーディングで急落する ― この3点を押さえてください。
§ 1

カルシウムはまず補正 Ca に直す

血中 Ca の約 40% はアルブミンと結合しており、低アルブミン血症では総 Ca が低く出ます。生理活性を持つのはイオン化 Ca です。

補正 Ca(mg/dL)= 実測 Ca + 0.8 ×(4 − Alb)   ※ Alb < 4.0 g/dL のときに適用 例)Ca 7.6、Alb 2.4 の場合  7.6 + 0.8 ×(4 − 2.4)= 7.6 + 1.28 ≒ 8.9 → 正常
入院患者は低アルブミンが多いため、補正しないと低 Ca を大量に作り出してしまいます。逆に、低アルブミンなのに総 Ca が正常なら、補正すると高 Ca です。Ca を見たら必ず Alb とセットで
厳密に評価したい場面(重症・急性変動・大量輸血後)ではイオン化 Ca を直接測定します。
§ 2

高Ca血症

原因は 2 つで 9 割

原因特徴
悪性腫瘍入院患者で最多。PTHrP 産生(肺扁平上皮癌・腎癌)、骨転移(乳癌・肺癌・骨髄腫)。進行が速く症状が強い
原発性副甲状腺機能亢進症外来・無症候での発見が多い。緩徐、軽度
その他サルコイドーシスなど肉芽腫性疾患、ビタミン D 中毒、サイアザイド、リチウム、不動、甲状腺機能亢進症
PTH を測れば一発で分かれます。PTH 高値〜不適切正常 → 副甲状腺機能亢進症。PTH 抑制 → 悪性腫瘍など PTH 非依存性。採血のとき一緒に PTH を出しておくと二度手間になりません。

症状(stones, bones, groans, psychiatric overtones)

高Ca血症クリーゼの治療

補正 Ca > 14 mg/dL または症候性
① 生理食塩水の大量輸液最優先・脱水の是正
② ビスホスホネートゾレドロン酸など
③ カルシトニン速効性・効果は数日で減弱
④ 血液透析重症・腎不全例

最重要は①の輸液です。高 Ca は腎性尿崩症を起こして高度の脱水を招き、脱水が Ca 排泄をさらに落とすという悪循環を作ります。まず volume を戻すことが治療の中心です。

ループ利尿薬をルーチンで使うのは推奨されません。かつては Ca 排泄促進のため併用されましたが、脱水を悪化させる害のほうが問題になります。volume を十分戻したうえで、うっ血がある場合に限って使用します。
またビスホスホネートは効果発現に 2〜4 日かかるため、これだけでは急場をしのげません。カルシトニンで時間を稼ぎます。
§ 3

低Ca血症

原因ポイント
副甲状腺機能低下症甲状腺・頸部術後が代表。術後数日以内に出現
ビタミン D 欠乏高齢者・日光曝露不足・吸収不良
低 Mg 血症PTH の分泌・作用を障害。Mg を直さないと Ca も治らない
急性膵炎脂肪壊死に Ca が捕捉される。重症度指標でもある
大量輸血クエン酸が Ca を結合。大量輸血プロトコル中は必ず監視
腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解高 P により Ca が沈着
慢性腎臓病活性型ビタミン D 産生低下+高 P

症状

症候性(テタニー・痙攣・QT 延長)ならグルコン酸カルシウムを静注します。ただし血管外漏出で組織壊死を起こすため、確実な静脈路から投与してください。無症候性なら経口 Ca とビタミン D で緩徐に補正します。
低 Mg の合併を必ず確認 ― これを直さないと Ca は戻りません。
§ 4

マグネシウムは他の電解質を動かす鍵

低 K・低 Ca が治らないときは Mg を測る
Mg はルーチン検査に入っていないことが多く、意識して出さないと見逃す

低Mg血症

原因症状・影響
利尿薬(ループ・サイアザイド)
アルコール依存
下痢・吸収不良
PPI の長期使用
シスプラチン・アミノグリコシド・タクロリムス
難治性の低 K(第5章)
低 Ca(PTH 障害)
振戦・テタニー・痙攣
torsades de pointes・QT 延長
torsades de pointes には硫酸 Mg ― これは Mg 値が正常でも投与します。QT 延長を伴う多形性心室頻拍を見たら反射的に思い出してください。

高Mg血症

ほぼ例外なく腎機能低下 + Mg 製剤で起こります。酸化マグネシウム(緩下剤)は高齢者に広く処方されており、腎機能が落ちたときに蓄積します。

高齢者・腎機能低下・酸化マグネシウム内服・傾眠、という組み合わせを見たら、Mg を測定してください。ありふれた薬なので疑われにくく、それゆえ見逃されます。
§ 5

リンとリフィーディング症候群

低P血症

原因備考
リフィーディング症候群後述。最も重要
DKA の治療中インスリンで P が細胞内へ移動
アルコール依存・低栄養もともとの欠乏
制酸薬(アルミニウム・Mg 含有)腸管での吸収阻害
呼吸性アルカローシス細胞内シフト
P < 1.0 mg/dL は緊急です。ATP が枯渇し、呼吸筋力低下(人工呼吸器から離脱できない)・溶血・横紋筋融解・意識障害・心不全を起こします。静注での補充を検討してください。

リフィーディング症候群

長期の低栄養状態にある人に急に栄養(とくに糖質)を投与すると、インスリンが分泌され P・K・Mg が一斉に細胞内へ移動します。ビタミン B1 も急速に消費されます。

ハイリスクな患者
  • 長期の絶食・飢餓(>5〜7日)
  • アルコール依存
  • 神経性やせ症・著明なるいそう
  • 高齢者の低栄養・悪性腫瘍・術後の長期絶食
予防が唯一の対策です。栄養は少量から開始し数日かけて増量 ②投与前にビタミン B1 を先行投与P・K・Mg を毎日測定し先回りして補充。
「よく食べさせよう」という善意が患者を危険にさらす、数少ない場面です。第3章の beer potomania 症例のような患者では、低 Na とリフィーディングの両方を警戒してください。

高P血症

主に腎不全。ほかに腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解症で急激に上昇します。高 P は Ca と結合して低 Ca を招きます。治療は原疾患への対応、リン吸着薬、重症例は透析です。

§ 6

症例で確認

54歳男性。アルコール依存症で、この 2週間ほとんど食事を摂らず焼酎のみ。全身衰弱で入院。
入院時:K 3.1 / Mg 1.2 mg/dL / P 2.2 mg/dL / Ca 7.4(Alb 2.6)
「栄養状態が悪いので」と、入院当日から高カロリー輸液を通常量で開始した。
入院 2日目、傾眠と呼吸苦が出現。P 0.9 / K 2.6 / Mg 1.0
1入院時に見落とされていたもの
まず 補正 Ca を計算します。
7.4 + 0.8 ×(4 − 2.6)= 7.4 + 1.12 ≒ 8.5 → 正常範囲。低 Ca ではありませんでした
一方で Mg 1.2・P 2.2 と、いずれも低値。K 3.1 も低い。
つまり入院時点で低栄養に伴う P・K・Mg の枯渇が揃っており、リフィーディング症候群のハイリスク(長期絶食+アルコール依存)と判断すべき状態でした。
22日目に何が起きたか
高カロリー輸液(糖質)によりインスリンが分泌され、P・K・Mg が一斉に細胞内へ移動しました。
P 0.9 mg/dL は緊急域です。ATP 枯渇により呼吸筋力が低下 ― 呼吸苦はこれで説明できます。傾眠も低 P と低 Mg の影響です。
さらにビタミン B1 が急速に消費されており、Wernicke 脳症のリスクも高まっています。
これは典型的なリフィーディング症候群で、善意の栄養投与が引き起こした医原性の病態です。
3正しい進め方
現時点の対応:
栄養投与量をいったん減らす(中止ではなく減量して継続)
P を静注で補充(0.9 は緊急域)
Mg を補充 ― これをしないと K も上がらない(第5章)
K を補充(希釈して緩徐に)
ビタミン B1 を投与(糖の前に入れるのが原則)
・呼吸状態を監視(呼吸筋力低下による換気不全に注意)

本来やるべきだったこと:
ビタミン B1 を先行投与してから栄養開始
目標カロリーの 1/4〜1/3 程度から開始し、数日〜1週間かけて漸増
P・K・Mg を毎日測定し、下がる前に補充する
リフィーディング症候群。入院時の Mg・P 低値+長期絶食+アルコール でハイリスクと分かった。補正 Ca は正常で、低 Ca ではなかった点にも注意。対応は栄養の減量・P/K/Mg の補充・ビタミン B1。予防が唯一の対策で、少量から開始し毎日測る
この章の要点
次のステップ
第8章:輸液の考え方維持と補充・製剤の中身・自由水・電解質異常時の選択 第6章:高K血症前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・投与量は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。