Na・K に比べて後回しにされがちな3つですが、いずれも見落とすと治らない・命に関わる場面があります。Ca は補正して初めて意味があり、Mg は低 K・低 Ca が治らない理由になり、P はリフィーディングで急落する ― この3点を押さえてください。
§ 1
カルシウムはまず補正 Ca に直す
血中 Ca の約 40% はアルブミンと結合しており、低アルブミン血症では総 Ca が低く出ます。生理活性を持つのはイオン化 Ca です。
補正 Ca(mg/dL)= 実測 Ca + 0.8 ×(4 − Alb)
※ Alb < 4.0 g/dL のときに適用
例)Ca 7.6、Alb 2.4 の場合
7.6 + 0.8 ×(4 − 2.4)= 7.6 + 1.28 ≒ 8.9 → 正常
入院患者は低アルブミンが多いため、補正しないと低 Ca を大量に作り出してしまいます。逆に、低アルブミンなのに総 Ca が正常なら、補正すると高 Ca です。Ca を見たら必ず Alb とセットで。
厳密に評価したい場面(重症・急性変動・大量輸血後)ではイオン化 Ca を直接測定します。
§ 2
高Ca血症
原因は 2 つで 9 割
| 原因 | 特徴 |
| 悪性腫瘍 | 入院患者で最多。PTHrP 産生(肺扁平上皮癌・腎癌)、骨転移(乳癌・肺癌・骨髄腫)。進行が速く症状が強い |
| 原発性副甲状腺機能亢進症 | 外来・無症候での発見が多い。緩徐、軽度 |
| その他 | サルコイドーシスなど肉芽腫性疾患、ビタミン D 中毒、サイアザイド、リチウム、不動、甲状腺機能亢進症 |
PTH を測れば一発で分かれます。PTH 高値〜不適切正常 → 副甲状腺機能亢進症。PTH 抑制 → 悪性腫瘍など PTH 非依存性。採血のとき一緒に PTH を出しておくと二度手間になりません。
症状(stones, bones, groans, psychiatric overtones)
- 腎(stones):多尿・口渇(腎性尿崩症)・脱水・結石・腎機能障害
- 骨(bones):骨痛・病的骨折
- 腹部(groans):食欲低下・悪心嘔吐・便秘・膵炎
- 神経・精神(overtones):倦怠感・傾眠・錯乱・昏睡
- 心電図:QT 短縮
高Ca血症クリーゼの治療
補正 Ca > 14 mg/dL または症候性
① 生理食塩水の大量輸液最優先・脱水の是正
② ビスホスホネートゾレドロン酸など
③ カルシトニン速効性・効果は数日で減弱
④ 血液透析重症・腎不全例
最重要は①の輸液です。高 Ca は腎性尿崩症を起こして高度の脱水を招き、脱水が Ca 排泄をさらに落とすという悪循環を作ります。まず volume を戻すことが治療の中心です。
ループ利尿薬をルーチンで使うのは推奨されません。かつては Ca 排泄促進のため併用されましたが、脱水を悪化させる害のほうが問題になります。volume を十分戻したうえで、うっ血がある場合に限って使用します。
またビスホスホネートは効果発現に 2〜4 日かかるため、これだけでは急場をしのげません。カルシトニンで時間を稼ぎます。
§ 3
低Ca血症
| 原因 | ポイント |
| 副甲状腺機能低下症 | 甲状腺・頸部術後が代表。術後数日以内に出現 |
| ビタミン D 欠乏 | 高齢者・日光曝露不足・吸収不良 |
| 低 Mg 血症 | PTH の分泌・作用を障害。Mg を直さないと Ca も治らない |
| 急性膵炎 | 脂肪壊死に Ca が捕捉される。重症度指標でもある |
| 大量輸血 | クエン酸が Ca を結合。大量輸血プロトコル中は必ず監視 |
| 腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解 | 高 P により Ca が沈着 |
| 慢性腎臓病 | 活性型ビタミン D 産生低下+高 P |
症状
- 口周囲・四肢のしびれ、テタニー、筋痙攣
- Chvostek 徴候(顔面神経を叩打して顔面攣縮)、Trousseau 徴候(血圧計加圧で助産師手位)
- QT 延長 → torsades de pointes
- 重症:喉頭痙攣・痙攣発作・意識障害
症候性(テタニー・痙攣・QT 延長)ならグルコン酸カルシウムを静注します。ただし血管外漏出で組織壊死を起こすため、確実な静脈路から投与してください。無症候性なら経口 Ca とビタミン D で緩徐に補正します。
低 Mg の合併を必ず確認 ― これを直さないと Ca は戻りません。
§ 4
マグネシウムは他の電解質を動かす鍵
低 K・低 Ca が治らないときは Mg を測る
Mg はルーチン検査に入っていないことが多く、意識して出さないと見逃す
低Mg血症
| 原因 | 症状・影響 |
利尿薬(ループ・サイアザイド) アルコール依存 下痢・吸収不良 PPI の長期使用 シスプラチン・アミノグリコシド・タクロリムス | 難治性の低 K(第5章) 低 Ca(PTH 障害) 振戦・テタニー・痙攣 torsades de pointes・QT 延長 |
torsades de pointes には硫酸 Mg ― これは Mg 値が正常でも投与します。QT 延長を伴う多形性心室頻拍を見たら反射的に思い出してください。
高Mg血症
ほぼ例外なく腎機能低下 + Mg 製剤で起こります。酸化マグネシウム(緩下剤)は高齢者に広く処方されており、腎機能が落ちたときに蓄積します。
- 深部腱反射の消失(最初のサイン。ベッドサイドで確認できる)
- 進行すると呼吸抑制・徐脈・低血圧・心停止
- 治療:Mg 製剤の中止、グルコン酸カルシウム(拮抗)、輸液、重症例は透析
高齢者・腎機能低下・酸化マグネシウム内服・傾眠、という組み合わせを見たら、Mg を測定してください。ありふれた薬なので疑われにくく、それゆえ見逃されます。
§ 5
リンとリフィーディング症候群
低P血症
| 原因 | 備考 |
| リフィーディング症候群 | 後述。最も重要 |
| DKA の治療中 | インスリンで P が細胞内へ移動 |
| アルコール依存・低栄養 | もともとの欠乏 |
| 制酸薬(アルミニウム・Mg 含有) | 腸管での吸収阻害 |
| 呼吸性アルカローシス | 細胞内シフト |
P < 1.0 mg/dL は緊急です。ATP が枯渇し、呼吸筋力低下(人工呼吸器から離脱できない)・溶血・横紋筋融解・意識障害・心不全を起こします。静注での補充を検討してください。
リフィーディング症候群
長期の低栄養状態にある人に急に栄養(とくに糖質)を投与すると、インスリンが分泌され P・K・Mg が一斉に細胞内へ移動します。ビタミン B1 も急速に消費されます。
ハイリスクな患者
- 長期の絶食・飢餓(>5〜7日)
- アルコール依存
- 神経性やせ症・著明なるいそう
- 高齢者の低栄養・悪性腫瘍・術後の長期絶食
予防が唯一の対策です。①栄養は少量から開始し数日かけて増量 ②投与前にビタミン B1 を先行投与 ③P・K・Mg を毎日測定し先回りして補充。
「よく食べさせよう」という善意が患者を危険にさらす、数少ない場面です。第3章の beer potomania 症例のような患者では、低 Na とリフィーディングの両方を警戒してください。
高P血症
主に腎不全。ほかに腫瘍崩壊症候群・横紋筋融解症で急激に上昇します。高 P は Ca と結合して低 Ca を招きます。治療は原疾患への対応、リン吸着薬、重症例は透析です。
§ 6
症例で確認
54歳男性。アルコール依存症で、この 2週間ほとんど食事を摂らず焼酎のみ。全身衰弱で入院。
入院時:K 3.1 / Mg 1.2 mg/dL / P 2.2 mg/dL / Ca 7.4(Alb 2.6)
「栄養状態が悪いので」と、入院当日から高カロリー輸液を通常量で開始した。
入院 2日目、傾眠と呼吸苦が出現。P 0.9 / K 2.6 / Mg 1.0
1入院時に見落とされていたもの
まず 補正 Ca を計算します。
7.4 + 0.8 ×(4 − 2.6)= 7.4 + 1.12 ≒ 8.5 → 正常範囲。低 Ca ではありませんでした。
一方で Mg 1.2・P 2.2 と、いずれも低値。K 3.1 も低い。
つまり入院時点で低栄養に伴う P・K・Mg の枯渇が揃っており、リフィーディング症候群のハイリスク(長期絶食+アルコール依存)と判断すべき状態でした。
22日目に何が起きたか
高カロリー輸液(糖質)によりインスリンが分泌され、P・K・Mg が一斉に細胞内へ移動しました。
P 0.9 mg/dL は緊急域です。ATP 枯渇により呼吸筋力が低下 ― 呼吸苦はこれで説明できます。傾眠も低 P と低 Mg の影響です。
さらにビタミン B1 が急速に消費されており、Wernicke 脳症のリスクも高まっています。
これは典型的なリフィーディング症候群で、善意の栄養投与が引き起こした医原性の病態です。
3正しい進め方
現時点の対応:・
栄養投与量をいったん減らす(中止ではなく減量して継続)
・
P を静注で補充(0.9 は緊急域)
・
Mg を補充 ― これをしないと K も上がらない(第5章)
・
K を補充(希釈して緩徐に)
・
ビタミン B1 を投与(糖の前に入れるのが原則)
・呼吸状態を監視(呼吸筋力低下による換気不全に注意)
本来やるべきだったこと:・
ビタミン B1 を先行投与してから栄養開始
・
目標カロリーの 1/4〜1/3 程度から開始し、数日〜1週間かけて漸増
・
P・K・Mg を毎日測定し、下がる前に補充する
✅ リフィーディング症候群。入院時の Mg・P 低値+長期絶食+アルコール でハイリスクと分かった。補正 Ca は正常で、低 Ca ではなかった点にも注意。対応は栄養の減量・P/K/Mg の補充・ビタミン B1。予防が唯一の対策で、少量から開始し毎日測る。
この章の要点
- 補正 Ca = 実測 Ca + 0.8 ×(4 − Alb)。Ca は必ず Alb とセットで見る。
- 高 Ca の 2 大原因は悪性腫瘍と原発性副甲状腺機能亢進症。PTH を同時に測る。
- 高Ca血症クリーゼはまず生食の大量輸液。ループ利尿薬はルーチンでは使わない。
- 低 Ca では低 Mg の合併を確認。症候性ならグルコン酸カルシウム静注(漏出に注意)。
- Mg は低 K・低 Ca が治らない理由。ルーチンに入っていないので意識して測る。
- 高 Mg は腎機能低下+酸化マグネシウム。深部腱反射の消失が最初のサイン。
- P < 1.0 は緊急(呼吸筋力低下)。リフィーディングは予防がすべて ― 少量から・B1 先行・毎日測定。
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次のステップ
第8章:輸液の考え方維持と補充・製剤の中身・自由水・電解質異常時の選択
第6章:高K血症前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・投与量は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。