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第 6 章 ・ カリウム

高K血症

偽性を除外する/心電図で緊急度を決める/3本柱の初期対応/原因を潰す。

高 K 血症は、電解質異常のなかで最も短時間で人が死ぬものです。一方で、対応は3本柱に整理すれば覚えやすい何を最初に打つかで迷わないようにします。結論を先に言えば、心電図変化があればまずカルシウムです。
§ 1

まず、本当に高 K か(偽性の除外)

治療の前に、検体の問題を除外します。慌てて治療して低 K にしてしまうことを防ぐためです。

偽性高 K の原因ヒント
溶血(採血手技・細い針・強い陰圧)検査室から「溶血あり」のコメント。最も多い
駆血帯を長く巻いた・手を握らせた前腕の筋収縮で K が漏出する
著明な血小板増多・白血球増多血算を確認。血清ではなく血漿で測ると正常
採血後の放置・冷却提出までの時間
判断の分かれ目は臨床像と合うかどうかです。腎機能正常・薬剤なし・症状なしで K 7.0 なら、まず再検(できれば別の部位から、駆血を短く)。一方、腎不全や ACE 阻害薬内服があり心電図変化を伴うなら、再検を待たずに治療を開始します。
§ 2

緊急度を決めるのは数値ではなく心電図

1テント状 T 波(先鋭で幅の狭い高い T 波)
2PR 延長・P 波の平低化 → 消失
3QRS 幅の拡大
4sine wave(QRS と T の融合) → 心停止・VF
心電図変化と K の絶対値は相関しません。K 6.0 で sine wave になる人もいれば、慢性腎不全で K 7.5 でも心電図がほぼ正常な人もいます。緊急度を決めるのは心電図と変化の速さです。「数値が思ったほど高くないから待とう」は危険な判断です。
逆に、心電図が正常でも安心はできません。とくに急速に上昇した高 K(横紋筋融解・腫瘍崩壊・大量輸血)では、心電図変化を経ずに突然不整脈を起こすことがあります。上昇の速さを必ず評価してください。
§ 3

初期対応は3本柱で覚える

目的が違う3つを、同時並行で進めます。順番に「効くのを待つ」のではありません。

① 守る
心筋膜の安定化
K は下げないが、不整脈から守る
② 逃がす
細胞内へシフト
血清 K は下がるが体内総量は不変
③ 捨てる
体外へ除去
これだけが根本的

① 心筋膜の安定化(心電図変化があれば最優先)

カルシウム製剤
グルコン酸カルシウム 8.5%10 mL を 2〜3 分で静注
効果発現1〜3 分
持続30〜60 分
K を下げる作用なし(膜の保護のみ)
効果が短いため、必要なら反復します。またK を下げないので、これ単独で終わってはいけません。②③を必ず続けます。
ジゴキシン中毒が疑われる場合はカルシウム投与に注意が必要です(不整脈を悪化させうる)。専門医に相談してください。

② 細胞内へのシフト

手段用量の目安効果発現/持続
GI 療法
(速効型インスリン+ブドウ糖)
速効型インスリン 10 単位
+ 50% ブドウ糖 50 mL
15〜30 分/4〜6 時間
最も確実
β2 刺激薬吸入サルブタモール ネブライザー
(通常量より多め)
30 分/2〜4 時間
GI と併用で相加的
重炭酸ナトリウム代謝性アシドーシスがある場合に限る。単独での K 低下効果は限定的
GI 療法の後の低血糖に注意。インスリンの作用はブドウ糖より長く続くため、投与後数時間は血糖を繰り返し測定します。腎不全患者ではインスリンの排泄が遅れ、低血糖のリスクがさらに高くなります。

③ 体外への除去(これだけが根本的)

よくある誤りが、陽イオン交換樹脂だけ出して経過観察です。効果が出るまでに数時間かかるため、心電図変化のある高 K では手遅れになります。緊急時の3本柱はカルシウム・GI 療法・透析の手配です。
§ 4

原因を潰して再発を防ぐ

急性期を乗り切ったら、必ず原因に戻ります。高 K は複数の要因が重なって起こることが多いためです。

カテゴリ代表例
腎排泄の低下急性腎障害・慢性腎臓病(最も重要な背景)、副腎不全、4型 RTA
薬剤
当直で必ず確認
ACE 阻害薬・ARBスピロノラクトン等の K 保持性利尿薬、NSAIDs、ST 合剤、ヘパリン、β遮断薬、タクロリムス/シクロスポリン、ジゴキシン中毒
細胞外へのシフトアシドーシス、インスリン欠乏(DKA)、β遮断薬、高浸透圧、ジギタリス中毒
細胞の崩壊横紋筋融解症腫瘍崩壊症候群、広範な熱傷・外傷、消化管出血、大量輸血(古い血液)
K の負荷K 製剤・輸液への添加、K 含有量の多い食品・塩代替品(減塩塩)、輸血
腎機能低下 + ACE 阻害薬 + NSAIDs のような組み合わせは非常によく見ます。個々は軽微でも重なると高 K を生みます。お薬手帳を必ず確認し、中止できるものを止めるところまでが治療です。
§ 5

症例で確認

76歳男性。慢性腎臓病(Cr 2.4 で通院中)、高血圧・心不全で ARB とスピロノラクトンを内服。3日前から腰痛で市販の NSAIDs を連日服用。本日、全身脱力で救急搬送。
血圧 138/80、脈拍 44(徐脈)。
K 7.6 mEq/L / Na 136 / Cr 3.8 / BUN 62
心電図:テント状 T 波、P 波は判別困難、QRS 幅 0.14 秒
1緊急度の判定と最初の一手
心電図でテント状 T 波・P 波消失・QRS 幅拡大= 進行した変化。徐脈も伴っており、sine wave の一歩手前です。
臨床像(CKD+ARB+スピロノラクトン+NSAIDs+Cr 悪化)が完全に合致するため、偽性を疑って再検を待つ場面ではありません
直ちにグルコン酸カルシウムを静注します(8.5% 10 mL を 2〜3 分)。同時にモニター装着、静脈路確保、応援要請。
カルシウムは K を下げませんが、この患者を数分間心停止から守るための一手です。
2続けて何をするか
②シフト:GI 療法(速効型インスリン 10 単位+50% ブドウ糖 50 mL)を開始。β2 刺激薬吸入を併用してもよい。
投与後は血糖を頻回に測定。腎不全でインスリンが残るため低血糖リスクが高い。
③除去:この患者は Cr 3.8 と腎機能が悪化しており、シフトだけでは数時間で K が戻ってきます。この時点で腎臓内科へ連絡し、緊急透析を手配します。
尿量があればループ利尿薬も併用しますが、これに期待しすぎないこと。
陽イオン交換樹脂は今この場の主役ではありません。
3原因への介入
この症例は3つの要因が重なった典型例です。
ARB:アルドステロンを下げ K 排泄を減らす
スピロノラクトン:K 保持性利尿薬そのもの
NSAIDs:腎血流を落とし、Cr 2.4 → 3.8 の腎機能悪化を招いた

ARB・スピロノラクトン・NSAIDs をすべて中止します。とくにNSAIDs が引き金であることを患者・家族に説明し、市販薬も含めて避けるよう指導することが再発防止になります。
心不全治療としての ARB 再開は、腎機能と K が安定してから慎重に検討します。
心電図変化のある K 7.6 → まずグルコン酸カルシウム。続いて GI 療法(低血糖監視)、そして腎機能悪化があるため早期に緊急透析を手配。陽イオン交換樹脂は緊急時の主役ではない。原因は ARB+スピロノラクトン+NSAIDs の重なりで、全て中止し市販薬の指導まで行って治療完結。
この章の要点
次のステップ
第7章:Ca・Mg・P の異常補正Ca・高Ca血症クリーゼ・Mg欠乏の波及・リフィーディング 第5章:低K血症前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・投与量は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。