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第 4 章 ・ ナトリウムと水

高Na血症

ほぼ必ず水が足りない/自由水欠乏の計算/尿崩症の鑑別/補正速度。

高 Na 血症は低 Na ほど頻度は高くありませんが、院内発症のものは予後が悪いことで知られます。理由は単純で、自分で水を飲めない患者にしか起こらないからです。第1章の原則(Na 濃度は水の指標)がそのまま当てはまり、考え方はむしろ低 Na より素直です。
§ 1

なぜ高 Na になるのか

健常者は高 Na になりません。血漿浸透圧が上がれば口渇を感じ、水を飲めば正常化するからです。したがって高 Na 血症を見たら、まず次を考えます。

高 Na 血症 = 水が足りない
自分で水を飲めない・飲ませてもらえない状況がある
院内で発症した高 Na 血症は、しばしばケアの問題です。経管栄養の水分量不足、free water flush の不足、発熱への対応不足など。数字を直すだけでなく、なぜ水が入らなかったのかを必ず確認してください。
§ 2

原因の分類

機序体液量代表例
水の喪失
(最多)
正常〜減少不感蒸泄(発熱・高温環境・頻呼吸)、尿崩症、経管栄養の水分不足
低張液の喪失減少浸透圧利尿(高血糖・マンニトール・高蛋白経管栄養)、下痢、利尿薬、熱傷
Na の過剰
(稀)
増加高張食塩水・重炭酸ナトリウムの大量投与、原発性アルドステロン症、Cushing 症候群、誤った濃厚食塩の摂取
尿量と尿浸透圧で切り分けます。体が正常に反応していれば、高 Na では ADH が出て尿は濃縮(尿浸透圧 > 700〜800)し、尿量は減ります高 Na なのに薄い尿が大量に出ているなら、それは腎臓が水を保持できていない = 尿崩症を疑うサインです。
§ 3

尿崩症の鑑別

尿崩症は、ADH が出ない(中枢性)か、ADH が効かない(腎性)かの2つです。

中枢性尿崩症腎性尿崩症
病態ADH の分泌不足腎が ADH に反応しない
原因下垂体手術・頭部外傷・腫瘍・出血・自己免疫リチウム高 Ca 血症低 K 血症・慢性腎疾患・先天性
デスモプレシンへの反応尿浸透圧が上昇する(>50% 増加)ほとんど反応しない
治療デスモプレシン補充原因の除去(薬剤中止・Ca/K の是正)、サイアザイド、塩分制限
当直で最初にやること:薬歴(リチウム)と、Ca・K の確認です。この3つは可逆性の腎性尿崩症の代表であり、見つければ対処できます。
多尿を見たら、まず糖尿病(浸透圧利尿)を除外してください。血糖と尿糖を確認するだけで済みます。尿崩症より圧倒的に頻度が高い原因です。
§ 4

どれだけの水が足りないか

自由水欠乏量(L) = 体液量 ×(実測 Na ÷ 140 − 1)  体液量 = 体重 × 係数   成人男性 0.6 / 成人女性 0.5   高齢男性 0.5 / 高齢女性 0.45 例)70 kg の成人男性、Na 165  体液量 = 70 × 0.6 = 42 L  欠乏 = 42 ×(165 ÷ 140 − 1)= 42 × 0.179 ≒ 7.5 L
この 7.5 L は不足分だけです。実際の投与量には維持量(1日 1500〜2500 mL 程度)持続する喪失量(発熱・下痢・多尿)を加える必要があります。逆に言えば、欠乏量だけを補っても追いつきません。

補正速度

経過補正速度の上限理由
慢性(≥48時間・不明)10 mEq/L / 24時間
(0.5 mEq/L/時 以内)
脳細胞が高張に順応しているため、急速に下げると脳浮腫を起こす
急性(<48時間で明らか)より速やかでよい
(1 mEq/L/時 程度まで)
まだ順応していないため脳浮腫のリスクが低い
低 Na とちょうど鏡像の関係です。低 Na は上げすぎると ODS、高 Na は下げすぎると脳浮腫。どちらも慢性なら 24 時間で 10 mEq/L 以内と覚えると整理できます。

何で補うか

§ 5

症例で確認

82歳女性、体重 45 kg。認知症で施設入所中、経管栄養を実施。3日前から 38℃台の発熱が続き、傾眠傾向のため搬送。
皮膚ツルゴール低下・粘膜乾燥、血圧 96/58、脈拍 108。尿量は少なく、色は濃い。
Na 168 mEq/L / K 4.2 / BUN 58 / Cr 1.4 / 血糖 108
尿浸透圧 780 mOsm/kg
1機序を特定する
尿浸透圧 780 と高値 → ADH は正常に分泌され、腎臓は必死に水を再吸収している。つまり尿崩症ではありません
血糖 108 なので浸透圧利尿でもない。
腎外性の水喪失(発熱による不感蒸泄の増加)に対して、水分補給が追いついていない状態です。
認知症で自分から水を要求できず、経管栄養の水分量も発熱に見合っていなかったと考えられます。ツルゴール低下・頻脈・低血圧から volume も減少しています。
2自由水欠乏を計算する
高齢女性なので係数は 0.45
体液量 = 45 × 0.45 = 20.25 L
自由水欠乏 = 20.25 ×(168 ÷ 140 − 1)= 20.25 × 0.2 = 約 4.1 L

これに維持量(約 1500 mL/日)と発熱による喪失増加を加えて計画します。
補正速度の上限:慢性(3日経過)なので 24 時間で 10 mEq/L まで。168 → 初日は 158 を下回らないように管理します。
3投与の順序
血圧 96/58・脈拍 108 と循環が不安定です。
まず細胞外液(生食など)で volume を確保します。ここで「高 Na だから生食は Na が多くて不適切では」と迷いがちですが、患者の Na 168 に対して生食(Na 154)はむしろ低張であり、循環を支えつつ Na も下げる方向に働きます。
循環が安定したら、自由水(経管からの白湯・5% ブドウ糖)で計画的に補正へ移行します。経管が使えるなら水を注入するのが最も安全です。
あわせて発熱の原因検索(誤嚥性肺炎・尿路感染など)を進めます。
発熱による水喪失+水分補給不足の高 Na 血症(尿浸透圧 780 で尿崩症は否定)。自由水欠乏は約 4.1 L だが、維持量と持続喪失を加算する。循環不安定なのでまず細胞外液、その後に自由水で 24 時間 10 mEq/L 以内の補正。なぜ水が入らなかったかという背景への介入も治療の一部。
この章の要点
次のステップ
第5章:低K血症4分類・尿Kでの鑑別・心電図・補正の実際とMg 第3章:低Na血症の治療前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・投与量は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。