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第 5 章 ・ カリウム

低K血症

4つの機序/尿Kで腎性か腎外性か/心電図/補正の実際とMgの落とし穴。

体内 K の 98% は細胞内にあり、血清 K が反映しているのは残りの 2% にすぎません。だから低 K 血症を見たときは、本当に減っているのか、細胞内に移動しただけなのかを最初に分ける必要があります。そしてもう一つ ― Mg を測らないと K は上がりません
§ 1

4つの機序に分ける

機序代表例ヒント
① 摂取不足絶食・極端な偏食・アルコール依存単独では起こりにくい。他の機序と重なって顕在化する
② 細胞内へのシフト
体内総量は減っていない
インスリンβ2刺激薬(吸入・点滴)・アルカローシス・リフィーディング・甲状腺中毒性周期性四肢麻痺急激に起こる。治療で K を入れすぎると後で高 K になる
③ 腎からの喪失
最も多い
ループ/サイアザイド系利尿薬・原発性アルドステロン症・Cushing 症候群・RTA(1型・2型)・Mg 欠乏・アムホテリシン B・シスプラチン・Bartter/Gitelman 症候群・嘔吐尿 K が高い。血圧と酸塩基で絞り込む
④ 腎外への喪失下痢・下剤乱用・消化管ドレナージ・大量発汗尿 K は低い(腎は K を保持しようとする)
嘔吐は腎からの喪失に分類されます。胃液に含まれる K は少なく、実際に K を失っているのは腎臓です。嘔吐による代謝性アルカローシスと volume 低下(→アルドステロン↑)が、腎からの K 排泄を強力に促すためです。直感に反するので狙われやすいポイントです。
§ 2

尿 K で腎性・腎外性を分ける

身体所見と病歴で分からないときは、尿の K を見ます。

指標腎外性の喪失
(腎は K を保持)
腎性の喪失
(腎から漏れている)
24時間尿 K< 20〜25 mEq/日> 25〜30 mEq/日
尿 K / 尿 Cr 比
スポット尿で簡便
< 13 mEq/g Cr> 13 mEq/g Cr

腎性なら、血圧と酸塩基でさらに絞る

血圧酸塩基考えるもの
高血圧代謝性アルカローシス原発性アルドステロン症・Cushing 症候群・腎動脈狭窄・甘草(グリチルリチン)
正常代謝性アルカローシス利尿薬・嘔吐・Bartter/Gitelman 症候群
正常代謝性アシドーシスRTA(1型・2型)・DKA の治療中
低 K + 高血圧 + アルカローシスは原発性アルドステロン症を強く疑う組み合わせです。頻度は決して低くなく、治療可能な二次性高血圧なので拾い上げる価値があります。アルドステロン/レニン比を測定します。
低 K + 代謝性アシドーシスという組み合わせは特徴的です。通常アシドーシスでは K が細胞外へ出て高 K に傾くため、それでも低 K なら相当量が失われていることを意味します。RTA や下痢を考えてください(血液ガス判読ノート 第5章)。
§ 3

症状と心電図

心電図の変化(進行順)

1T 波の平低化/ST 低下
2U 波の出現(T 波の後の小さな波)
3QT 延長に見える(実は QU 延長)
4心室性期外収縮 → VT / torsades / VF
ジゴキシン内服中の低 K は特に危険です。低 K はジゴキシンの心筋への結合を増やし、中毒域でなくても不整脈を起こします。ジゴキシン使用中の患者では K を 4.0 以上に保つのが原則です。
§ 4

Mg を測らないと K は上がらない

低 Mg があると、いくら K を投与しても血清 K は上がりません。

低 Mg では腎尿細管の K チャネル(ROMK)の抑制が外れ、K が尿へ漏れ続けるためです。原因も重なりやすく(利尿薬・下痢・アルコール・PPI 長期・シスプラチン)、低 K と低 Mg はしばしば併存します。

補正できない低 K を見たら Mg を測る
低 Mg があれば Mg を先に(または同時に)補正する
「K を入れているのに上がらない」という当直コールの多くは、Mg が原因です。低 K の初回検査に Mg を含めておくと、この遠回りを避けられます(第7章)。
§ 5

補正の実際

まず欠乏量の感覚を持っておきます。

血清 K が 1 mEq/L 低下 ≒ 体内 K の 200〜400 mEq の欠乏  (血清 K 3.0 なら、およそ 200〜400 mEq 不足している)  → 1日で埋めきることはできない。数日かけて補う
投与の原則
第一選択経口(最も安全)
末梢静脈:濃度≤ 40 mEq/L
末梢静脈:速度≤ 10〜20 mEq/時
中心静脈:速度≤ 20 mEq/時(要監視)
1日総量おおむね 100〜200 mEq まで
K の急速静注は心停止を起こします。KCl 製剤は必ず希釈し、ワンショット静注は絶対に行わない。これは医療安全上の最重要ルールのひとつで、実際に死亡事故が繰り返し報告されています。原液のアンプルを見たら「希釈するもの」と反射的に考えてください。
§ 6

症例で確認

68歳女性。高血圧でサイアザイド系利尿薬を内服中。1週間前から下肢の脱力と便秘。
血圧 158/92、浮腫なし。
K 2.4 mEq/L / Na 138 / Cl 94 / Mg 1.3 mg/dL / Cr 0.8
血液ガス:pH 7.49 / PaCO₂ 44 / HCO₃⁻ 33
心電図で T 波平低化と U 波を認める。
研修医が「KCl を 20 mEq 静注します」と言っている。
1まず止めるべき指示
KCl 20 mEq を静注、は絶対に行ってはいけません。K のワンショット静注は心停止に直結します。
必ず希釈(≤40 mEq/L)して、速度 ≤10〜20 mEq/時で投与します。
この患者は K 2.4 で心電図変化もあるため静注の適応はありますが、やり方が命に関わります。10 mEq/時を超えるならモニター装着を。
経口が可能なら、併用してよいでしょう。
2原因を整理する
サイアザイド系利尿薬=腎性 K 喪失の典型(機序③)
・血液ガスは pH 7.49/HCO₃⁻ 33 の代謝性アルカローシス(低 K と利尿薬に合致)
Mg 1.3 mg/dL と低値 ← ここが重要

低 Mg があるため、K だけを補充しても上がりません。利尿薬は Mg も失わせるので、この併存はよくあるパターンです。
なお高血圧+低 K+アルカローシスは原発性アルドステロン症も想起させますが、まずは利尿薬という明確な原因があります。利尿薬中止後も低 K が続くなら精査を検討します。
3方針を立てる
Mg を補正する(硫酸 Mg の静注)。これをしないと K が入らない
K を希釈して緩徐に補充(生食で希釈、≤40 mEq/L、≤10〜20 mEq/時、モニター下)。経口も併用
サイアザイドを中止・変更する。原因を残したままでは再発する
・K 2.4 は体内で 200〜400 mEq 以上の欠乏を意味するので、数日かけて補正する
・降圧が必要なら、K 保持性の薬剤(ACE-I/ARB、スピロノラクトン等)への変更を検討
・利尿薬中止後も低 K・高血圧が続けばアルドステロン/レニン比を測定
サイアザイドによる腎性 K 喪失+低 Mg。①KCl ワンショット静注は禁忌(希釈して緩徐に)②Mg を先に補正しないと K は上がらない ③原因薬剤の見直しまで行って初めて治療が完結する。
この章の要点
次のステップ
第6章:高K血症偽性の除外・心電図・3本柱の初期対応・原因検索 第4章:高Na血症前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・投与量は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。