主訴ごとに心電図をどう使うか/即座に人を呼ぶ所見/異常なし、と言う前に確認すること。
心電図はあくまで検査です。検査より先に患者の状態を把握する――当たり前ですが、モニターの波形に見入って患者を見ていない場面は実際に起こります。
同じ12誘導でも、主訴によって探しに行くものが違います。あてもなく眺めるのではなく、狙いを持って見ます。
| 主訴 | まず探すもの | 次に考えるもの |
|---|---|---|
| 胸痛 | ST 上昇(誘導のまとまり・対側性変化) | ST 低下・陰性 T、後壁・de Winter・Wellens、下壁ならV3R/V4R、大動脈解離・肺塞栓の可能性(第6章) |
| 動悸 | レートと QRS 幅と規則性 | 発作が止まっていればδ波(WPW)・QTc・PVCを探す(第4・7章) |
| 失神 | 徐脈・伝導障害(Mobitz II、完全ブロック) | QTc 延長・Brugada・δ波・異常 Q 波・肥大所見。心原性失神を示す所見はすべて(第5・7章) |
| 意識障害・ショック | 致死性不整脈・高 K パターン | 虚血、電気的交互脈(タンポナーデ)、低体温の J 波(第7章) |
| 呼吸困難 | 洞頻脈、右心負荷所見 | 肺塞栓(S1Q3T3・V1〜V4 陰性 T)、心不全の背景としての虚血・不整脈 |
| 電解質異常が疑われる | T 波の形・QRS 幅・QT | 高K・低K・低Ca(第7章) |
心電図を正常と判断する前に、次の4点を確認してください。ここを飛ばすと、存在しない異常を作り出したり、本物の異常を消したりします。
| 確認 | 見落とすと |
|---|---|
| ① 記録条件 25 mm/秒・10 mm/mV か | 紙送りや感度が違えば、測った間隔も振幅もすべて意味が変わる(第1章) |
| ② 電極の位置 aVR の P は陰性か | 左右の付け間違いで、存在しない異常軸や異常 Q 波が出現する |
| ③ アーチファクト 体動・振戦・筋電図 | 震えによる基線の揺れが心房細動や VT に見えることがある。患者を見れば分かる |
| ④ 症状が続いているか | 胸痛が続いているなら、初回正常でも15〜30分後に再検(第6章) |
たとえば ―― 陰性 T 波が以前からあるなら経過観察でよく、今日はじめて出たなら虚血を強く疑います。左脚ブロックが「5年前からある」なら慌てる必要はなく、「新規」なら緊急性が上がります。同じ波形が、比較の有無で意味を変えます。
当直の最後の関門です。心電図が正常であっても帰せない患者がいます。