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第 2 章 ・ 基礎

系統的判読の型(5点法)

Rate → Rhythm → Axis → Interval → ST-T。順番に測れば、見落としは激減する。

心電図を渡されたとき、多くの人はいきなり ST を見ます。胸痛の患者なら特にそうです。しかしその読み方では、ST 以外の場所にある答えを丸ごと見落とします。血液ガスに5ステップ判読法があるように、心電図にも順番があります。毎回同じ順番で測る――退屈ですが、これが当直で身を守る唯一の方法です。
§ 1

5点法という型

STEP 1
Rate
心拍数
速いか遅いか。300 ÷ 大マス数、または6秒法
STEP 2
Rhythm
調律
P はあるか/P と QRS は 1:1 か/RR は整か
STEP 3
Axis
電気軸
I と aVF の向きで4象限に分ける
STEP 4
Interval
間隔・幅
PR・QRS・QTc の3つを必ず数値で
STEP 5
ST-T
ST と T 波
上昇・低下・陰転を誘導のまとまりで見る
ST を見るのは 最後先に Rate・Rhythm・Interval を潰しておくと、ST の異常が「本物か」を判断する材料が揃っている。順番を守ることが精度になる。
§ 2

STEP 1:心拍数を求める

状況に応じて2つの方法を使い分けます。

■ RR が整のとき(300の法則) 心拍数 = 300 ÷ RR間隔の大マス数 大マス 1個 → 300 / 2個 → 150 / 3個 → 100 4個 → 75 / 5個 → 60 / 6個 → 50 ■ RR が不整のとき(6秒法) 6秒間(大マス30個)の QRS の数 × 10
「300・150・100・75・60・50」は暗記する価値があります。大マスを数えるだけで即座に心拍数が出ます。特に 大マス2個=150/分 は、第4章で心房粗動を見抜く重要な手がかりになります。
心房細動のように RR が不整のときに 300 の法則を使ってはいけません。たまたま測った1拍だけの値になり、実際の平均心拍数と大きくずれます。不整なら必ず6秒法(または10秒全体の QRS 数×6)で数えてください。
心拍数呼び方
< 50 /分徐脈 → 第5章
50 〜 100 /分正常
> 100 /分頻脈 → 第4章
§ 3

STEP 2:調律を読む

調律の判定は、3つの質問に順番に答えるだけです。

質問見るところ意味
① P 波はあるかII 誘導と V1 が見やすいない → 心房細動・接合部調律・心室調律を考える
② P と QRS は 1:1 かP の数と QRS の数を数えるP が多い → 房室ブロック・心房粗動
QRS が多い → 心室性・房室解離
③ RR は整かキャリパー・紙の端でも可不整 → 心房細動・期外収縮・II 度ブロック

洞調律の定義

正常と言い切るには、次の3条件をすべて満たす必要があります。

II 誘導で P が陰性なら洞調律ではありません。心房の下部や房室接合部から興奮が始まっている(=異所性)ことを意味します。P があるから洞調律ではなく、II で陽性の P があるから洞調律です。
§ 4

STEP 3:電気軸

第1章のとおり、I 誘導と aVF 誘導の QRS の向きで判定します。両方上向きなら正常軸。それだけです。

軸偏位そのものは緊急所見ではありませんが、他の所見と組み合わせると意味を持ちます。たとえば頻脈+右軸偏位+V1〜V4 の陰性 T なら肺塞栓が現実味を帯びます(第7章)。

§ 5

STEP 4:3つの間隔を数値にする

ここが5点法の中核です。目分量でだいたい正常と言わず、必ず小マスを数えて秒に直します。

間隔正常延長したら
PR0.12 〜 0.20 秒> 0.20 秒 → 房室ブロック(第5章)
< 0.12 秒+δ波 → WPW(第7章)
QRS< 0.12 秒≥ 0.12 秒 → 脚ブロック・心室調律・高K・薬剤中毒
QTc男 ≤ 0.44 秒
女 ≤ 0.46 秒
> 0.50 秒 → torsades de pointes の危険(第7章)

QTc は心拍数で補正する

QT 間隔は心拍数によって伸び縮みします(速いほど短い)。そのままでは比較できないため、心拍数 60/分だったらどうなるかに換算します。これが QTc(補正 QT)です。

Bazett の式 QTc = QT ÷ √RR間隔(秒) 例)QT = 0.44 秒、RR = 1.0 秒(心拍数 60) QTc = 0.44 ÷ √1.0 = 0.44 秒 例)QT = 0.40 秒、RR = 0.6 秒(心拍数 100) QTc = 0.40 ÷ √0.6 = 0.40 ÷ 0.775 = 0.52 秒 → 延長!
2つ目の例が示すこと:QT 0.40 秒という数字だけ見れば正常に見えますが、頻脈のもとでは異常延長です。頻脈の患者で QT を評価するときは、補正を省いてはいけません。
Bazett の式は極端な頻脈・徐脈で誤差が大きくなります(頻脈で過大評価、徐脈で過小評価)。目安として使い、境界例では循環器へ相談してください。実務ではQT が RR 間隔の半分を超えていたら怪しいという粗い目視法も有用です。
§ 6

STEP 5:ST と T 波

最後に ST-T を見ます。1誘導だけの変化は、原則として採用しません。

1誘導だけの ST 変化は、ほとんどがノイズか基線の揺れまとまりで出ているかを必ず確認する。詳しくは第6章。
そして最も価値のある一手:前回の心電図を探すこと。異常か正常かより変化したかどうかのほうが、はるかに強い情報です。電子カルテで過去の心電図を1枚引き出すだけで、判断が180度変わることがあります。当直で ST 変化を見たら、必ず過去の記録を探してください。
§ 7

症例で確認

34歳女性。数日前からの動悸と倦怠感で受診。既往に橋本病。
研修医は「胸痛はないし、ST も上がっていないので大丈夫でしょう」と言っている。
心電図:RR 間隔は大マス 3 個で一定。P 波は II で陽性、各 QRS の前にある。PR は小マス 4 個QRS 幅は小マス 2 個。I・aVF ともに QRS は上向き。ST は基線上。QT は小マス 11 個。血液検査は提出済みで結果待ち。
1STEP 1〜3 を片づける
Rate:300 ÷ 3 = 100 回/分。頻脈の境界。
Rhythm:II で P 陽性、各 QRS の前に P、PR 一定 → 洞調律(洞頻脈といってよい)。RR も整。
Axis:I・aVF ともに上向き → 正常軸
ここまでは「洞頻脈」以外に異常はありません。研修医の印象どおりに見えます。
2STEP 4 で数値にする
PR:4 × 0.04 = 0.16 秒 → 正常。
QRS:2 × 0.04 = 0.08 秒 → 正常。
QT:11 × 0.04 = 0.44 秒。……ここで、正常上限だから大丈夫と止まってはいけません。心拍数 100 で補正します。
RR = 60 ÷ 100 = 0.6 秒 QTc = 0.44 ÷ √0.6 = 0.44 ÷ 0.775 = 0.57 秒
QTc 0.57 秒は著明な延長(0.50 秒超は危険域)。torsades de pointes のリスクがあります。
3原因を考えて動く
QT 延長の原因は大きく3つ ―― 電解質異常・薬剤・先天性
この患者は下痢や嘔吐の有無、利尿薬、そして甲状腺疾患に伴う電解質の乱れを確認すべきです。提出済みの採血で K・Mg・Ca を最優先で確認します(低 K・低 Mg・低 Ca はいずれも QT を延ばします)。
あわせて内服薬の全リストを洗い出します。抗不整脈薬・抗精神病薬・一部の抗菌薬(マクロライド・キノロン)・制吐薬など、QT を延ばす薬は日常的に使われています。
対応としては、モニター装着のうえ、原因薬の中止と電解質補正。低 Mg があれば硫酸マグネシウムの補充が torsades の予防になります。
洞頻脈+著明な QTc 延長(0.57 秒)。ST だけ見ていたら完全に見逃していた。QT は測って補正するまででワンセット――手順を最後まで踏むことにしか、この所見を拾う方法はない。
この章の要点
次のステップ
第3章:調律を読む洞調律の変動・PAC と PVC の見分け方 第1章:心電図の基礎前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。