トップ講義一覧第3章
第 3 章 ・ 不整脈

調律を読む(洞調律と期外収縮)

洞結節の変動/PAC と PVC の見分け方/どこまでが放置してよい不整脈か。

「不整脈があります」と報告されたとき、最初にすべきなのはそれが命に関わるものか、放っておいてよいものかの切り分けです。この章で扱う洞調律の変動と期外収縮は、その大半が治療不要です。しかしごく一部に、見逃せないものが混じっています。その一部をどう拾うかを扱います。
§ 1

洞結節の変動(洞頻脈・洞徐脈・洞不整脈)

洞結節は自律神経の影響を強く受けるため、レートは常に変動しています。これ自体は不整脈というより体の状態を映す鏡です。

所見定義考えること
洞頻脈洞調律で > 100/分発熱・脱水・出血・疼痛・不安・貧血・低酸素・甲状腺機能亢進・肺塞栓・薬剤
洞徐脈洞調律で < 50/分スポーツ心臓・睡眠・迷走神経刺激・β遮断薬/Ca拮抗薬/ジギタリス・甲状腺機能低下・頭蓋内圧亢進・下壁梗塞
呼吸性洞不整脈吸気で速く、呼気で遅くなる若年者では正常所見。治療不要
洞頻脈は診断ではなく結果洞頻脈そのものを薬で抑えにいくのではなく、なぜ速いのかを探す。原因を治せばレートは戻る。
「洞頻脈だから様子を見ましょう」は危険な言葉です。敗血症・出血性ショック・肺塞栓の初期は、しばしば洞頻脈だけが唯一の異常所見です。血圧が保たれていても、頻脈は代償が働いている最中というサインでありえます。
§ 2

期外収縮は予定より早く出た1拍

期外収縮とは、洞結節の予定より早いタイミングで、別の場所から出た興奮のことです。どこから出たかによって PAC と PVC に分かれ、心電図での見え方が明確に違います。

P P PVC(幅広・P なし) 休止期 洞調律 洞調律
PAC(心房期外収縮)PVC(心室期外収縮)
先行する P 波ある(ただし形が洞調律と違う)ない
QRS 幅狭い(洞調律と同じ形)
※変行伝導すると幅広になることがある
幅広(≥ 0.12 秒)で形も異様
T 波の向きQRS と同じQRS と逆向き(discordant)
その後の休止期不完全代償性
洞結節がリセットされる
完全代償性
洞結節は影響を受けず、次の洞P は予定どおり
臨床的意義健常者にも多い。頻発すれば心房細動の予兆のことも基礎心疾患の有無で意味が変わる(§3)
見分けの最短ルート:幅広の1拍を見つけたら、その直前に P 波があるかどうかを見る。あれば PAC(+変行伝導)、なければ PVC。ここだけで大半は決まります。
§ 3

PVC はどこまで放置してよいか

PVC は健常者の心電図にも普通に出ます。健診で指摘されて不安になって受診する人も多い所見です。判断を分けるのは、波形そのものではなく土台となる心臓です。

状況意味対応
基礎心疾患なし・単形性・少数予後に影響しないことがほとんど説明と経過観察。カフェイン・アルコール・睡眠不足・ストレスの是正
基礎心疾患あり
心筋梗塞後・心不全・心筋症
致死性不整脈のリスクが上がる循環器へ。心エコー・ホルター・必要に応じ精査
PVC が非常に頻発
総心拍の 10〜20% 超
頻発 PVC 誘発性心筋症のリスクホルターで負荷率を評価、循環器へ

危険を示唆するパターン

急性期に PVC を見たら、まず可逆的な原因を潰してください。低 K・低 Mg・低酸素・虚血・アシドーシス・ジギタリスなどの薬剤。これらは血液検査と病歴で拾えます。抗不整脈薬を考える前に、この確認が先です。
§ 4

R on T は落ちてはいけないタイミング

T 波の頂点付近は、心筋の一部がまだ回復しきっていない受攻期(vulnerable period)です。この時期に強い刺激が入ると、心筋の場所ごとに回復のばらつきがあるため、興奮が旋回して心室頻拍・心室細動に発展することがあります。

PVC が前の拍の T 波に重なって出現する現象が R on T です。

R on T は、様子を見る所見ではありません。直ちにモニターを装着し、除細動器を近くに置き、上級医を呼びます。同時に K・Mg・虚血・QT 延長を確認してください。とくにQT が延長している状況での R on T は torsades de pointes の直前所見でありえます(第7章)。
同じ理屈から、電気的除細動(カルディオバージョン)では R 波に同期させます。同期なしで通電すると、偶然 T 波に当たって心室細動を誘発しうるからです。心房細動や PSVT を電気で戻すときに「同期(synchronized)」が必須なのはこのためです(第4章)。
§ 5

症例で確認

45歳男性。健診の心電図で「心室期外収縮」と指摘され、心配になって受診。自覚症状は「時々ドキッとする」程度で、失神・前失神・胸痛はない。運動習慣あり、週2回ランニング。既往なし、内服なし。喫煙なし、飲酒は機会飲酒。
家族歴を聞くと、父親が48歳で突然死している
心電図:洞調律 62/分。PVC が単発で 2 個。2 個の PVC は形が異なる。QTc 0.43 秒。ST-T に異常なし。
1まず良性らしさを数える
良性を支持する材料は確かにあります。
・失神・前失神がない
・PVC は 2 個と少数
・QTc 0.43 秒で正常
・ST-T 正常、既往・内服なし

ここで「運動もできているし大丈夫でしょう」と終わらせたくなります。しかし、この症例には見過ごせない材料が2つあります。
2引っかかる2点
① PVC が多形性である。2 個の形が違うということは、起源が複数あることを意味します。単形性の PVC より、心筋に何らかの基質(瘢痕・線維化・炎症)がある可能性が上がります。
② 若年(48歳)での家族の突然死。これは遺伝性不整脈・心筋症を疑う極めて重要な病歴です。肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、Brugada 症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍などが鑑別に挙がります。

無症状の PVC という表面だけを見ると良性ですが、この2点は文脈をまるごと変えます
3では何をするか
経過観察ではなく精査に進みます。
心エコー:心筋症(肥大型・拡張型・ARVC)の有無、壁運動、左室駆出率
ホルター心電図:PVC の総数と負荷率、連発(NSVT)の有無、日内変動
運動負荷試験:運動で PVC が増えるか(増えるなら要注意)
採血:K・Mg・甲状腺機能
・必要に応じ心臓 MRI(線維化の評価)と家族歴の詳細聴取・家族のスクリーニング
循環器内科へ紹介

運動習慣がある点も重要で、精査が終わるまでは高強度の運動を控えるよう指導します。
多形性 PVC + 若年家族の突然死という組み合わせは、無症状でも精査の適応。PVC の数ではなく、形・基礎心疾患・家族歴・症状で危険度は決まる。心電図の紙の上だけでは判断が完結しないことを示す一例。
この章の要点
次のステップ
第4章:頻脈性不整脈QRS 幅で分ける頻拍の鑑別と初期対応 第2章:系統的判読の型前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。記載の数値・基準は一般的な目安であり、実際の診療は各施設のプロトコルと患者の病態に従ってください。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。