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第 6 章 ・ 混合性

混合性・三重酸塩基異常

複数の原発性変化が同時に起きるとき、どうやって見抜くか。代償式とΔ比が頼りになります。

血液ガスで「混合性(mixed)」という言葉は、2つ以上の独立した原発性酸塩基異常が同時に存在することを指します。代償ではなく、別々の病態プロセスが重なっているため、代償式から外れたり、Δ比が異常値を示したりします。
§ 1

「混合性」を疑うサイン

以下のいずれかがあれば混合性を疑います。

PaCO₂ と HCO₃⁻ が同方向に動いている(両方↑または両方↓)場合は、代償だけでは説明できず、必ず混合性を考えます。代償では pH を戻す向きの変化しか起きないからです。
§ 2

よくある混合パターン

呼吸性アシドーシス + 代謝性アルカローシスpH ≈ 正常
PaCO₂↑ かつ HCO₃⁻↑(両方↑)。COPD + 利尿薬使用(Cl⁻ 喪失→ HCO₃⁻↑)が典型。pH は一見正常でも両者の問題は残っている。
呼吸性アルカローシス + 代謝性アシドーシスpH ≈ 正常〜低
PaCO₂↓ かつ HCO₃⁻↓(両方↓)。敗血症(呼吸性アルカローシス)+ 乳酸アシドーシス(代謝性アシドーシス)が典型。
代謝性アシドーシス + 代謝性アルカローシスpH 様々
AG と HCO₃⁻ の変化が Δ比 > 2 で示される。DKA + 嘔吐、腎不全 + 嘔吐などが典型。
三重異常(AG開大型+AG非開大型+代謝性アルカローシス)pH 様々
まれだが複雑な病態(敗血症+嘔吐+腎不全など)で起きる。5ステップを踏まないと見落とす。
§ 3

混合性の読み方フロー

混合性が疑われるときの実践的な手順です。

混合性の判断チェック ───────────────────────── 1. PaCO₂ と HCO₃⁻ が同方向↑↑ または ↓↓ → 混合性確定 2. 代償式から実測値が外れる → 混合性を疑う 3. Δ比 < 1 → AG開大型 + AG非開大型の混合 Δ比 > 2 → AG開大型 + 代謝性アルカローシスの混合
§ 4

複雑症例で通す

68歳男性。COPD 既往あり。3日間の発熱・咳・喀痰増加。前医でフロセミド投与中。
pH 7.44 / PaCO₂ 56 / HCO₃⁻ 36 / Na 140 / Cl 88 / Lac 1.2
1Step1:pH と方向を確認
pH = 7.44 → 正常域の上端(わずかにアルカリ寄り)。PaCO₂ = 56↑、HCO₃⁻ = 36↑。
両方↑ = 代償だけでは説明できない。混合性が確定。
2Step2:それぞれの原発性変化を確認
PaCO₂ 56↑ → 呼吸性アシドーシス(COPD急性増悪)。
HCO₃⁻ 36↑ → COPD慢性代償で期待される値は?
慢性代償:ΔHCO₃⁻ = ΔPaCO₂ × 0.35 = (56-40) × 0.35 ≈ 5.6 → 予測 HCO₃⁻ ≈ 29.6 ± 3。
実測 36 は予測上限 32.6 を大きく超える → 代謝性アルカローシスも合併
3Step3:AG
AG = 140 − (88 + 36) = 16(やや上昇)。乳酸 1.2(正常)。軽度 AG 上昇は感染に伴う代謝変化かもしれないが、Δ比 = (16-12)/(24-36) = 4/(-12) → 分母が負(HCO₃⁻ > 24)なので Δ比 は適用外。代謝性アルカローシスが共存しているため。
4まとめ・臨床的意味
✅ 慢性呼吸性アシドーシス(COPD) + 代謝性アルカローシス(フロセミドによる Cl⁻ 喪失)の混合。
フロセミドで Cl⁻ が失われ HCO₃⁻ が上昇(代謝性アルカローシス)し、2つのプロセスが拮抗して pH が一見「正常」になっている。
この章の要点
鑑別診断一覧5つの酸塩基障害の原因疾患を網羅した参照ページ
次のステップ
第7章:酸素化の評価A-aDO₂ と P/F 比で肺を評価する 第5章:代謝性アシドーシスの鑑別前の章に戻る
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