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第 5 章 ・ 鑑別

代謝性アシドーシスの鑑別

AG 開大型(AG開大型の原因疾患)と AG 非開大型の原因を整理。「酸の蓄積」か「塩基の喪失」かで鑑別の方向が決まります。

代謝性アシドーシスと判断し、AG でタイプを分けた後は「なぜそうなったのか」を考えます。AG 開大型なら酸が蓄積する病態、AG 非開大型なら HCO₃⁻ が失われる病態が原因です。それぞれのリストを頭に入れておくと、当直での鑑別が速くなります。
§ 1

AG 開大型の原因疾患

AG 開大型代謝性アシドーシスの主な原因を分類します。日本の臨床で頻度が高いのは乳酸アシドーシス(敗血症・ビグアナイド薬)ケトアシドーシス(DKA・アルコール性)腎不全の3つです。

AG 開大型 ― 主な原因疾患
GGlycols(エチレングリコール・プロピレングリコール)
OOxoproline(アセトアミノフェン慢性過剰・ピログルタミン酸)
LL-乳酸(敗血症・ショック・低酸素・ビグアナイド薬)★頻度高
DD-乳酸(腸管バイパス後・短腸症候群)
MMethanol(メタノール中毒)
AAspirin / Salicylates(アスピリン中毒・サリチル酸)
RRenal failure(腎不全・尿毒症)★頻度高
KKetoacidosis(DKA・飢餓性・アルコール性)★頻度高
乳酸アシドーシスは見逃しが致命的になりやすい。AG 開大型を見たら乳酸値を必ず確認してください。2 mmol/L 以上で乳酸アシドーシスを考慮します。
§ 2

AG 非開大型の原因

AG 非開大型(高クロール性)代謝性アシドーシスの原因は大きく2つに分かれます。消化管から HCO₃⁻ が失われるものと、腎臓が HCO₃⁻ を保てないものです。

消化管性(腸管からの喪失)
下痢(最多。HCO₃⁻ 豊富な腸液が失われる)
回腸瘻・膵液瘻・腸管瘻
尿管S状結腸吻合
腎性(腎尿細管性アシドーシス)
11型(遠位型)RTA:H⁺ 排泄障害。尿 pH > 5.5
22型(近位型)RTA:HCO₃⁻ 再吸収障害。ファンコニー症候群
44型RTA:低アルドステロン症。CKD・DM で多い
AG 非開大型を見たら「消化管 vs 腎性」を分けるために尿中アニオンギャップ(尿 AG)を使います(次節)。
§ 3

尿中 AG で消化管性 vs 腎性を鑑別

尿中の NH₄⁺(アンモニウムイオン)は直接測定が難しいですが、尿中 AG を計算することで間接的に評価できます。

尿中 AG = 尿 Na⁺ + 尿 K⁺ − 尿 Cl⁻
尿 AG解釈
陰性(Cl⁻ > Na⁺ + K⁺)腎臓は NH₄⁺ を適切に排泄できている → 消化管性(下痢など)
陽性または0(Cl⁻ ≤ Na⁺ + K⁺)NH₄⁺ 排泄が障害されている → 腎性(RTA)
尿 AG が陰性(マイナス)であれば腎臓は正常に酸を排泄しており、消化管からの HCO₃⁻ 喪失と考えられます。陽性ならば腎臓側の問題(RTA や低アルドステロン症)を疑います。
§ 4

AG開大型でまず確認すべきこと

AG が上昇していたら、以下の順で緊急度の高いものを除外します。

計算浸透圧 = 2 × Na⁺ + BUN/2.8 + Glu/18(単位: mg/dL) オスモールギャップ = 実測 − 計算浸透圧 > 10 mOsm/kg で中毒を疑う
§ 5

症例で確認

22歳女性。1型糖尿病。インスリンポンプの故障後から嘔吐・腹痛。
pH 7.20 / PaCO₂ 20 / HCO₃⁻ 7 / Na 136 / Cl 98 / Glu 480 mg/dL / Lac 1.4
1AG・補正・Winters式
AG = 136 − (98 + 7) = 31(高AG)。Alb 正常と仮定。
Winters式:予測 PaCO₂ = 1.5 × 7 + 8 = 18.5 ± 2 → 16.5〜20.5。実測 20 → 範囲内、代償は適切。
2Δ比 とタイプ
Δ比 = (31 − 12) ÷ (24 − 7) = 19 ÷ 17 ≈ 1.1(1〜2)。純粋な AG 開大型代謝性アシドーシス。
3AG開大型の原因疾患 で原因を特定
血糖 480 mg/dL + 1型DM + ケトン産生 → DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)。乳酸 1.4(正常)、腎機能問題なしとすれば原因はK(Ketoacidosis)一択。
4まとめ
✅ AG開大型代謝性アシドーシス = DKA。インスリン補充・補液が急務。
この章の要点
鑑別診断一覧5つの酸塩基障害の原因疾患を網羅した参照ページ
次のステップ
第6章:混合性・三重酸塩基異常複数の異常が重なるケースを読む 第4章:アニオンギャップとΔ比前の章に戻る
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