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第 4 章 ・ AG

アニオンギャップとΔ比

代謝性アシドーシスの「タイプ」を分け、Δ比で隠れた異常を探す。判読の精度を一段上げる章です。

代謝性アシドーシスと判断したら、次の問いは「なぜ HCO₃⁻ が下がったのか」。酸が増えた(AG 開大型)のか、塩基が失われた(AG 非開大型)のかで、原因も治療も全く異なります。さらに Δ比を使うと、AG 上昇の陰に潜む「もう一つの代謝性異常」も見えてきます。
§ 1

アニオンギャップとは何か

血液中の陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)は電気的に中性を保っています。測定される主要イオンを使って書くと:

Na⁺ = Cl⁻ + HCO₃⁻ + 未測定陰イオン(AG) AG = Na⁺ − (Cl⁻ + HCO₃⁻)

「未測定陰イオン」とは、アルブミン・リン酸・有機酸など、通常検査に含まれていない陰イオンの総称です。正常では主にアルブミンが AG の大部分を占めます。

正常値:8〜12 mEq/L(アルブミン正常値 4 g/dL のとき)。>12 で AG 開大型と判断します。
§ 2

AG から読む2つのタイプ(図解)

代謝性アシドーシスでは HCO₃⁻ が低下しますが、AG が上昇するかどうかで原因が異なります。

AG 12
HCO₃⁻ 24
Cl⁻ 104
正常
AG 24 ↑↑
HCO₃⁻ 12 ↓
Cl⁻ 104(不変)
AG 開大型
酸の蓄積
(乳酸・ケトン・尿毒素)
AG 12(不変)
HCO₃⁻ 12 ↓
Cl⁻ 116 ↑↑
AG 非開大型
HCO₃⁻ の喪失
(下痢・RTA)

AG 開大型では「酸が蓄積して HCO₃⁻ が消費された」ため、AG↑と HCO₃⁻↓がセットで起きます。AG 非開大型では「外に HCO₃⁻ が出ていった」ので、電気的中性を保つために Cl⁻ が増えます(高クロール性アシドーシス)。

§ 3

アルブミン補正 AG

AG の主成分はアルブミンです。低アルブミン血症(入院患者に多い)では、AG の正常値自体が下がります。補正せずに使うと「AG 正常」と見誤ることがあります。

補正 AG = 実測 AG + 2.5 × (4 − 実測アルブミン[g/dL])

例:アルブミン 2 g/dL の患者で AG = 14 の場合
補正 AG = 14 + 2.5 × (4 − 2) = 14 + 5 = 19(実は AG 開大型)

ICU・悪性腫瘍・肝硬変など低アルブミンが多い患者では、必ず補正 AG を計算してください。見かけ上「AG 正常」でも実は AG 開大型であることがあります。
§ 4

Δ比で隠れた異常を探す

AG 開大型の代謝性アシドーシスを確認したら、必ず Δ比 を計算します。AG が上がった分だけ HCO₃⁻ が期待通り下がっているかを見て、AG 上昇の陰に潜む「もう一つの代謝性異常」を探すのが Δ比です。

Δ比 = (AG − 12) ÷ (24 − HCO₃⁻)
Δ比解釈
< 1AG 上昇の割に HCO₃⁻ が下がりすぎ → AG 開大型 + AG非開大型の混合アシドーシス
1 〜 2AG の上昇と HCO₃⁻ の低下が対応 → 純粋な AG 開大型代謝性アシドーシス
> 2AG 上昇の割に HCO₃⁻ があまり下がっていない → AG 開大型 + 代謝性アルカローシスの混合
AG 開大型の代謝性アシドーシスを確認したら必ず Δ比 を計算します(AG が正常の場合は適用しません)。分母 (24 − HCO₃⁻) が 0 または負になるとき=AG が開大しているのに HCO₃⁻ が下がっていないときは、HCO₃⁻ を押し上げる代謝性アルカローシスの合併を示します。
§ 5

症例で通して確認

48歳男性。大量飲酒後から嘔吐が続き、意識レベル低下で搬入。
pH 7.22 / PaCO₂ 24 / HCO₃⁻ 9 / Na 138 / Cl 98 / Alb 3.2 g/dL
1Step 1–2:pH・原発性変化
pH 7.22 → アシデミア。HCO₃⁻ 9↓ → 代謝性アシドーシスが原発性。
2Step 3:代償確認(Winters式)
予測PaCO₂ = 1.5 × 9 + 8 = 21.5 ± 2 → 19.5〜23.5。実測 24 → やや高め(予測上限を外れる)。呼吸性アシドーシスの合併を疑う。
3Step 4:AG と補正 AG
実測 AG = 138 − (98 + 9) = 31。
補正 AG = 31 + 2.5 × (4 − 3.2) = 31 + 2 = 33(著明上昇)
乳酸アシドーシス・アルコール性ケトアシドーシスが疑われる。
4Δ比 の計算
Δ比 = (33 − 12) ÷ (24 − 9) = 21 ÷ 15 = 1.4 → 1〜2 の範囲。AG 上昇分が HCO₃⁻ 低下で釣り合っており、純粋な AG 開大型アシドーシスと考えられる。
5まとめ
✅ AG 開大型代謝性アシドーシス(アルコール性ケトアシドーシス + 乳酸アシドーシス疑い)。
代償式がわずかに外れているため、呼吸性アシドーシスの軽度合併に注意。Alb 低下を考慮した補正 AG を使った点もポイント。
この章の要点
次のステップ
第5章:代謝性アシドーシスの鑑別AG開大型の原因疾患 とAG非開大型の原因を整理 第3章:代償の評価前の章に戻る
免責事項:本コンテンツは医療従事者の学習・参考を目的としたものであり、医療機器ではありません。診断・治療の最終判断は必ず担当医師が行ってください。