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第 3 章 ・ 代償

代償の評価

代償式を使って「代償が適切かどうか」を判断する。これができると混合性酸塩基異常を見抜けるようになります。

原発性変化が起きると、体はそれを打ち消そうとします。この反応を代償(compensation)と呼びます。代償は予測可能な範囲に収まります。それが「代償式」です。実測値が予測から外れていたら、もう1つの原発性異常が隠れているサインです。
§ 1

代償の2つの特徴

「代償が完全に pH を正常化する」ことはありません。もし pH が完全に正常化していれば、逆方向の独立した原発性異常があると考えるべきです。
§ 2

急性 vs 慢性(呼吸性の代償)

呼吸性の変化では、腎臓の代償は時間がかかります(完成まで 3〜5 日)。そのため急性と慢性で代償量が大きく異なります。

患者が「急性増悪した COPD」なのか、「急性発症した喘息」なのかで、期待する HCO₃⁻ の値が変わります。臨床背景と合わせて急性/慢性を判断してください。
§ 3

代償式一覧

各酸塩基障害の代償公式です。「予測値」を計算して実測値と照合します。

代謝性アシドーシス
呼吸性代償
(PaCO₂↓)
予測PaCO₂
= 1.5 × HCO₃⁻ + 8 ± 2
Winters式。PaCO₂は10〜15 mmHg未満にはならない
代謝性アルカローシス
呼吸性代償
(PaCO₂↑)
予測PaCO₂
= 0.7 × HCO₃⁻ + 21 ± 2
PaCO₂は通常55〜60 mmHgを超えない
呼吸性アシドーシス 急性
代謝性代償
(HCO₃⁻↑)
ΔHCO₃⁻
= ΔPaCO₂ × 0.1 ± 2
PaCO₂ 10 mmHg上昇につき HCO₃⁻ 約1↑
呼吸性アシドーシス 慢性
代謝性代償
(HCO₃⁻↑↑)
ΔHCO₃⁻
= ΔPaCO₂ × 0.35 ± 3
PaCO₂ 10 mmHg上昇につき HCO₃⁻ 約3.5↑
呼吸性アルカローシス 急性
代謝性代償
(HCO₃⁻↓)
ΔHCO₃⁻
= ΔPaCO₂ × 0.2 ± 2.5
PaCO₂ 10 mmHg低下につき HCO₃⁻ 約2↓
呼吸性アルカローシス 慢性
代謝性代償
(HCO₃⁻↓↓)
ΔHCO₃⁻
= ΔPaCO₂ × 0.5 ± 2.5
HCO₃⁻は通常15 mEq/L未満にはならない
暗記のコツ:代謝性アシドーシスのWinters式「1.5 × HCO₃⁻ + 8」と、呼吸性慢性「×0.35」だけ確実に覚えれば臨床の9割はカバーできます。あとは大まかな方向と限界値を知っておけばOK。
§ 4

代償の評価:適切か?外れているか?

予測値と実測値を比較して3つのパターンに分類します。

パターン意味
予測範囲内単純性酸塩基異常。1つの原発性変化だけ
予測より少ない(代償不十分)pH をさらに悪化させる方向の第2の原発性変化が隠れている
予測より多い(代償過剰)pH をさらに改善させる方向の第2の原発性変化が隠れている
「代償が予測から外れている=混合性」です。例えば代謝性アシドーシスで PaCO₂ が予測より高ければ、呼吸性アシドーシスも合併しています。
§ 5

症例で確認

62歳男性。慢性腎不全(eGFR 18)。倦怠感で受診。
pH 7.32 / PaCO₂ 28 / HCO₃⁻ 14 / Na 138 / Cl 106
1Step 1–2:pH と原発性変化
pH = 7.32 → アシデミア。HCO₃⁻↓(14)、pH と同方向 → 代謝性アシドーシスが原発性。PaCO₂ = 28↓ → 呼吸性代償が働いている。
2Step 3:代償を確認(Winters式)
Winters式:予測 PaCO₂ = 1.5 × 14 + 8 = 29 ± 2 → 27〜31 mmHg。
実測 PaCO₂ = 28 → 予測範囲内。代償は適切
3Step 4:AG
AG = 138 − (106 + 14) = 18(正常 8〜12)→ AG 開大型代謝性アシドーシス。慢性腎不全の尿毒素蓄積が原因として矛盾しない。
4まとめ
✅ AG開大型代謝性アシドーシス(慢性腎不全)。代償は適切。混合性なし。

代償が「外れている」例

同じ患者が翌日、嘔吐を繰り返す。
pH 7.40 / PaCO₂ 46 / HCO₃⁻ 28
5何がおかしい?
HCO₃⁻ = 28↑ → 代謝性アルカローシスの方向。Winters式で代謝性アシドーシスを期待すると、代わりに HCO₃⁻ 上昇が目立つ。PaCO₂ = 46 → 代謝性アシドーシスへの呼吸代償がない。

⚠️ 代謝性アシドーシス(腎不全) + 代謝性アルカローシス(嘔吐によるHCl喪失)の混合。pH が正常域に見えても、2つのプロセスが拮抗している。
この章の要点
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